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第五章
84 心温まる祝宴
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クレイグが赤面を隠そうとする仕草に、ヒナリは思わずにやけそうになってしまった。しかし今話題にしている過去の出来事は、笑いながら語るような内容ではない――投獄されたクレイグが二度とヒナリの元に戻って来られないかも知れないという事態は、ダリオの魔眼が発動しなくなったことと同じくらい深刻な事件だった。
当時、切羽詰まったクレイグのヒナリを欲する行動が、偶然にも良い結果をもたらしたなんて――ヒナリが改めて驚きを覚えていると、クレイグが手の中で弱々しく呟いた。
「あのときの私の行動について、掘り起こすのはやめていただきたい……」
「ごめん、君をからかいたかったわけではないんだ。ただ二つの出来事に共通項を見出せて、ヒナリの立てた説がより補強されたなと思ったから」
「ええ、理解はしています。ですが、自分で自分のしでかしたことを冷静に思い起こすには、まだ時間が経っていないといいますか……」
「うん。今すべき話じゃなかった。本当にごめん」
視界を覆い隠しているクレイグに向かってダリオが神妙な面持ちで頭を下げる。クレイグはまだ恥ずかしがっているらしく、その場で一同に背を向けてから手を下ろすと、深く溜め息をついた。
直後、クレイグに向けられている視線を集めるかのように、アルトゥールがやや大きめの声で話題を元に戻した。
「とにかく、実に素晴らしい結果となったな。ヒナリ、その節は不敬だと責めてしまって本当に申し訳ない」
「ううん、気にしないで。私も確信があったわけではなかったもの」
その場に居るクレイグ以外の全員が、安堵の笑みを浮かべる。
こうしてダリオに魔力を取り戻させる試みは、成功裏に終わったのだった。
◇◇◆◇◇
オークレール邸の晩餐室には、ヒナリと四人の賢者、ベルトランの両親、さらにはベルトランの兄弟それぞれの一家がダリオの快気祝いに駆け付けていた。
「賢者ダリオ様、ご快癒おめでとうございます」
ベルトランの父、アベラール・オークレール公爵が、一同を代表してダリオに祝いの言葉を掛ける。
続いてヒナリの隣で立ち上がったダリオが、集まったひとりひとりを眺め渡して笑顔を輝かせた。
「皆様の温かいご配慮に、心より御礼申し上げます」
乾杯、とダリオが杯を掲げ、続けて一同が一斉にグラスを掲げる。それを合図にパーティーが始まった。
ベルトランの甥っ子と姪っ子たちが、食事を早々に終えると思い思いにはしゃぎ出した。笑い声が絶えない雰囲気に胸が躍る。
アルトゥールが子供達にせがまれて、高く抱き上げるどころか軽く投げ上げては悲鳴に近い笑い声を上げさせている。
ベルトランは、ソファーで子供たちに何かお話を聞かせてあげているようだ。皆真剣な顔をして、ベルトラン叔父様を見つめている。
別のソファーに座るクレイグは、水の入ったグラスと紙を使って化学実験らしきものを子供たちに披露していた。紙で蓋をしたグラスを逆さにし、持ち上げてみせても水がこぼれ落ちない。魔法のような現象に、子供たちが目を輝かせる。
クレイグは子供は苦手かと思っていたのに、実はそうでもないらしい。
ヒナリが美味しい肉と野菜料理の数々を堪能し、絞りたてのジュースを味わっていると、不意にテーブルの下で手を握られた。
「ヒナリ」
「なあに? ダリオ」
「こんなにも喜びのオーラに満ちあふれている光栄、初めて見た」
「うん」
「オーラを見ないようにする技術を身に付ける前は、『なぜ僕の目はこんなものが見えてしまうんだろう』と苦しく思っていた。でも今は、オーラが見えるからこそ、より一層幸せを感じられるんだなってありがたく思う。ヒナリ、本当にありがとう」
「うん。一緒にあなたの魔力を取り戻せて、本当に良かった」
テーブルの下で繋いだ手が、次第に指を絡ませ合い、どちらからともなく強く握る。手のひらにダリオのぬくもりを感じる中、ヒナリは皆の幸せそうな笑顔を眺め続けたのだった。
◇◇◆◇◇
カーテンの隙間からわずかだけ光の差し込む密室で、悪趣味な派手さの椅子に座った男が酒のグラスを揺らめかす。
「まったく、あの娘は余計な真似をしてくれたものだ。私の命令だと偽り、こちらの手駒を勝手に利用するとは。計画が狂ってしまったではないか」
酒を飲み干し、空になったグラスを書斎机に叩き付ける。
「もはや奴の利用価値は皆無だな。次に動けるようなり次第、使い潰してしまえ」
「畏まりました」
がたいのいい男とローブ姿の老人はばらばらに頭を下げると、厳重に閉ざされた部屋を後にした。
◇◇◆◇◇
ヒナリとダリオが誘拐されたあと、レイチェルは謹慎を命じられていたという。事情を知らなかったとはいえ、聖女と賢者を誘拐犯の元へと誘導したというのが罰せられた理由である。
ヒナリはそれを、ダリオが回復後に邸宅に戻った際に聞かされたのだった。
ダリオの騒動から数週間後、レイチェルが謹慎から明けてヒナリの元に戻ってきた。
「聖女ヒナリ様、この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。本当に、申し訳ございませんでした」
「ううん、レイチェルは何も知らなかったんでしょう? また今日からよろしくね」
ヒナリが微笑み掛けると、レイチェルは暗い面持ちでゆっくりと頭を下げたのだった。
◇◇◆◇◇
メイドがふたり体制に戻った日の朝、ヒナリが自室で身支度をしている最中のこと。
鏡の中のメイドたちを眺めているうちに、ふとあることに気付いた。
「そういえば今さらなんだけど。私、ふたりのことについて全然尋ねたことがなかったね」
鏡越しにミュリエルが視線を返してくる。
「私たちのこと、ですか?」
「うん。ミュリエルもレイチェルも、メイドになる前はどうしてたのかなって。ずっと一緒に居るのに、ふたりのことを全然知らないのもちょっと寂しい気がして」
なるほど、と数回小さく頷いたミュリエルが淡々と語り出す。
「私はシュネインゼル辺境領生まれで幼い頃に両親を亡くし孤児となったのですが、遊学中の神官様に運良く拾っていただき、王都の神殿孤児院で育ちました」
「あ、そうなんだ……」
いつも顔を会わせるメイドがそんな過酷な生い立ちだったと知らされて、心を痛めずにはいられない。
思い出したくもないことをしゃべらせてしまったかもとヒナリが沈み始めた矢先、鏡の中のミュリエルが温かな笑みを浮かべた。
「神殿孤児院では本当にとても良くしていただけたので、心身ともに健やかに成長できたと自負しております。神殿孤児院は、望めば学びたいだけ学ばせていただけますし、鍛えたいだけ鍛えさせていただける、恵まれた環境なのです。聖騎士団長のヘルッタ様も、神殿孤児院出身なのですよ」
「え、そうだったんだ!」
「はい。ヘルッタ様は、神殿騎士団に入団後も頻繁に孤児院を慰問してくださり、今でもご自身の報酬のほとんどを神殿孤児院に寄付してくださっている無私の御方なのです」
「わ……ヘルッタさんって本当にすごいんだね」
「ええ。私たち神殿孤児院出身者の誇りです」
そう言ってミュリエルが目を輝かせた。
その表情を見て温かな気持ちになったヒナリはミュリエルに笑みを返すと、続いてレイチェルに視線を移した。
「レイチェルは?」
「はい。私もミュリエルと同じくシュネインゼル辺境領出身でして」
「あ、そうだったんだ!」
「ええ。家族は父と、妹と弟がおります。……このようなことをヒナリ様にお聞かせするのは恐縮ですが、妹は重い病気を患っておりまして、実家で闘病生活を送っているところです」
「そうなんだ。それは大変だね……。妹さん、病院には入院しなくて大丈夫なの?」
「シュネインゼル辺境領には妹の病気の治療をおこなえる施設がありません。かと言って、他領や王都の病院までの移動に耐えられる体力もございませんので……」
「そっか。そんなに重い病気なんだね」
レイチェルにもミュリエルとはまた違った深刻な事情があると知り、胸が痛む。
「レイチェル、妹さんに会えなくて寂しいでしょう。お休みが取れたら会いに行ける?」
「辺境領は遠いので、往復するだけでも長期間お休みを頂くことになってしまいます。それ以前に、聖女様そして賢者様がたにお仕えする者は皆、完全浄化まで帰郷できぬことを承知の上で勤めさせていただいておりますので、ご心配には及びません」
「そうなんだ。でも寂しいものは寂しいよね……妹さん、心配だね」
完全浄化を早めるために頑張らないと――と言おうとしたところでヒナリは思い留まった。それはすなわち、先代聖女のように賢者とおこなう儀式――性行為の回数を、尋常でない回数に増やしていきたいと宣言することに他ならないからである。
ヒナリ自身の力ではレイチェルを妹に会いに行かせてあげる方法がないと分かり、寄り添う言葉を言いあぐねていると、レイチェルが鏡越しにヒナリと目を合わせてわずかに顔を綻ばせた。
「お心遣いに感謝します、ヒナリ様。家族とは頻繁に手紙をやり取りしておりますので、寂しさを感じたことはございません」
「そっか。いつも良くしてくれて本当にありがとう。これからもよろしくね」
「はい……誠心誠意、勤めさせていただきます」
ヒナリが笑顔を返すと、レイチェルが目を伏せて頭を下げた。
話が一段落し、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「ところでレイチェル、今日ちょっと顔色が悪いみたい? 妹さんのことを無理に聞き出しちゃってごめん」
「いえ、とんでもない! 話を聞いていただけて嬉しかったです。ただ、最近少し寝不足でして」
「そうなんだ。あまり無理しないでね」
「ありがとうございます」
レイチェルは謹慎が明けたばかりだ。謹慎中は、仕事自体はしていなかったとはいえ心労は溜まったことだろう。寝不足になるのも無理はない。
そう思い巡らすヒナリの長い髪をミュリエルが毛先から丹念に梳かしていく間、レイチェルがどこからかペンダントを取り出した。
当時、切羽詰まったクレイグのヒナリを欲する行動が、偶然にも良い結果をもたらしたなんて――ヒナリが改めて驚きを覚えていると、クレイグが手の中で弱々しく呟いた。
「あのときの私の行動について、掘り起こすのはやめていただきたい……」
「ごめん、君をからかいたかったわけではないんだ。ただ二つの出来事に共通項を見出せて、ヒナリの立てた説がより補強されたなと思ったから」
「ええ、理解はしています。ですが、自分で自分のしでかしたことを冷静に思い起こすには、まだ時間が経っていないといいますか……」
「うん。今すべき話じゃなかった。本当にごめん」
視界を覆い隠しているクレイグに向かってダリオが神妙な面持ちで頭を下げる。クレイグはまだ恥ずかしがっているらしく、その場で一同に背を向けてから手を下ろすと、深く溜め息をついた。
直後、クレイグに向けられている視線を集めるかのように、アルトゥールがやや大きめの声で話題を元に戻した。
「とにかく、実に素晴らしい結果となったな。ヒナリ、その節は不敬だと責めてしまって本当に申し訳ない」
「ううん、気にしないで。私も確信があったわけではなかったもの」
その場に居るクレイグ以外の全員が、安堵の笑みを浮かべる。
こうしてダリオに魔力を取り戻させる試みは、成功裏に終わったのだった。
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「賢者ダリオ様、ご快癒おめでとうございます」
ベルトランの父、アベラール・オークレール公爵が、一同を代表してダリオに祝いの言葉を掛ける。
続いてヒナリの隣で立ち上がったダリオが、集まったひとりひとりを眺め渡して笑顔を輝かせた。
「皆様の温かいご配慮に、心より御礼申し上げます」
乾杯、とダリオが杯を掲げ、続けて一同が一斉にグラスを掲げる。それを合図にパーティーが始まった。
ベルトランの甥っ子と姪っ子たちが、食事を早々に終えると思い思いにはしゃぎ出した。笑い声が絶えない雰囲気に胸が躍る。
アルトゥールが子供達にせがまれて、高く抱き上げるどころか軽く投げ上げては悲鳴に近い笑い声を上げさせている。
ベルトランは、ソファーで子供たちに何かお話を聞かせてあげているようだ。皆真剣な顔をして、ベルトラン叔父様を見つめている。
別のソファーに座るクレイグは、水の入ったグラスと紙を使って化学実験らしきものを子供たちに披露していた。紙で蓋をしたグラスを逆さにし、持ち上げてみせても水がこぼれ落ちない。魔法のような現象に、子供たちが目を輝かせる。
クレイグは子供は苦手かと思っていたのに、実はそうでもないらしい。
ヒナリが美味しい肉と野菜料理の数々を堪能し、絞りたてのジュースを味わっていると、不意にテーブルの下で手を握られた。
「ヒナリ」
「なあに? ダリオ」
「こんなにも喜びのオーラに満ちあふれている光栄、初めて見た」
「うん」
「オーラを見ないようにする技術を身に付ける前は、『なぜ僕の目はこんなものが見えてしまうんだろう』と苦しく思っていた。でも今は、オーラが見えるからこそ、より一層幸せを感じられるんだなってありがたく思う。ヒナリ、本当にありがとう」
「うん。一緒にあなたの魔力を取り戻せて、本当に良かった」
テーブルの下で繋いだ手が、次第に指を絡ませ合い、どちらからともなく強く握る。手のひらにダリオのぬくもりを感じる中、ヒナリは皆の幸せそうな笑顔を眺め続けたのだった。
◇◇◆◇◇
カーテンの隙間からわずかだけ光の差し込む密室で、悪趣味な派手さの椅子に座った男が酒のグラスを揺らめかす。
「まったく、あの娘は余計な真似をしてくれたものだ。私の命令だと偽り、こちらの手駒を勝手に利用するとは。計画が狂ってしまったではないか」
酒を飲み干し、空になったグラスを書斎机に叩き付ける。
「もはや奴の利用価値は皆無だな。次に動けるようなり次第、使い潰してしまえ」
「畏まりました」
がたいのいい男とローブ姿の老人はばらばらに頭を下げると、厳重に閉ざされた部屋を後にした。
◇◇◆◇◇
ヒナリとダリオが誘拐されたあと、レイチェルは謹慎を命じられていたという。事情を知らなかったとはいえ、聖女と賢者を誘拐犯の元へと誘導したというのが罰せられた理由である。
ヒナリはそれを、ダリオが回復後に邸宅に戻った際に聞かされたのだった。
ダリオの騒動から数週間後、レイチェルが謹慎から明けてヒナリの元に戻ってきた。
「聖女ヒナリ様、この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。本当に、申し訳ございませんでした」
「ううん、レイチェルは何も知らなかったんでしょう? また今日からよろしくね」
ヒナリが微笑み掛けると、レイチェルは暗い面持ちでゆっくりと頭を下げたのだった。
◇◇◆◇◇
メイドがふたり体制に戻った日の朝、ヒナリが自室で身支度をしている最中のこと。
鏡の中のメイドたちを眺めているうちに、ふとあることに気付いた。
「そういえば今さらなんだけど。私、ふたりのことについて全然尋ねたことがなかったね」
鏡越しにミュリエルが視線を返してくる。
「私たちのこと、ですか?」
「うん。ミュリエルもレイチェルも、メイドになる前はどうしてたのかなって。ずっと一緒に居るのに、ふたりのことを全然知らないのもちょっと寂しい気がして」
なるほど、と数回小さく頷いたミュリエルが淡々と語り出す。
「私はシュネインゼル辺境領生まれで幼い頃に両親を亡くし孤児となったのですが、遊学中の神官様に運良く拾っていただき、王都の神殿孤児院で育ちました」
「あ、そうなんだ……」
いつも顔を会わせるメイドがそんな過酷な生い立ちだったと知らされて、心を痛めずにはいられない。
思い出したくもないことをしゃべらせてしまったかもとヒナリが沈み始めた矢先、鏡の中のミュリエルが温かな笑みを浮かべた。
「神殿孤児院では本当にとても良くしていただけたので、心身ともに健やかに成長できたと自負しております。神殿孤児院は、望めば学びたいだけ学ばせていただけますし、鍛えたいだけ鍛えさせていただける、恵まれた環境なのです。聖騎士団長のヘルッタ様も、神殿孤児院出身なのですよ」
「え、そうだったんだ!」
「はい。ヘルッタ様は、神殿騎士団に入団後も頻繁に孤児院を慰問してくださり、今でもご自身の報酬のほとんどを神殿孤児院に寄付してくださっている無私の御方なのです」
「わ……ヘルッタさんって本当にすごいんだね」
「ええ。私たち神殿孤児院出身者の誇りです」
そう言ってミュリエルが目を輝かせた。
その表情を見て温かな気持ちになったヒナリはミュリエルに笑みを返すと、続いてレイチェルに視線を移した。
「レイチェルは?」
「はい。私もミュリエルと同じくシュネインゼル辺境領出身でして」
「あ、そうだったんだ!」
「ええ。家族は父と、妹と弟がおります。……このようなことをヒナリ様にお聞かせするのは恐縮ですが、妹は重い病気を患っておりまして、実家で闘病生活を送っているところです」
「そうなんだ。それは大変だね……。妹さん、病院には入院しなくて大丈夫なの?」
「シュネインゼル辺境領には妹の病気の治療をおこなえる施設がありません。かと言って、他領や王都の病院までの移動に耐えられる体力もございませんので……」
「そっか。そんなに重い病気なんだね」
レイチェルにもミュリエルとはまた違った深刻な事情があると知り、胸が痛む。
「レイチェル、妹さんに会えなくて寂しいでしょう。お休みが取れたら会いに行ける?」
「辺境領は遠いので、往復するだけでも長期間お休みを頂くことになってしまいます。それ以前に、聖女様そして賢者様がたにお仕えする者は皆、完全浄化まで帰郷できぬことを承知の上で勤めさせていただいておりますので、ご心配には及びません」
「そうなんだ。でも寂しいものは寂しいよね……妹さん、心配だね」
完全浄化を早めるために頑張らないと――と言おうとしたところでヒナリは思い留まった。それはすなわち、先代聖女のように賢者とおこなう儀式――性行為の回数を、尋常でない回数に増やしていきたいと宣言することに他ならないからである。
ヒナリ自身の力ではレイチェルを妹に会いに行かせてあげる方法がないと分かり、寄り添う言葉を言いあぐねていると、レイチェルが鏡越しにヒナリと目を合わせてわずかに顔を綻ばせた。
「お心遣いに感謝します、ヒナリ様。家族とは頻繁に手紙をやり取りしておりますので、寂しさを感じたことはございません」
「そっか。いつも良くしてくれて本当にありがとう。これからもよろしくね」
「はい……誠心誠意、勤めさせていただきます」
ヒナリが笑顔を返すと、レイチェルが目を伏せて頭を下げた。
話が一段落し、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「ところでレイチェル、今日ちょっと顔色が悪いみたい? 妹さんのことを無理に聞き出しちゃってごめん」
「いえ、とんでもない! 話を聞いていただけて嬉しかったです。ただ、最近少し寝不足でして」
「そうなんだ。あまり無理しないでね」
「ありがとうございます」
レイチェルは謹慎が明けたばかりだ。謹慎中は、仕事自体はしていなかったとはいえ心労は溜まったことだろう。寝不足になるのも無理はない。
そう思い巡らすヒナリの長い髪をミュリエルが毛先から丹念に梳かしていく間、レイチェルがどこからかペンダントを取り出した。
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