奴隷として生まれた天才

津本 なを

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一章 格差を広げるもの

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 ――前回のあらすじ――
 健は土手に座り込み、今までの人生を振り返る。そして、今の健に大きな影響を及ぼした『伊藤裕司』という人物について考えていた。



 ――唱えた瞬間、視界が全部青くなった。
 まるで、あの結晶に吸い込まれたかのように……。
 ――しかし、すぐ視界は取り戻された。

 ――――俺は広い場所に立っていた。
 きれいな大理石の円状の広場にいて、等間隔の柱が天井に向かって伸びていた。びっくりするほど高い天井は、俺のいる丸い広場の上だけ不思議と光っていた。
 俺がいるのはそのホールの中心で、服装はさっきまでと同じ。
 でも、握っていたネックレスは、首にかかっていて、腕には黄金の腕時計が付いていた。
 なんとも輝かしく高級感漂う時計の針は、俺がこの世界に入った時の時間を指しており、秒針がしっかり動いていた。

 しかし、最もおかしいのはこの広間じゃない……。
 大理石の柱に囲まれたこの円状の広間の周りには、大量の本棚が並んでいた。
 すさまじい量の本が置かれていて、らせん階段で何階層にも重なっている。壁は見えないし、らせん階段がどこまであって、何階まであるのかも見えない。
 俺は最初に目の前にある最も目立つ机にポツリと置いてあった本を手に取った。
 その本の冒頭に書かれていた文章はこうだった………………。

 ――――『エスカ』太古からそう呼ばれてきたこの星には、高い知能を持つ原始人がいた。やがてその原始人は進化して、三つの人種に分かれた。
 ――一つは高い知能を持ち、群れる人間。
 ――一つは高い魔力と支配欲を持つ魔法使い。
 ――一つは魔法の力で土地を育み、自然と暮らす妖精。
 これらは本来同じ祖先をもつものであり、互いに助け合って暮らしていくべきである。
 しかし、現状、私たち魔法使いが人間を支配し、妖精を滅ぼそうとしている。
 歴史は改変され、間違った価値観がそれぞれの種族に植え付けられたこの現状に私は目に手を当てたくなる。
 私たち魔法使いの暴走を止められるのは、人間しかいないと考える。
 そして私は、人間の優秀な弟子にこの図書館を授ける。この場所は、血ではなく私の意志のつながりが途絶えないことを願う。

                     ――――――魔歴三十年 イエズ・ギリスト

 その文章の後には代々この部屋の管理者に名が刻まれていて、厚いこの本の後半はほとんど白紙だった……。
 ――魔歴三十年ということは、その時ちょうど八百年だったから、七百七十年も引き継がれてきたことになる……。
 俺は驚きに震えていた。
 ――この部屋の管理者は全員歴史に名を遺した人物だったからだ。
 ――天才的な科学者、何百万人もの人間と魔法使いを救った医者、貨幣の仕組みを考えた天才社会学者、そして反乱を起こした反逆者まで……。
 俺は居ても立ってもいられなくなって、本棚まで走り、本を開いた。
 がむしゃらに読み漁った。
 まるで、水を得た魚のように。
 ――初めて書いてあることの意味が分からないということが起こった。
 それらの本は、それらひとつひとつが途轍もなく魅力的だった。
 こんな考え方をする計算方法があったのかと……。
 こんな医療方法があったのかと……。
 俺は本にしゃぶりついた。
 勉強があんなに面白いと思ったことはなかった――何でもすぐに理解してしまうから。
 ――何か定義を学んだら、それを使ってこんなことができると予想し、教科書の展開がすぐ読めてしまうから。
 しかしそこは違った。
 ――俺は自分が無知であることを知った。
 この図書館の一階は、これだけで世の中をひっくり返すようなことが描かれた本ばかりだったが、上の階に行けば行くほど知識は深まり……、難しくなっていた。
 その本の中には既に誰かが発表した研究の内容が書かれていることがあった。
 しかし、その内容は実際に発表されているものより応用されていた。
 一番上に書かれているのはどんなものなのだろうか……。
 ――気づいたら、丸二日経っていた。
 ――――そして、決心した。
『血より意思を』
 ――――――また視界が青くなった。
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