【完結】その手を放してください~イケメンの幼馴染だからって、恋に落ちるとはかぎらない~

紺青

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18 エピローグ ~あなたと見る風景~

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 『この村にあんたが必要なかったんじゃない。この村が、あんたに似合わなかっただけ』
 昔、ヤクばあちゃんに言われた言葉がようやく、腑に落ちるようになった。

 王都に来たばかりの頃は焦りと不安に押しつぶされそうで、日々の事や仕事を軌道に乗せることばかり考えて、なにも見えていなかった。

 でも、生活も仕事も落ち着いて、サイラスとお互いの想いを確認して、結婚して、やっと物事を俯瞰して見られるようになった。

 王都には色々な人種がいて、背の大きい人もいれば小さい人もいる。髪や瞳や肌の色もさまざまだ。村では蔑まれたルナだが、王都では美しいかわいいとよく言われる。

 ダレンにも村人にも家族にも『魔女とつるんで、草遊びしている』と馬鹿にされていたが、ルナの卸す薬やポーションは品質が良いみたいで、高値で取引されている。

 自己肯定感の低かったルナも、溺れそうなほどたぷたぷなサイラスの愛と、周りからの評価に、だんだんと自分に自信が持てるようになった。

 結婚してからも、目を離すとすぐに仕事をしようとするルナをサイラスはせっせと遊びに連れ出した。今日は二人のお気に入りの丘の上でピクニックをしている。

 昔、ヤクばあちゃんの小屋でお茶をしていたときと同じように甘くて、やさしい時間。
 目の前には、どこまでも青い空が広がっていて、木々や草が風に揺られている。ルナはすがすがしい空気を吸い込んだ。王都に来てやっと、ルナはゆったりと呼吸できるようになったなと思う。

 隣には相変わらず、優しくて美しいサイラスがいる。
 「ん、どうしたの? 僕の顔になんかついてる?」
 ふふふっと思わず笑みがこぼれる。

 「うーうん。幸せだなぁと思って」
 「もーあんまりじっと見つめるから、キスしたいのかと思っちゃった。王都にきてからルナはよく笑うようになったね」
 サイラスは相変わらずスキンシップが好きで、ルナの頬をなでると、キスをおとす。

 「ねー薬草茶が体にいいのはわかるし、体調によってブレンドするのもすごいと思うんだけど……ルナが作ってもやっぱり苦いね」
 ピクニックには、普段は紅茶などのお茶を持ってくる。でも、最近、仕事が忙しいサイラスのために、今日はルナのブレンドした薬草茶を選んだ。

 「んーやっぱり、薬効を高いままにするためには、こんな味になっちゃうんだよね。飲みやすくするために、ハチミツとか入れるんだけど、サイラスは甘い物苦手だしねー。うーん。とりあえず、クッキーで口直しして」
 ルナはサイラスの前にナッツの入った手作りクッキーを差し出すと、サイラスはパクリと食べる。

 「うん。相変わらずおいしい! ルナに食べさせてもらうと、さらにおいしい! もう一枚ちょーだい」
 十歳年上とは思えない夫の甘いおねだりに、ルナはもう一枚クッキーを差し出す。

 「……サイラスって本当に潔癖症なのかしら?」

 「ふふっ。なんでだろう? ルナには触れたいし、ルナの作ったものを食べたいし、ルナの頭から足の先まで食べちゃいたいっていつも思ってるよ」
 サイラスがルナの手をとって、耳元でささやく。綺麗なオッドアイで流し目で見られると、色気がふわりと漏れ出る。結婚してからサイラスは知ってか知らずか、ルナに対して色気を全開にしてくる。

 「もーサイラス、ここ外だから。変なこと言わないで!」
 ふいに毎晩サイラスに翻弄されている情景が脳裏によぎり、ルナの顔が真っ赤に染まる。

 「大丈夫大丈夫。誰も見てないし、聞いてないよ。いーじゃん新婚さんなんだから。ねー家に帰っていちゃいちゃしようよー」

 「新婚って……結婚してもう一年も経ってるじゃない……」
 ぶつぶつ反論しながらも、ルナは手早く茶器や食べ物を片付け始めた。ルナだってサイラスと過ごす甘い時間が大好きなのだ。

◇◇
 
 サイラスがピクニック道具の入った籠を片手に持ち、二人で手を繋いでのんびり帰る。
 最近、サイラスは転移の魔術を多用しなくなった。特にルナと二人の時には。一緒に過ごす移動の時間もかけがえのないものだと気づいたらしい。

 いつのまにか辺りは茜色に染まっていて、綺麗な夕焼け空が見える。

 「私ね、あの村にいた頃に夕焼けが綺麗だなぁって思ったことないの。うううん。夕焼けだけじゃなくて、青空も星空も花も。辺境の村には綺麗な自然の景色がたくさんあったのに。毎日、しんどくて、辛くて。そういう時って、どんなに綺麗な物を見ても心って動かないんだね。むしろ、綺麗なものを見ると薄汚れた自分が惨めになったりしてたの」

 ルナが夕焼けを眺めて、話し出すと、サイラスは足を止めて、静かにルナの話を聞いてくれる。

 「でもね、今は夕焼けを見て綺麗だなぁって思えるようになったの。夕焼けが綺麗で、それをサイラスと一緒に見られるのがうれしいの。そう思える自分になれたことがうれしいの」

 ほほ笑んでサイラスを見ると、思いのほか真剣な顔をしている。

 「ルナとはちょっと違うけど、僕もルナと会うまで全部が色あせて見えていたよ。夕焼けも綺麗なものもそうでないものも全部。自分を安全に保って、ただただ生きている、そんな状態だった。ルナに会って、世界が色づいたんだ。僕も今、ルナと見る夕焼けが美しいと思うし、この時間がかけがえのないものだと思うよ。もちろん、ルナのが夕焼けの何倍も何倍も綺麗だけどね」

 「ふふっ、サイラスったら」

 再び、二人はゆっくりと歩き出す。

 辺境の村にいた頃は、空が茜色に染まると、ダレンから解放されるとほっとした。それと同時に、日が暮れると、独りぼっちの家に帰らなければならないことに気持ちが落ちた。外が闇に包まれると、孤独に苛まれ、将来に絶望した。

 でも、今は茜色の空を見ると、仕事から帰ってくるサイラスに会えると気持ちが浮き立つ。一緒にごはんを食べて、ゆっくりお茶して、一緒に眠る、温かい時間のはじまりだ。夜は暗い時間ではなくて、サイラスとともに眠り、明日への夢と英気を養う時間になった。

 それは、当たり前でかけがえのない、自分が夢見た以上のとても幸せな風景だ。

◇◇

 ヤクばあちゃんに口すっぱく言われていた通り、王都に来たからってハッピーエンドでお終いなわけではなかった。

 不安や焦りに押しつぶされそうな日もある。
 サイラスと言い合いになって、ぶつかることもある。
 嫉妬したり、嫌な思いもするし、辛いこともある。
 過去の事がふいに過って、暗い気持ちに飲みこまれそうな時もある。

 それでも、ルナを縛り付けていた村や幼馴染から解放されて、そして隣にはサイラスがいる。
 それだけで、ルナは前を向いてこれからも歩いていける。サイラスと色々な風景を見ながら。

【end】
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