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第五章
83 聖女と賢者の舞(☆)
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「なんて綺麗な場所なんだろう……!」
泉の輝きと、一面に広がる花の鮮やかさ。
美しい光景に感激したヒナリが辺りを見回していると、背後から聖騎士団長ヘルッタの声が聞こえてきた。
「兵の展開、完了しました」
聖騎士の報告に、アルトゥールが無言で頷いて応える。
敬礼したヘルッタはヒナリたちに背を向けると、少し離れたところまで移動して辺りを警戒し始めた。魔鉱石が集中する土地であっても魔物の姿が見当たらないのは、余剰魔力が水に吸収されているためと言われているらしい。
そう説明を受けていたヒナリは、裸に厚手のガウンのみを着るという無防備な格好をしていた。元々服を脱ぐ予定だったため、ダリオも同じく薄着だった。
屋外であることに若干気おくれしつつもヒナリがガウンを脱ごうとした矢先、ベルトランが声を掛けてきた。
「ダリオ、飲むだけ飲んでみたら?」
「……そうだね」
魔力を取り戻すための初期案を試してみろということだろう。ダリオは水辺に膝を突くと、透き通った水をすくって口を付けた。途端にわずかだけ目を見開く。
「美味しい……。ヒナリも飲んでみて」
「うん」
ダリオの隣にしゃがみ込み、澄み渡った水を手のひらですくい取って口に含んでみる。ひんやりとした水は魔力が溶け出しているからなのか、仄かに甘い気がした。
「ホントだ、美味しいね」
ヒナリがダリオに笑顔で頷いてみせていると、またベルトランが話し掛けてきた。
「魔眼はどう?」
「やはり、飲むだけでは……」
光の消えた瞳が、視線を落とす。
沈みゆくダリオの心を励ますべくヒナリはその場に勢いよく立ち上がると、ガウンを脱ぎ捨てた。
全裸になった恥ずかしさを意識しないようにしつつ、ダリオに満面の笑みを浮かべてみせる。
「行こう、ダリオ」
全裸になったヒナリに続いてダリオもガウンを脱ぎ捨てる。ダリオの裸は儀式の際と風呂場で見たことがあったが、陽光に晒された肌はことさら白く見えた。
ガウンを脱いだダリオと手を取り合い、泉に踏み出す。
繋ぎ合わせた手は、ひどく震えていた。
握る手に力を込める。
「大丈夫、ダリオの魔力、必ず取り戻せるよ」
「うん。ありがとうヒナリ」
目を見合わせて笑みを浮かべると、ふたり揃って正面を向いた。
水の冷たさに足が覆われゆく中、一歩一歩、慎重に歩を進めていく。
(ダリオと一緒に水に漬かって、それからどんな風に舞えば、女神様に楽しんでもらえるかな)
【舞う】という言葉から舞踏会のときのことを思い出しつつ足元を見ていると、
「ふたりとも、この泉って急に深くなるから気を付けて」
「えっ? きゃあっ!」
「うわっ」
ベルトランの声掛けは一足遅かった。ふたりがもう一歩踏み出した先には底がなく――。
一気に体が沈んでいく。しかしダリオが手を繋いでくれているせいか、不思議と怖さはなかった。
水面を背負って漂うダリオは、逆光を浴びて輪郭が光に縁取られている。
(綺麗……)
腕を引き寄せ合い、ぎゅっと抱き締め合う。今までベッドの上であれば何度も抱き合ってきたが、水に漂いながらというのは当然経験がなく、ぎゅっとダリオに抱き付いて、初めて味わう肌の感触を確かめる。
(こうして漂ってても、踊ってる風に見えるかな)
と心の中で呟いた直後。
一旦離れたダリオが、ひとりだけ沈んでいく。慌てて手を差し伸べてもダリオはその手はつかまずヒナリの腰にすがり付き、かと思えば手のひらで胸の膨らみを撫で上げていき――。
(っ……!)
ヒナリの胸の先端を口に含んだ。舌でそこを丹念に撫で回してから、まるで乳を欲しがる赤子のように強く吸い上げる。そしてまた、儀式のときのように繰り返し弾き出す。
「――! ――!」
突然の快感に息が洩れそうになり、咄嗟に口を押さえる。予想だにしなかった感覚に襲われて身体中がびくびくと震え上がり、足がひとりでに水を蹴る。
すると今度は藻掻いた足の間に手が滑り込んできた。指先が股を探り始める。秘所に押し当てられた人差し指がそこを指先で細かく引っ掻き出す。水の中での愛撫は遠慮がなく、花弁に指を埋め込んで指先を震わせたり、少し力を抜いて花弁全体を弄んだりと、様々な触り方をしてきた。
ヒナリが腰をひくつかせるうちに、人差し指を埋めるような強さで押し当ててきて、機械のようにかりかりと一定のペースで引っ掻き出した。
甘くも強い刺激が腹の底を痺れさせていき、無意識のうちに指を求める角度を取ろうとしてしまい、腰が独りでに前後に揺らぐ。
胸の突端はずっと舌で弄り倒されっぱなしで、二箇所から送り込まれる快感にただただ夢中にさせられる。体が快楽を求めてダリオをぎゅっと抱き締める。息を止めていなければならないのに、声が出そうになる。
しかし、もっとずっと触り続けて欲しいという気持ちは窒息感に押しやられていった。
(もう息が持たないよ……!)
ダリオの肩を必死に叩く。
するとすぐさまダリオがヒナリの胸から顔を上げた。股からも手を抜いて尻に添え、ヒナリに抱き付いたまま水をひと蹴りする。
ダリオに押し上げてもらい、ヒナリは水面から顔を出した。
「っはー! 苦しっ……!」
必死で肩で息をする。鼓動が鼓膜を叩く。
全身で呼吸を繰り返し、若干呼吸が落ち着いてきてほっと胸を撫で下ろしていると、ダリオが呆然とヒナリを見つめていることに気が付いた。
「ダリオ?」
「……見える……」
「――!」
「君のオーラが、見える……!」
赤い瞳が、瞬く間に涙に覆われていく。
「背中の聖紋も輝いてるよ」
水辺からベルトランが呼び掛けてきた。
すぐさまダリオに後ろを向いてもらい、背中を確認する。羽のような紋様は、淡い光を放っていた。
「よかった……! よかったよお、ダリオ……!」
背後からぎゅっと抱き付く。
ダリオがヒナリの腕に指を滑らせて、濡れた髪に頬擦りしてきた。
「ありがとう、ヒナリ。君のお陰だ」
「私、何もしてないよ。ダリオ自身が頑張って取り戻したんだよ」
「僕らふたりで取り戻した。そうだろう?」
「……! うん、うん! 私たちふたりでダリオの魔力を取り戻したんだね! 本当に、本当に良かった……!」
何度も抱き付き直して淡緑色の髪に頬擦りする。ヒナリは足の届かない深さで沈まぬように、ばしゃばしゃと水面を波立たせながら、ダリオと共に笑い声を泉に響かせたのだった。
水から上がると、ベルトランが今まで見たことのない、にんまり顔をしていた。ヒナリにバスローブを羽織らせながら、浮き浮きと問い掛けてくる。
「水の中で何してたのー? 詳しく聞きたいな♪」
「それは内緒……」
「ヒナリに愛撫した。指までは入れられなかったけれど」
「――!」
さらっと答えたダリオのあけすけさに、水で冷えた肌が一瞬で燃え上がる。
「なんで言っちゃうの!?」
「貴重な情報は共有すべきだから」
「そうだけど!」
バスローブの腰帯を結い終えたダリオが、困った風な笑みを浮かべる。
「ごめん、ヒナリ。許されるならば僕らだけの秘密にしたかった。でも将来、後世の聖女様と賢者たちが同じ困難に遭ってしまったときのために、対処法は言葉にして残しておいてあげたい」
「そ、そうだね。おっしゃる通りだよ……」
反論の余地もない。
ヒナリが羞恥に言葉を濁す横で、ベルトランがにやりとした。
「実は全部見えてたけどね。ここの水、透明度が高いから」
「えっ!」
「ヒナリの舞い踊る姿、とても可愛かったよ」
「うう……」
両手で顔を覆って項垂れる。
直後、クレイグの咳払いが聞こえてきた。
「ま、まあとにかくこの結果からして、先ほどの行為で女神様を楽しませるという条件を満たしたと判断できますね」
動揺を滲ませる声に顔を上げる。すると、ヒナリとダリオの行為を見たせいかクレイグは頬がすっかり紅潮していた。眼鏡を上げ直す仕草で赤面を隠そうとする。
その発言に視線を向けたダリオが、額に掛かった濡れ髪を指先で払いながら、淡々と語り始めた。
「僕、思ったんだけど。クレイグ、君に与えられた恩赦も、こういう理屈だったのかなって」
「なっ……!」
クレイグが身じろぎしながら短く叫ぶ。それと同時に、その場に居る他の全員がダリオの発言に瞠目した。
魔法薬の試験中にヒナリを卒倒させた罪により捕らえられたクレイグは、これで最後だからと牢屋の中でヒナリと深く口付けを交わし、ヒナリに愛撫まで施していた。
ダリオの解釈に、ヒナリはぽかんと口を開けずにはいられなかった。
「あのときも、女神様を楽しませることができたから許してもらえた、ってこと……!?」
「きっとそういうことなんだと思う」
ヒナリは、軽く頷いたダリオから視線をずらして張本人のクレイグを見た。その顔は耳まで真っ赤になっている。眼鏡の下に両手を差し込んで、顔を覆い隠している。
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