願い事は慎重に 向上心旺盛な双子の兄なんて持つものではない

酒原美波

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第二章 波乱含みの第二の人生

願い事は慎重に

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1.審判の間
 夢の通り、途中から長い階段が現れる。天堂翼は元の主天使に戻って、一足先に翼をはためかせて天上界へ戻っている。
 仁志は息切れも筋肉痛もない長い階段を上り切る。そこは夢でお馴染みの花園ではなく、裁判所のような場所だった。
「おい、何だよコレ!」
 そう言ったのは仁志ではなく、高志。人間界を謳歌しているかと思いきや、意外にもにも現世に未練なく、まっすぐ天上界に来たらしい。
「高志、なんですぐに来ちゃったわけ?」
 仁志は純粋に疑問を口にした。
「だって、おまえと翼(天堂)が真っすぐ上がっていくからさ。俺も遅れまいと、必死に追いかけたんだ。それが何か悪かったのか?」
「いや、まあ悪くはないんだが、一応、親とか友達に最期の別れをしてくる時間はあったはず。お前専用の監視の天使が、死んだ瞬間にそれを教えるはずだったのに、それも振り切って追いかけてきたのか。馬鹿な奴」
「愚弟に馬鹿とか言われたくないぞ!それよりここはどこだ。死んだというなら、天国じゃないのか?」
「天上界へ入る前に、お偉いさんの審判を受ける必要があるんだ。願い事を3つ、神様に告げる儀式があるんだよ。だが確実に願い事が叶うとは限らないから、願い事は慎重に。特に性別の件は必ず伝えたほうが無難だぞ。たまに、人間だったときと天上界で、魂の型によっては性別変更があるからな。人間界での行いの採点表を見比べつつ、これから僕達がそれぞれ送られる世界、コッチでいうところの適性のあった天国へ送られて、どんな暮しが相応しいか協議されるんだ」
「おまえ、ヤケに詳しいな」
「まあ、諸々の事情があってだな。天堂がここに居ないのは、アイツが特別な存在だから、審判免除になってると言ったほうが早いかな」
「なんだよ、それ。ズルいぞ!」
 高志が声を荒立てたとき、裁判長に相当する席から木槌の音がする。座ってるのは、毎晩会っていた神様だ。そんな気はしたが、別の神様の審判を受けたかったと仁志は思う。
「先ず亡くなった順で問う。TEN7021人間界出身、松島高志、享年18歳。何でも希望する本心、そなたの願い事を3つ宣言せよ」
 神様の代わりに上級天使が問う。前に天堂が言った通り、後輪は眩く輝き、広げた翼は3対ある。こんなに沢山の翼があって、飛ぶ時にどう羽を動かしたりしないか迷わないものかねぇ。まあ昔話で、ムカデに歩き方を尋ねたら、ムカデは足の動かし方を忘れてしまったというから、考えると本能が阻害されてしまうのだろう。
 いきなり問われて戸惑うも、高志は本番に強い。中高一貫校では生徒会長もやってきた。だから迷わず口にした。
「自分、松島高志が望むのは3つ。1つ、地位が高いこと。2つ、良い暮らしが出来ること。3つ、才色兼備なこと」
 咄嗟ながら、我ながら完璧な答えだと高志は思った。しかし隣で仁志が額を手で抑えている。なんか不味いこと言っただろうか?
「では次にTEN7021人間界出身、松島仁志、享年18歳。何でも希望する本心、そなたの願い事を3つ宣言せよ」
 上級天使は高志の時と同じことを問う。何となくだが、彼は智天使、つまり仁志が乳幼児のときに天上界へ帰還していたら、同僚だった天使だと思った。そのせいだろうか、上級天使は高志のときは無表情だったが、仁志を一瞥したときには瞳孔が見開き、それから一瞬だが侮蔑の視線を仁志に向けて、再び視線を神様の方へ戻した。
(上級天使のくせに、傲慢を身につけてるんじゃねぇよ。後で上官に叱られても知らないからな)
 仁志は感じの悪い上級天使に心のなかで悪態をつきながら、姿勢を正し、裁判長席の神様を見上げる。
「TEN7021人間界出身、松島仁志が宣言します。1つ、男であること。2つ、先に逝った愛犬エイジと暮らすこと。3つ、天上界で楽な生活が出来ること。以上です」
 仁志は前から考えていた願い事を淀みなく言った。それを聞いた高志がププッと笑う。
「何だよ、男であることって。大切な願い事をそんなことに使って後悔しないのか?」
 小声で高志は弟に問う。
「あのなぁ、さっきも忠告したけど、天国は生まれ変わりの場でもあるんだ。従って人間界の性別がそのまま反映されない場合も、稀あるんだよ。僕は確実に男であり続けたかったからね」
「何だって?」
 高志の顔色が見る間に青ざめる。
「嘘だよな、俺だって女になるなんて絶対に嫌だぞ!」
「まともに聞かなかった高志が悪い。稀だという話だから、たぶん平気だと思うけど、願い事があれだと、もしかするとってこともあり得なくもないかも。まあ、その時になってみないと分からないな。それと僕達は行き先が決まるまで、人間界の穢れを落とす禊をする。ほら、言ってるそばから、禊の場への扉が開いた」
 仁志は神様や数十名の審判達に向かって頭を下げ、禊の場へ向かう。慌てて高志も同じように一礼して、弟のあとを追った。

 そこは地平線の彼方まで広がる海のような温泉だった。点在する島には個人あるいはグループ用の小さな露天風呂がある。
 仁志と高志はそれぞれ簡素な入浴着を渡されて、脱衣所で着替えてから、温泉の海に入った。遠浅の温泉の海は深くても首の深さまで。仁志はまるで違和感なく手ごろな岩に座って温泉を満喫している。高志にはこの光景に違和感しか感じない。
 なにしろ青空の下で、地球上の人間より多くの男女が入浴しているのだ。しかも二十歳前後の男女のみで、子供や老人は1人もいない。
「ここ、出会い系温泉か?」
 高志は仁志の隣に座る。
「まさか。この湯に浸かると、皆が二十歳前後の健康体に変化するんだよ。年寄りは若返り、子供は急激に成長する。そして行き先が決まれば俺達も、もう会うことはないだろう」
 仁志は温泉で顔を洗う。穢れが薄い墨汁のように流れて消えていく。
「会えないって、嘘だろ?俺達、双子じゃないか!」
 高志は、弟と別れる日が来るとは想像すらしていなかった。たとえ変人でも、自分等は双子で絶対に離れることはない確信があったのだ。
「父さん、母さん、祖父さんたちが寿命を終えてコッチに来たときは、それぞれの人達と一度だけずつ面会許可が降りるけど、僕は会うつもりないよ。高志とも、ここで別れる。人間界は魂の修行場で、たまたま一緒に修行していた仲間だよ。修行が終わればお別れだ」
「そんな……」
 高志は愕然とする。そして気づく。同じ双子なのに、海に流れ出す墨色の穢れが高志と仁志では、色も違えば悪臭の有無も違うことに。穢れていたのは高志の方だった。
「俺、そんなに悪いことをしてたのか」
 腐ったような臭いが風に飛ばされて霧散する。なのに仁志からは何の臭いもしない。
「普通だろ。むしろ少ない方だ。僕の場合、ちょっと普通と違う事情から、穢れが薄めなんだ。聖人だからというわけじゃない」
「その事情って、俺にも話せないものなのか?」
「そうだな。話せば周囲にも混乱をきたすから。ただ1つ明かせることは、僕は1歳の時から自分の寿命を知っていたし、どんな死に方をするかも知っていた。だから、あの裁判長席の神様とは面識があって、早目に天上界へ来ることを何度か勧誘されていたんだ」
「1歳から、死に方を知っていた?じゃあ、あのタクシーに乗らねば、お前だけでも助かったんじゃないか!」
「そういうことになるけど、宿命をねじ曲げると、それはそれでペナルティが大きくなるんだ。審判を受ける資格もなく、強制的に過酷な場所へ送られる。だからマニュアル通りの人生を終えたわけ。それよりさ」
 仁志は複雑な顔をして、兄を見る。
「なんだ?」
 高志は、弟が急に変な顔をしだした意味が分からない。
「落ち着いて聞いてくれ。あのさ、自分の胸に両手を当ててみ」
「俺が悪いことでもしたとでも言いたいのか?」
 険悪な顔で、高志は弟を睨みつけた。
「違う。もっと深刻な、物理的なものだ。熱心に忠告しなかったこと、本当に悪いと思っている」
「え?」
 高志は「まさか」と思い当たり、両手に手をやる。入浴着の上からでも、胸の膨らみが分かる。高志は自分の下半身にも手を当てる。生まれたときからなじみ深いモノがない。絶叫が温泉の海に響き渡った。
 それからすぐに、逃げるようにして高志と仁志は、小島の露天風呂に移動した。露天風呂は周囲が花木で囲まれて、周囲から視界は遮断される。
「まあ、気を落とさずに」
 慰めの言葉は見つからない。稀なことが起こってしまった。
「落とさずにいられるか!何だよ、これ。何で俺が女に!何とか治す方法を知らないのか!」
 パニックになった高志の女性化は更に進んでおり、声も低い男性から可愛らしい女性に変わっていた。口調は相変わらず男のままだが。
「僕だって、天上界の理なんて殆ど知らないよ。天堂なら知ってるかもしれないけど、一般天上界人になった僕たちには、天堂は雲の上の存在で、会う機会は無さそうだな」
「天堂って、隣の家の翼のことだよな。あいつ、本当は何者なんだよ」
「天使。それも中級天使の中では最上位の主天使。元人間の僕たちが、本来会える身分の奴じゃないんだ」
「そんな偉い天使が、なんでおまえに引っ付いてたんだ?」
「人間界見学?」
「そんなわけないでしょう」
 花木に囲まれた少人数用の露天風呂の上から、天堂翼が降りてきた。仁志も天堂が翼を出して飛んでいるのを初めて見た。
 禊の海を管轄するのは下級天使の中でも高位にあたる権天使。だが天堂と比べると、服装や光輪の輝きが明らかに違う。
「ププッ、本当に女性化してる」
 天堂は高志を見るなり吹き出した。
 高志は怒り狂って罵詈雑言を撒き散らすが、浄化されていくごとに顔立ちも女性らしくなり、美貌が増している。体つきもスレンダーながら、出るトコは出た女性らしい体つきに変化していた。
 仁志は人間だったときと変わった様子がない。だからいま、仁志と高志が双子と言っても、全員が全員ピンとこないだろう。それどころか姉弟にさえ見えないはず。高志の顔立ちが西洋人風になっていて、髪色や瞳も淡く変化していたからだ。
「元・松島高志君には、いま2つの勧誘が来ていて、神様たちが協議しているよ。いずれも赴く天上界世界は同じトコだけど、先ず1つ目。その天上界世界の侯爵家が、娘を欲しがっている。その世界の皇帝に、いずれ属国の王となる皇子が誕生したばかりだから、高位貴族は躍起になって娘を得ようとしているからだ。だが確実に娘を得られるかは限らない。手っ取り早いのは、それなりの才能を持つ元人間の魂を核にして、侯爵夫人に宿すことだ。高志君は仁志様の双子だった経緯があり、なおかつ女性化した。核とするには、最適な人物です」
「それって、侯爵家の実子として生まれ直すってことだよな。その場合、人間だった時の記憶は残るのか?」
 仁志が尋ねると、天堂は首を横に振る。天堂にはちゃんとした天使としてのフルネームがあるが、どうせ仁志は覚える気もあるまいと、最初に会った際の自己紹介以来、本名は使わなかった。
「核となった時点で、記憶は消えます。まあ侯爵令嬢として1からやり直すには最適かと」
「嫌だー!」
 高志は絶叫を上げる。高志のパニックをよそに、天堂は話を続ける。
「2つ目。コチラは皇帝の庶子である公爵閣下の正室です。理由は、仁志様の双子だった前世由来ですね。こちらを選択すれば、人間の記憶は維持できますよ」
「俺は男に戻りたいんだ!方法があるなら教えてくれ!」
 高志は懇願する。淡くなった瞳は琥珀色が主体だがスミレ色を帯びている。もう少し浄化が進んだら、完全にヴァイオレットカラーとなるだろう。
「2度目の人間界転生は、天上界で300年過ごしたら可能となります。が、その間にその美貌からして、どちらにしろ公爵夫人か王子妃ルートは避けられそうにありませんね」
「他に方法は、本当に無いのか?」
 仁志は、これまで男性として人生を歩んできた兄がいきなり女性になって、しかも高位貴族夫人あるいは王太子妃になるという二者選択しかない状況が哀れに思えて、天堂に尋ねた。
「無いことも無いですが、この方のために仁志様がご苦労される必要もないと思います。まあ、どちらにせよ仁志様の選択肢も2つです。天上界守護総軍のどこかの軍集団で幹部となるか、魔術師となって『中州』で小塔の長になるかのどちらかとなります。まあスローライフなら、中洲の魔術師の生活の方が近いですかね。魔術師はマイペースなので、仮に小塔の長に就任しても、定期的な会議に出るか、書類に判を押す程度ですから」
「なんだよそれ!俺は一般天上界世界の、何の肩書もない平穏なノンビリ平民スローライフを希望したのに!」
「願い事が必ずしも叶えられるとは限らないと、何度も申し上げたはずですよ。仁志様の場合、天使の資格は失っても、魂に膨大な魔力を秘めておられるので、どちらにせよ平民は無理と判断が下されました。ちなみに人間界転生は、仁志様には出来ません。能力がカンストしていますから」
「天使?コイツが?」
 高志が弟を指さすと、ペシッとその指を天堂は乱暴に払い落とす。
「仁志様は選定の天使が間違えて、人間界へ送り出してしまった、本来なら私はもちろん、貴方なんて存在さすら認識されないほど、雲上のお方です。そう言えば第三の選択肢として、仁志様を智天使から熾天使に格上げして、誕生したての天上界世界丸ごとを任せる国王、つまりその天上界世界の神様にしてしまおうかという意見も、上級天使会議から続出していました」
「冗談じゃない、寒気しかないない提案だ」
 天使だって面倒くさくて御免だと思っているのに、世界を管理する神様なんて、惰眠もゲームもする暇がないじゃないか。
「たぶんお断りなさると神様もご存じでしたので、軍人幹部か、小塔の魔術師責任者かの選択になったわけで。そしてどちらかを選択して業績を上げれば、この方の性別書き換えも、申請すれば受理されるかもしれない可能性が生じるわけです。武勲を上げるほうが手っ取り早いですから、その場合は軍人を選ぶことになりますね。理想のスローライフに近いのは魔術師なので、ここはすっぱり情を捨てて、我が道を進まれても構わないと思いますよ。人間は所詮、同じ修行場にいた仲間に過ぎず、修行が完了すれば縁もゆかりも無くなるのが普通ですから」
「仁志!」
 高志は弟の腕を両手で掴んで、キラキラした目で見上げてくる。故意か意図的か、胸を腕に押し付けてくるのが気色悪い。仁志は兄の腕を振りほどき、距離をとった。
「どちらかを選ぶとなれば、スローライフ魔術師を選ぶ。軍人なんて脳筋の集まりだろ、コッチの世界は知らんが」
「おっしゃる通り脳筋ですね、間違いなく。軍人で武勲を上げるには、9つの軍集団のうち、人間界担当の人間界担当軍集団の3世界のうちのどれかに属することになります。天上界守護軍集団所属だと、仁志様の元の出自に恐れをなした元帥や将軍から、名誉だけ高い閑職に回されるでしょうから」
「人間界担当というと、天使と被らないか?」
 まあ天使と言っても、人間界担当は下級天使の役目らしいが。
「管轄が違いますから。稀に天使も人間界の鎮圧に駆り出されることがありますが、基本は人間の行いの監視役です。それに対して天上界守護総軍の役目は、天上界出身者で現状に批判的な連中の討伐となります。人間界に紛れ込んだ奴らを炙り出して討伐するのは、けっこー大変なのですよ。なにしろ人間界を壊さないが大前提となりますから」
「なら、何でお前は此処に居るんだ?」
 二度と顔を合わせないで済むと思った、身分の高い中級天使の天堂に、仁志は問いただす。
「離れがたくなったといいますか、これが情というものなのですかね。神様からも、引き続き仁志様へのサポートに徹するよう命じられたので、私はウキウキしてます」
 天堂は心底嬉しそうに言った。その綺麗な天堂の顔を殴り飛ばしてやりたい衝動を、仁志は必死で堪えた。だが、次の一言でキレた。
「今回の件、最高の解決策がありますよ。仁志様が、女性化した高志様とご結婚なさればいいのです。そうすれば、魔術師になって、グータラ生活も夢ではー」
 仁志の拳が天堂の頬にクリーンヒットしたのは、言うまでもない。

2.新たな家(お屋敷)
「頼むから、俺を男に戻してくれ!地位も名誉もいらん!普通の生活で我慢するから!」
 高志は元双子の弟に縋り付いて泣いた。仁志としては、頭で元双子の兄と分かっていても、もはや双子の面影すらない高志に抱きつかれるのはゴメンだった。それでも高志は執念で仁志に縋り付く、薄手の入浴着姿で。傍から見ると、片思い相手に必死になって、我が身を武器に誘惑しているようにしか見えない。
「分かった、降参だ!」
 仁志は悲鳴を上げた。天使の天堂、歓喜。
「なら中洲の魔術師スローライフじゃなくて、バリバリ軍人の天上界守護総軍入りですね。もちろん、私も補助としてお仕えしますので、ご心配なく。主天使として、天使軍を率いた経験がここで生きますね」
「お前が憑く時点で、不安しか無いけどな。武勲を上げるために、何処へ送り込まれるやら」
 高志は本当に不安と恐怖と心配しかなかった。忙しい日常なんて、全く望んでなかったのに。これでは我慢して人間界に留まった日々も無駄になる。高志とは、天上界のセオリー通り、このまま離れてしまう選択肢もあった。どちらにせよ、天上界世界で同じ世界へ送られるのは、たとえ仲睦まじく親しい夫婦や親友でも、極めて稀だ。しかし天堂の余計な工作によって、仁志は高志から離れられずにいた。

 そして天堂から、赴任先が告げられた。天上界守護総軍の第6軍集団世界。仁志の肩書は、第108副軍団長。そして第108軍団長は、妊活休暇中のため、中級天使の天堂が特例で抜擢された。神様に裏で手を回してもらったのと、第6軍集団の活動拠点が主に人間界にあるからだった。
「無理だ。僕は剣術はもちろん、弓も魔術も使えないのに、なんで副軍団長なんて、大層な肩書き背負う羽目になるんだよ!」
 仁志は頭を掻きむしる。彼の魂浄化はとっくの昔に終わっていたので、本来ならどこでも望む天上界世界へ転生することが出来た。
 しかし、おんぶオバケと化した高志と、背後霊のような天堂のせいで、『浄化の泉の世界』で足止めを食っていた。
 仁志は生前の人間時代と全く変わらない容姿をしていたが、高志は容姿が変化し過ぎて過去の片鱗を探す方が難しかった。プラチナ・ブロンドに、ラベンダーブルーの瞳をした絶世の美女。彼は既に転生するべき世界が決まっており、正式な名前もアストリッド・ラナンキュラス侯爵令嬢となっている。

 高志はフロリア天上界世界への転生が確定しており、ラナンキュラス侯爵の娘になることも決定していた。だが選択肢が2つ残っていた。
①人間の男としての記憶を持ちながら、侯爵家の庶子として、国王の庶子だが国王が溺愛する愛息子アルバート・ワイナルト公爵の婚約者になる。
②卵子になって、ラナンキュラス侯爵の正妻の娘として改めて生まれ直し、国王の嫡子ジョージ王太子妃になる。この場合は、人間だった記憶は失われる。
 仁志は、選択肢②が天上界で暮らすには互いのためになるのではと勧めたが、男に戻りたい高志は当然ながら選択肢①を選んだ。2年間の婚約の猶予期間はあるが、結婚直前まで双子の弟の仁志と同じ屋敷で暮らせるのが最大の理由だった。我ながら、天上界でも類まれなこの美貌は、婚約者を虜にして暴走させかねない貞操の危機を憶えたからだ。
「魔術のことは、アチラに着いてから基礎的なことをお教えしましょう。大丈夫、元が上級天使になるはずだった方なので、魔術も武術もすぐにマスターしますよ。副軍団長就任まで、慣らしの期間が設けられておりますから」
 天堂はにこやかに言った。

 そして天上界守護総軍、第6軍集団世界へ仁志は元兄の高志と、元友人の中級天使と共に旅立った。
 軍人になるにあたって、仁志も正式な天上界戸籍の名前が与えられた。本来、軍人は自分の名乗りたい名前が採用されると聞いていたのに、誰がつけたか知らないが、仁志の名前はジャスティル・ブライト伯爵なんて大層な名前がつけられていた。
 そして天堂翼の天上界ネームも、判明する。天使に苗字にあたるファミリーネームは必要ないが、軍団長代理として、侯爵の爵位と共に、エルグランド・ソードブレインと名乗ることになった。容姿は中性的な美貌、天使に多い金髪とブルーアイ。
 高志といい、天堂といい、貴族らしい外見だ。仁志は自分の容姿に不満はないが、新たな名前と爵位を拒絶したい旨は聞き入れられなかった。軍幹部は自動的に爵位を持つことが定めてられていること、名前に関しては、天使を統括する神様直々が名付けたということで拒絶できるはずもなかった。

 貴族ということで、立派なお屋敷と多くの使用人が与えられた。天堂ことソードブレイン侯爵邸とお隣同士、しかも屋敷には急遽互いの屋敷を結ぶ渡り廊下が設置され、庭園も境界を無くす年の入れようだった。
 侍女1ダースは、高志(アストリッド)の転生先実家から送られてきた。婚約期間は2年。仁志が武勲を挙げられなければ、高志(アストリッド)は、国王庶子の公爵閣下と結婚ということになる。
「なんとしても、俺を男に戻してもらうぞ。本当は自力で戻りたいところだし、仁志みたいな無気力&ヤル気ゼロの奴に命運を託すのは業腹だが。取り合えず、翼(天堂)の指示に従って、軍の仕事が始まるまでに基礎的な魔法と武術特訓は必須だからな!」
 高志(アストリッド)は、元双子の弟に命令する。願わくば自分も、下っ端でいいから軍に入りたかったが、実家のラナンキュラス侯爵家から、仁志の屋敷に結婚直前まで生活させてもう許可を得た引き換えに、花嫁修業を命じられていた。
 当初はブライト伯爵邸(仁志の家)に到着した日から、四六時中、ラナンキュラス侯爵家の侍女一行から花嫁修業を徹底されていたが、数日も経たずに鬱になった。まあ体は女性でも、心はバリバリの男に変わりはない。コルセット装着させられ、ドレスを着せられ、ダンスやさまざまな淑女作法を強いられれば、ノイローゼになるのも当然だ。 
 妥協策として週の3日は男装が許可され、仁志と共に軍人特訓を受けることになったのだがー
「嘘だろ、俺は剣道だってやってたのに」
 軍の標準的な剣さえ振るえないほど、高志(アストリッド)の筋力は落ちていたので、彼(彼女?)は愕然とした。
 一方の仁志は、基礎的な使用法を天堂から教わって直ぐ、自分でも驚くほど容易く武器全般が扱えた。
 魔術に関しても、仁志はまるで最初から使い方を知っていたかのように、容易に使うことが出来た。そして本来の魂が上級天使だっただけに、魔力量も凄まじい。ちょっと気を抜くと鍛錬場を破壊してしまう威力だった。
 魔力に関しては、高位貴族庶子の肩書きを持つ高志(アストリッド)も、相応の魔力量を持っていた。天上界では、魔力量の多さで貴族階級が決まる。侯爵家庶子の高志(アストリッド)は、潜在的に多くの魔力量を持っていた。天堂に言わせると、高志(アストリッド)の魔力量は、仁志の双子として生まれ育ったことで、本来なら普通の元人間と変わらなかったはずが、仁志の影響を受けて貴族クラスの魔力量を持つようになったのだろうとのことだった。しかし魔力量の多さと、魔術の操作はイコールではない。仁志は元々、魔術を使うセンスに優れていたが、高志(アストリッド)は基礎中の基礎から学ばねば魔術を発動することさえ出来なかった。だがそこは生来の負けず嫌いで、影で努力を重ねた高志(アストリッド)である。仁志ほどとはいかなくても、一般的な貴族令嬢よりも高い技術の魔術操作を短期間にマスターした。

 淑女の日、それは高志(アストリッド)にとっても拷問だったが、食事を同席する仁志や天堂も笑いこらえる試練に耐えねばならなかった。
 テーブルマナーは、人間界でも一通りマスターしていたが、たっぷり生地を使ったドレスの裾を汚さないように、それでいて優雅に食べるのは生まれながらの貴族令嬢ではない高志(アストリッド)には試練だった。一回の食事で必ず一度は失敗する高志(アストリッド)に、笑ってはいけないと思いつつ、仁志と天堂は口元を引き締めるのに必死だった。それなのに、にわか侯爵令嬢躾役の侍女1ダースは、仁志と天堂にも「食事中、お嬢様が会話出来るよう、積極的に会話してください」と命じるものだから、2人は噴出さないようにしながら会話しなければならない。話題の内容も、当たり障りのない天気の話なら仁志も何とか会話が成立したが、これが貴族の噂話やファッションのこととなると付いていけないので、天堂に丸投げしていた。
 仁志も伯爵位をもつ貴族だが、一般的な貴族と軍閥貴族では、会話マナーが異なる。端的に言えば、軍閥貴族の妻や娘は社交ではともかく、軍人貴族は基本的に会話マナーなど必要ないと言うことだ。

 そんなこんなでこの世界に慣れるための1ヶ月の休暇時間は過ぎて、ついに仁志と天堂が軍に出仕する日がやってきた。
「あー、吐き気がする。僕、軍人なんて柄じゃないのに」
「大丈夫ですよ。副軍団長は他にも2人いますし、いきなり任務拝命することもないでしょうから。ああ、でも将軍閣下への謁見は先ず行われるでしょうから、玉座の前で一礼して片膝をついて、あとは黙って演説聞いていれば終わりますから」
 夕食後の仁志の部屋に、当然のごとく天堂は入り込んできて、ソファに寝そべりながらアドバイスした。
「おまえ、緊張感がまるでないな。羨ましいよ」
 仁志は気を紛らわせるために、人間当時から愛用しているゲームを取り出して起動した。
「天界守護総軍と、天使軍で何度か共闘しておりますから。顔見知りも多いのですよ。第6軍集団に緊張は必要ありませんよ。これが第1軍集団の元帥直属だったら、胃薬がたっぷり必要になるでしょうが。強いてあげるとするなら、歓迎会には出てくるとは思いませんが、主に女子軍を統括するベリル副将軍の作るオートミールですかね。あの方のオートミール信仰には辟易とします。近年では美味しく改良されたオートミールも出回っているのに、昔ながらのクソまずいオートミールをミルクが成分変わってるのでは思うほどグツグツ煮たものを、皆に強制提供するのですから。朝食をベリル副将軍に誘われても、絶対に承諾しないようにすることだけは忠告しておきます」
「副将軍って、2人居るんだ」
 第6軍集団の幹部リストを見ながら、仁志は呟く。
「ええ。男女の双子で、男子もしくは混合チームはトリル副将軍管轄で、女子軍はベリル副将軍が担当しています。ベリル副将軍も、あれほどオートミールが好きなら、いっそオートミールと改名すれば良いのに。あんなのでよく結婚できたのだと言いたいとろですが、旦那も性格が大雑把な熊みたいな方ですから、味覚が退化しているのでしょう」
 なんか、酷い言い草である。だが参考になるかもしれないので、とりあえず頭の片隅に置いておいた。

3.職場
 翌日、第6軍集団を訪ねると、直ぐに謁見場へ案内された。
 正装用の軍服はサイズを計測して作られたオーダーメイドなので、着心地は悪くない。だが最近まで普段着もしくは制服を着ていた高校生が、ヒザ下まである革製ブーツを履き、マントを翻して歩くのは、コスプレしているようで気恥ずかしかった。特に正装軍服は第6軍集団のカラーが紺色のために、金糸の装飾も悪目立ちしていて、階級を示す勲章やメダルも付ける規則もある。一般軍服の兵士とすれ違う際、訝しげに見られるのがいたたまれなかった。その点、中級天使の天堂ことソードブレイン軍団長代理は、天使時代から注目浴びるのに慣れているせいか、動揺どころか泰然と歩いている。
(日頃のコイツからは想像もつかないが、もしかして凄く偉い奴なのかも?)
 仁志は改めて、天堂を見直した。

 謁見場には、第6軍集団の軍団長以上が勢揃いしていた。一体、いくつの軍団があるのか知らないが、300は軽く超えているのだろう。軍団長の正装は皆同じだが、勲章の多さで武勲の数が分かるというものだ。仁志の場合、階級を示すメダルと勲章しかなく、金糸の刺繍が目立っていることから、一目で新人もしくは無能というのが知れると言うものだ。まあ軍団長ではなく、副軍団長なのが救いだが。しかし、いずれは新たな軍団を率いる軍団長に内定しているというから、その前に除隊したい。高志(アストリッド)の婚約期限が終われば、軍人やっている意味はなくなるのだ。今度こそ余生を楽しく穏やかに過ごしたい。
 ちなみに天堂ことソードブレイン軍団長代理は、天使時代の勲章をジャラジャラうけているので、他に見劣りはしない。
 壇上の玉座に腰掛けるのは、リヴァ将軍。銀髪に赤い瞳と、人間界ならアルビノと間違えそうな白い肌をしていおり、面立ちはどちらかと言うと優しげだが、将軍やっているだけに威厳が半端ない。粗相したら、玉座の利き手側に立てかけられた大剣で、即座にぶった切られそうだ。
 一段下には青髪青い瞳の、よく似た副将軍が座っていた。貴族は階級が高いほど美貌際立つというが、確かに見惚れるほどの顔立ちだ。穏便な顔立ちの将軍と対照的に、男女の双子の副将軍はクール系の外見をしていた。
 段の下には、3人の人物が座っていた。人物図録で学んでいたので、この3人がそれぞれ何者であるかは分かっていた。
 中央に座るのは、クロウ・アルデバラン参謀長官。銀髪と青い瞳としていて、将軍と面差しが似ているのは当然な話、彼は将軍の実父だった。彼は薬師長も兼任しつつ、将軍補佐も行う非常に忙しい人らしいが、生真面目な将軍と違って、たまに軍部を抜け出して、街で遊び呆けているというから、息抜きがうまいのだろう。でなければ複数の役職持ちなんてストレスで押しつぶされるに違いない。
 右隣に座る黒髪にピンクの瞳をした優男系の青年は、ケイン・ドラム観察分析長官。実態はスパイたちを統率をする、自身も凄腕のスパイだ。綺麗な顔立ちも、潜伏の際には老若男女に完璧に化けるという達人らしい。この人に高志(アストリッド)に淑女教育任せたら、飛躍的に双子の元兄はレデイに進化するかもしれないなと、仁志は密かに思う。
 そして左隣に座る、男性ながらハッとするほど見目麗しい人物は、天堂が悪食の熊と評していた人だ。赤い髪に灰色の瞳をした、ダラン・フェイク魔術師長。妻のベリルと苗字が異なるのは、公私に一線を引くためであり、ベリルとダランの戸籍上の苗字はローズシエル侯爵だという、なんともややこしい夫婦だ。軍部で異なる苗字を使っていることから、かなりの数の部下が2人が夫婦であることを知らないらしい。そしてこのフェイク魔術師長、魔術の腕も長けているが、武術も相当なもので、特に大斧で敵を縦半分にぶった斬るのを得意としているという。
(なんで力技使う人が魔術師なんだか。この人も脳筋なのかな?)
 仁志は第6軍集団の役職人物図録を見た時、見た目の素晴らしさと経歴および性格とのギャップに困惑した。そして本物を見て改めて、綺麗だが本能的に「怖い」と思った。極力近寄りたくないというのが本音だ。

 そして第108軍団長代理のエルグランド・ソードブレインと、副軍団長に就任したジャスティル・ブライト(仁志)が紹介された。
 仁志は天堂の忠告通り、最敬礼の後、玉座の前、3人の役職持ちの目の前に片膝をついて頭を垂れた。
 リヴァ将軍は端的に就任祝いを述べた。双子の副将軍も簡単な祝辞を贈った。だがアルデバラン参謀長官は、簡単には話を終わらせなかった。
「フロリア天上界世界の侯爵令嬢になった元双子の兄のために、気楽な中州の魔術師になるのを諦めて、危険な任務を気性の荒い部下を率いて武勲を上げて、元兄を男に戻そうとは殊勝な心がけ。そこまで大切な相手なら、いっそおぬしが妻に迎えてしまえば解決するでないか」
 楽しげに目の前で語りかけてくるアルデバラン参謀長官の言葉に、仁志は震え上がった。高志(アストリッド)は確かに美人だ。しかしゲームの中の2次元美少女推しの仁志にとっては、高志(アストリッド)との結婚なんて寒気を通り越して、蕁麻疹を発症しそうだ。
「なんだ、性別を超えた恋愛かと思ったのだが。では、どうしてそこまで懸命になる?天上界へたどり着いた時点で、人間界での家族、知り合いと縁が切れるのは学んだであろうに」
 言い方は柔和だが、ナイフのような言葉をズバズバとアルデバラン参謀長官は仁志に突き刺してくる。
 頭を垂れたままやり過ごすのは無理そうだ。そして隣で膝をつく天童は救援するどころか、横目で面白がっている。仁志は歯ぎしりしながら、これは自分で何とかするしかないと意を決した。
「恐れながら、発言を許可させてください」
 仁志は顔を上げた。
「本来、我が元兄は普通の人間として生まれ、普通の人生を歩み、人間界修行を終えれば普通の天上界人に転生するはずでした。人間界と天上界の性別が異なる事例ありますが、調べたところ、魂が元来人間だった当時と性別が異なる場合にその事象は多く現れると、読んだ書物に記されてありました。元兄のことは一番近くで見てきましたが、彼は魂の性別も元から男でした。それなのに今は女性化して、しかも貴族令嬢となり、婚約まで成立しておします。この一件に、私が人間であることに固執した罪が含まれていると反省しております。正直、期限内に元兄の性別含めた運命を覆せる自信はありません。ですが、このまま放っておくのも、自身の心の傷として永遠に残りそうなので、一か八かの挑戦をしようと思った次第です」
「なるほど。上級天使に本来なるはずだったおぬしが、選別の天使のミスで人間になってしまった。だが神はそれにお気づきになり、天使に戻れる期間内に呼び戻しを毎夜行っていたと聞く。それを蹴って、人間に固執したのは何故だ?」
「グータラしたかったからです」
 仁志の言葉に、会場は呆気にとられた。
「僕は、いえ私は、根っからの面倒くさがりです。天使に戻れば、重責が待っているが分かって、そんなの背負いたくないと心底思いました。人間の記憶がなく、最初から天使として生まれていれば、そんな思考を持たずにいられたでしょうけれど、私は生き方に選択肢があることを人間界で知ってしまったのです。だから目指せ、グータラ天上界ライフを楽しみに、これまで人間修行に耐えてきました。いや、耐えるほどのこともなかっけど、寿命が尽きるその日まで、人間であることにしがみついていましたね。そして私の望みは叶うこととなりました。だけど私と同じ胎内で運悪く育って、私の影響を受けて魔力量を増してしまった元兄には理不尽な選択肢しか残されていません。元兄が男のまま天上界で転生できていたなら、どんな場所に送られようが放っておいたでしょうけど」
 仁志はありのままの心情を吐露した。まあ、これで呆れられるのは明白だが、仕方がない。本音なのだから。
 すると、将軍をはじめとする上層部から大爆笑が起きた。
「なるほどなぁ。1人で生まれていれば、いらぬ面倒に関わらずに済んだのに、双子だったのは運が悪かったな。よし、では案件が見つかり次第、そなたが功績を挙げられるような仕事を軍団へ回そう。懸命に働き、元双子の兄を助けてやれ」
 将軍は陽気に言ったが、それを聞いた仁志は言い方を間違えたと心から悔やんだ。最初は徐々に慣れていく簡単な仕事がしたかったのに!

 謁見が終わって、案内役の騎士の先導で、これから仲間となる第108軍団へ向かった。
「おまえ、なんで助力の1つもしてくれなかったんだよ」
 仁志はブー垂れて、天堂を非難する。
「私はアストリッド様(高志)が、別にそのまま侯爵令嬢として嫁いでしまっで良いと思っていたので。最初は戸惑っても、人間には順応力が備わってますから、女性としてやっていけると思ってます。仁志様が過保護すぎるんですよ。人間だった頃、散々な目に遭わされていたのだから、今度はご自身が試練を堪能なさればいいだけの話です。願い事の儀式でも、傲慢なことばかり言ってるから、それが叶ってしまっただけでしょうに」
「男であることを願えと忠告しきれなかった僕が悪い。そう言えば、エイジ(犬)と暮したいと僕はあの時願ったのに、一向に来る気配がないな。まさか転生してしまったのだろうか」
 スイスシェパードのエイジとの再会が、天上界へ来ることに楽しみでもあった。しかし一向に音沙汰がない。
「エイジ君でしたら、もうじきお屋敷へやってきますよ。貴方様のために、天上界へ昇ってから鍛錬を欠かさずにいたので、直ぐにはこれない状況になってしまったのです。でも厳しい試験にやっと合格したということなので、ようやく感動の再会が出来ますね」
「鍛錬?試験?エイジに何をやらせてた、おまえ」
 仁志は今にも掴みかからんばかりの勢いで、天童に詰め寄る。プライベートならともかく、ここは軍部。軍団長に副軍団長が掴みがかかるのは分が悪すぎる。それでも愛犬エイジのことになると、仁志は頭にのぼった血を鎮めることは出来なかった。
「エイジ君の希望ですよ。飼い主を守れる有能な番犬になりたいと言うので、助言したまでです。しかし、あの試験に合格するとは。たとえ合格はいずれ出来たとしても、あの難関試験を、仁志様がコチラへ来るまでに間に合わせるとは、思ってもみませんでした。エイジ君には感服です。淑女教育を嫌々やりながら、仁志様に八つ当たりしている迷惑な居候とは大違いですね」
 天堂としては、天上界ルールに則って、さっさと仁志から離れてしまえという憎悪を隠さずに言った。

 第108軍団。軍団のトップの軍団長は奥さんと妊活、3人のうちのもう1人の副団長は功績が認められ、最近になって新設された第333軍団の軍団長になった。
 残った既存の副団長は2名。いずれも女性だった。この軍団は女性を主とした軍団ではなく、むしろ男性軍人の方が多いので、抜けた男性副団長以外の残り2名の副団長が女性騎士なのはたまたまだった。軍軍団の出動実態は、討伐よりも敵陣偵察および本隊が到着するまでの歯止め役。従って武術にも一応長けているが、主に高度魔術使用者で編成されていた。
 副団長が3名いるのは、軍団所属者が多いこともあるが、軍団長不在の時に代理を務める役目も目的とされている。そういうわけで、実績は折り紙付きだが天使軍の一団を率いていたソードブレインが臨時軍団長に就任することと、新副軍団長に至っては軍務経験のない天上界に来て間もない元人間ということで、軍団は将軍ら上層部の采配に不満を募らせていた。
「エドワーズ軍団長の妊活は当初から予定されていたけど、ハーキマーを新設軍団長にしたのがこのタイミングだったのは妙だなとは思っていたけどね」
 アーデル副軍団長は不満を漏らす。軍人としては小柄だが、瞬発力や咄嗟の判断力、なにより魔術に長けているため副軍団長まで昇進した。顔立ちは可愛らしく、ミルクチョコレート色の茶髪は緩くウェーブがかっている。だが彼女を一目でアーデル副軍団長と判別できるのは、青と赤のオッドアイだろう。このオッドアイ、見た目だけでなく、相手の魔力の流れを読むために、視界が微妙に違うらしい。
「中州の魔術師と違って、魔力の澱を定期的に解消しなければ我々には不可欠な妊活だから仕方がないが、どうして天使軍の手練れがコチラの臨時軍団長になったのやら」
 もう1人の副軍団長、ファンパライト副軍団長が顔をしかめる。オレンジの髪と緑の瞳をした長身の正統派美人だ。彼女にアプローチする者は、ファンパライト副軍団長が入隊した当初は多くいたが、いまでは彼女への求愛は自殺行為と思われている。同性愛者ではないが、恋愛に興味がない根っからの軍人なのだ。もっとも澱が溜まれば、伴侶を見つけて、澱を子供として生み出して排出する選択は避けられないだろうけど。
「天上界に来たばかりの元人間が、選別の天使のミスで、本来なら上級天使の智天使になるはずが、人間界に送り出してしまったために天使に戻れなくなったとか。潜在的な力はずば抜けているだろうけど、コッチに来たばかりでいきなり副軍団長ってのも納得いかないわよね。まあ、単なる名誉職というところだろうけど」
「なら中州の魔術師にでもなって、のんびり暮らせば良いのに。なんで軍部へ来たのだか」
 アーデル副軍団長とファンパライト副軍団長は、仲間となる新軍団長への不満をぶちまける。副軍団長たちがこうだから、軍団内でも臨時軍団長と副軍団長への不満は大きい。

 そうこうしているうちに、天堂ことソードブレイン軍団長と、仁志ことブライト副軍団長が第108軍団へ挨拶にやってきた。
 中級天使軍を率いていた手練れのソードブレイン軍団長へは、少なからず畏怖を持って皆は挨拶した。しかし人間臭さが残った仁志に対する敬礼は、雑だった。元来、貴族は力の強い者ほど容姿端麗なのが常識となっている。日本人の頃そのままの仁志が軽蔑されても仕方ないだろう。
 だがソードブレイン軍団長(天堂)は、仁志に対する軍団の対応に眉をひそめた。
「副軍団長が、つい最近まで人間だったにも関わらず、隊長も経ずにいきなり昇進したことを不満に持つ者が多いようだな。なら、話は早い。アーデル副軍団長、もしくはファンパライト副軍団長、いずれかが新副団長と決闘してみよ。そうすれば、多少なりとも抜擢の理由が分かるだろう」
「おい、天堂!」
「舐められたまま、仁志様が閑職の副団長と思われるのが我慢ならないのですよ。なに、基礎はこの1ヶ月で叩き込んでありますから、今回は応用編と言うことでいい機会でしょう。この副団長たちごときでは、仁志様の相手には遊び相手にもならないでしょうけれど」
「なんだと!」
 アーデル副軍団長とファンパライト副軍団長は、声を荒立てる。
「先に礼儀を欠いたのは、そちらでしょう。経歴と見た目だけで判断するとは、副軍団長として見通しが甘過ぎる。私の言動に不満があるなら、まず新副軍団長に勝つことですね。さあ、早速競技場へ向かいましょうか」
 ソードブレイン軍団長は、冷ややかな声で言った。
(なに、しょっぱなから喧嘩売ってるんだか。基礎しか知らない僕が、場数踏んでる副軍団長に勝てるわけないだろうに)
 仁志は心のなかで悪態をつきながら、港一緒に競技場へ向かった。

5.決闘
 仁志の相手は、正統派美人のファンパライト副軍団長となった。
 正装を普段の軍服に着替えて競技場へ出ると、観客席は108軍団よ軍人でいっぱいだった。当然ながら、彼らが声援を送るのはファンパライト副軍団長だ。
「あー、面倒くせ」
 つい仁志は本音を呟いた。
 仁志の呟きは小さなものだったが、声援のうるさい中でも、ファンパライト副軍団長の耳には充分に届いていた。
「安心しろ。直ぐにカタをつけて、閑職に追い込んでやるから」
 ファンパライトの魔術出力が上がっていく。帯剣も許されているが、ろくに武器を持ったこともない新軍団長に情をかけて、ファンパライト副軍団長は魔術のみで勝負することにした。
(そもそも相手は、剣を抜くほどの実力もなかろう。魔術も基礎のみ習得というし、仮にも同じ副軍団長だ。ほどほどにしてやるか)
 仁志の周囲に5メートルほどのゴーレム数十体が出現する。逃げるとしたらゴーレムの足の間からからだろうが、すり抜けても3重に取り囲むゴーレムの後背の者が踏み潰しにかかるだろう。
 前衛のゴーレムが巨大な手で襲ってくるのに対して、仁志は結界を張って防ぎがてら、競技場の地面から一斉に水を噴出させる。しかもこの水、一般の真水ではなく、強力な聖水だ。元上級天使の魂を持つ仁志は、意識せずとも聖水を大量生産できるらしいと、訓練始めた早々から判明して天堂を感動させてしまい、心底ウザいと思った。男に感動されて抱きつかれて、喜ぶ性癖は仁志にはない。絶世の美女となった元兄にされても、蕁麻疹が出るだけだ。
 ゴーレムはあっという間に聖水に溶けて、競技場の土に戻った。
「へえ、やるじゃない」
 ファンパライト副軍団長は、今度はファイヤーボールを連打してくる。
 仁志は結界を保ちつつ、襲ってくるファイヤーボールを火力を更に上げたファイヤーボールを作り出してぶつけて相殺した。
 魔術基礎習いたての仁志が、ファンパライト副軍団長得意のファイヤーボール攻撃に、同じファイヤーボールでありながらも更に光度と熱量の高いものを容易く作り出して増刷させたことに、試合相手も周囲も驚きを隠せない。ただ仁志を崇拝する臨時軍団長だけは、鼻高々だ。
 このまま受け身でいても延々と対戦が続くのは面倒くさい、早く家に帰ってゲームしながらダラダラしたいと思った仁志は剣を抜いてファンパライト副軍団長の前に転移するなり、驚愕する対戦相手を足で蹴り倒し、競技場全体を覆う聖水の水溜りに突き落とす。そして仰向けに倒れた相手の首筋スレスレに、仁志は剣を地面に突き刺した。
「これで終わりで良いですが?」
 仁志はファンパライト副軍団長を見下ろしながら、試合終了を尋ねた。
「……完敗だ」
 競技場の観客席からざわめきが起こる。ファンパライト副軍団長が手加減していたとはいえ、天上界へ来て間もない元人間が、魔術の手練れである彼女に完勝したからだ。
 仁志は剣を鞘に戻すと、その場からスタスタ遠ざかり、臨時軍団長席の真下に行く。
「ソードブレイン軍団長殿、皆への挨拶も終えたことですし、自分はこれで帰宅もしてもよろしいですか?」
 こんなところで、つるまれてもゴメンだ。本来なら新副軍団長として、積極的に部下とコミュニケーションをはかるのが筋だろうが、正直、慣れない将軍たちとの謁見や、コントロールが未だ不安定な魔術を使って疲れた。そう、魔術を手加減していたのは仁志の方で、全開で魔術を行使していたら競技場周囲ごと吹き飛んでいたはずだった。
「そうだな。本格的な明日以降としよう。ブライト副軍団長の帰宅を許す」
 天堂ことソードブレイン臨時軍団長は、平坦な声で言った。本当は歓喜して仁志に抱きついたいところだが、その辺りの常識は持ち合わせていたらしい。
「失礼します」
 仁志は競技場を出て、真っすぐ家路に着いた。

「何なの、あれ!」
 アーデル副軍団長が競技場に飛び降り、相棒を水溜りからき起こした。未だ競技場に残った強力な聖水は、アーデル副軍団長のブーツ越しからでも刺すような光の痛みと痺れが伝わってくる。ファンパライト副軍団長が、水溜りから身体を起こさなかったのは、完敗の悔しさでヤケになっていたからではなく、聖水の光で身動きが取れなかったのだと察して、慌てて相棒を水溜りから抱き起こした。聖水を長く浴びたファンパライト副軍団長は、指の1本も動かせないようだ。
「おっと、聖水をこのままにしていたら支障が出るね」
 ソードブレイン臨時軍団長は特等席から立ち上がり、競技場から聖水の水溜りを消した。
「軍団長様、ファンパライト副軍団長が動けなくなっているのですが!」
 怒気を強めて、アーデル副軍団長が臨時軍団長に抗議する。
「毒じゃないから、暫く寝かせておけば回復するよ。むしろこれまで蓄積された穢れが分解されて、回復後は体が軽くなるんじゃないかな。まあ、この程度で済んでよかったね。ブライト副軍団長は、まだ力が制御しきれていない。彼は元人間だが、魂は上級天使のままだ。分かるかい、一般的な貴族や王族さえ、上級天使の上から2番目智天使の浄化能力の強さには敵わない。今後、無闇にケンカを吹っ掛けたり、言動に配慮することを忠告しておくよ。それでなくとも、仁志様は偏屈なところがある難しいお方だからね」
 親友を名乗っていながら、天堂ことソードブレイン臨時軍団長の言葉は酷いものだ。だがそれが現実だった。人間時代に、寿命の短さを知った仁志は極力、人と深く関わることを避けていた。それがいつの間にか性格形成となってしまい、他者との距離感がズレてしまったのだ。仁志を仲間や他者と打ち解けさせる、これも神から命じられた天堂の役割でもあった。

 一方、早々に自宅に戻った仁志は歓喜の声を上げながら、屋敷の前庭に寝転んでいた。待ちに待った、天上界で再会できると信じていた人間時代に死別したスイスシェパードのエイジが、尻尾を千切れんばかりに振りながら、仁志に飛びついてきたのだ。顔中をベロベロ舐められて歓喜を表すエイジと、愛犬の顔や首筋を乱暴に撫でる仁志。
 使用人たちも呆気にとられる2人の再会だった。
「ジャスティル(仁志の天上界本名)様にも喜怒哀楽の喜びと楽しみがあったのですねぇ」
 執事でさえ驚く仁志の爆発的な喜びようだった。
 一通りの再会の儀式を終えて、仁志は堅苦しい正装軍服を脱いで普段着に着替える。空腹も忘れて、久々にエイジと散歩に出かけようとしたところを、昼食を待ちわびていた高志(アストリッド)と、軍部から戻ってきた天堂に止められて、しぶしぶ食堂へ向かった。
 高志(アストリッド)をはじめとするラナンキュラス侯爵家の侍女たちは、犬も食堂に、しかもケンジの隣の席が用意されてるのを非難したが、仁志の「嫌なら皆、出ていけ」と怒気を込めて威圧的に命じた。
 いつもは穏やかと言うか無関心が常の仁志が初めて激情をあらわにしたので、侍女たちは皆、恐れをなして食堂から出ていった。
「俺の天敵だった犬が座席についてるのは、常識的にも無いとは思うが、あの口うるさい侍女どもがいない中で食事ができるなんて、たまには犬も役に立つな」
 淑女教育の一環で、言葉遣いはいちいち注意され、「俺」なんて一人称を使えば直ちに侍女頭から叱責が飛ぶ。そんな調子だから、話すことも億劫になっていたが、それはそれで侍女たちは許さない。豊富な知識と陽気なお喋りで他者の秘密を暴く手法の鍛錬は、淑女にとって重要な仕事でもあったからだ。
「ところで、仁志様はエイジ君の進化した姿をご覧になりましたか?」
 優雅にカトラリーを使って食事をする天堂が質問する。そう言えば、エイジがすぐに天上界へ昇天した仁志の出迎えにこれなかったのも「試験」や「合格」と言っていた。
「いや、なにも知らないし、エイジが傍にいてくれればそれでいい。高志がギャーギャー騒いで男に戻りたいなんて無理難題の代行を務めるのでなければ、エイジとのんびり暮らすつもりだったのだから」
 侍女が居るときは、元双子の兄を高志と呼べず、寒気を覚えながらアストリッドと呼んでいる。今日はこの場に元双子と天堂、そしてエイジしかいないので(給仕の使用人は除く)、高志を語る際に人間界での名称を使った。
「でしたら、食後に鍛錬場へ行きましょう。きっと驚きますよ」
 天堂はにこやかに言った。

 鍛錬場には、高志もついてきた。侍女たちが淑女訓練を再開しようと食堂の外で待ち構えていたが、高志は仁志の腕を恋人のように掴んで離さず、仁志もエイジの進化を早く見たかったので、侍女たちを冷ややかな視線で一瞥して黙らせ、高志を連れて行ったのだ。
 鍛錬場で、修行の成果を現したエイジに、さすがの仁志も度肝を抜かれた。
「これって、ファンタジー定番の魔物のフェンリルじゃないのか?」
「ええ、そうです。本来はなろうと思ってなれるものではありませんが、まあ私が神様の許可を得て魔力で魂の構造を作り変えたのと、神様のもとで魔術を学びつつ、暴走しないよう躾けられていたわけです。副軍団長ともなれば、危険な地へ赴くこともありますから、その番犬ということで」
「僕はエイジを危ない目に遭わせるつもりなんてないぞ!」
「ですが、それがエイジ君の望みです。もう片時も、仁志様から離れたくない一心で、厳しい修行に耐えていたのですから」
『僕、邪魔?』
 悲しげな顔で、体長10メートルはあるフェンリル化したエイジで念話で尋ねる。
「迷惑なわけないだろ!僕はどんな姿でも、エイジを愛してる。だからこそ、危険な場所には連れて行きたくないんだ。よし、こうなったら除隊して、中州の魔術師に変更しよう。高志、すまないが、君は侯爵令嬢として、公爵閣下と結婚してくれ」
「イヤだー!」
 プラチナブロンドの美女の高志は、元双子の弟に縋り付く。
「俺はこんな姿をしてても、心は男だ。朝、目覚めて寝ぼけ眼でトイレで用を足そうとする絶望感が分かるか?細マッチョが自慢だった胸が大きく膨らんで、それをコルセットで潰される時の拷問の辛さがお前には分かるか?」
「だから願い事は慎重にと、忠告しようとしたのに」
「ともかく、俺は男と結婚なんて絶対イヤだ。このふにゃふにゃした体だって、他人の女人だと思えば喜んで触るが、自分の身体となると薄気味悪くて、未だに慣れることは出来ないんだ!」
 まあ、高志(アストリッド)の言うことが分からないでもない。最初は好奇心で女性の身体になった自分触っていても、約18年間の男として生きた経験は『浄化の泉の世界』でもそうそう抜けない。いや、あの世界で本来なら一旦記憶を失って、まっさらな心になるはずだったのに、仁志や天堂が一緒にいたことで、高志は浄化が終わるまで記憶を失うことがなかったのだ。せめて離れていたら、人間の時の記憶を一旦失って、女性として目覚めることも出来たのではないか。
 いや。
「そもそも高志が女性になるのが変だったんだ。魂が10割男性というわけでもなかったが、8割は確実に男だった。これは一般的な人間男性の魂の男女比率より若干高い。普通の人間は男女どちらの魂を持っていて、人間だった頃の経験値から半分以上が生きてきた性別に引きずられていたに過ぎない。その点、高志は男性であることを謳歌していた。願い事に欲が出るのだって、人間なら普通に天上界へきた高揚感から、金持ちだの貴族だのと望まない方が珍しい。もちろん叶うことがあることもあるが、大抵は性別そのままで庶民に転生する。天堂、おまえ何か細工したんじゃないんだろうな?」
 仁志は数少ない昔からの友人であり、本来なら同種の天使として天使世界に居たはずの男に不信感を抱く。
「さすが、仁志様。ご慧眼に感服いたします。高志君の女性化には、神様が一役絡んでおられます。もしも普通に、天上界へ一般男性庶民として転生させたら、せっかく人間界で修行して潜在能力が豊富な仁志様が、グータラ人生で宝の持ち腐れになると判断されたからです。まあ高志君は、仁志様をマトモに働かせるための起爆剤ですね。高志君、君も仁志様の双子に生まれ育ったのが運の尽きだったね」
「おい……じゃあ俺が仁志の双子の片割れじゃなかったら、いまこんな目に遭ってなかったということか?」
「そうなりますね。神様のおぼし召しが失敗したら、そのまま貴族令嬢として生きるか、人間界転生をして新たにやり直すかですね。人間界転生が可能になるおよそ300年後、それまで貞操が守られることを祈ります。神様も入念に、高志君の美貌を作り上げるため尽力なさいましたし、そこに男性を寄せ付けるフェロモンでも足せば、好むと好まざると、瞬く間に本物の淑女、いや貴族夫人にされかねませんね。いまは仁志様が軍人として期限内を頑張ろうとなさっているので、高志君は無事でいますが」
「仁志!お前のせいだぞ!責任取って武勲上げて、俺を男に戻せ!」
 美女の決死の顔って迫力があるなあと思いつつ、人間界で双子やってきた兄の不運が自分のせいだと知ったいま、仁志も頷くしか無かった。
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