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77.人質
しおりを挟む電話の時から何となく察していたけど。
「随分と変わったご友人です事」
「生意気な口が利けるとは余裕だな」
「約束の物は持って来ました。遺産の権利書にお政様から譲り受けたペンダントです」
解るように箱の中身を見せながら距離を取る。
「偽物じゃないようだな」
「ええ」
何とかして二人を救わなくては。
とは言え、この男一人だけならば北条君は捕まるなんてことはなかったはず。
そうなると複数で犯行に及んだことになる。
しかも素手ならば北条君は負けない。
となる凶器を隠し持っていたと考えるのが妥当だわ。
「妙な真似はするなよ」
「うっ!」
「愛!」
頭を鷲掴みにしてナイフを突きつける。
「少しでも妙な真似をすればこいつの喉を切り裂く」
「ううっ…お母さん」
怖いのを必死に我慢して泣こうともしない。
「おら、泣いて命乞いをしろよ」
何処まで悪趣味で性根が歪んでしまったのかしら。
昔はここまで酷くなかったのにどうしてこうも歪んでしまったの。
「何だその目は!」
「これ以上愛に手を出さないでください!約束の品は差し上げます。私の全財産も。私と復縁を望むなら貴女の思う意通りにしたらいいでしょう。ですが愛だけは…私の大事な娘にだけは手を出さないでください」
私はもうどうなってもいい。
だけど愛だけは。
命よりも大切な私の宝物。
愛さえ無事ならそれでいい。
きっと私は死ぬでしょう。
この男と復縁したら私は心が死ぬかもしれない。
気が病んでしまう。
それでも母親としての誇りが残っている。
「いや…やめてお母さん!私はそんなの望んでない!嬉しくないよ」
「ごめんなさいね愛。私はやっぱり駄目なお母さんだったわ」
愛をこんなに悲しませ、泣かせてしまった私は母親失格かもしれない。
だけど――。
「お母さんはダメじゃない。愛の自慢のお母さんよ。誰がなんて言おうと…」
「お涙頂戴は終わらせろよ。見ていてうぜぇぞ宮内」
「本当に何なの?この茶番劇」
私のやり取りをあざ笑うかのように言い放つのは、仲間と思われる二人。
片方は女性だったとは思わなかったけど。
「中身を確認しろ。これさえあれば…」
箱の中を確認するも。
「ない…ペンダントと一緒についになっているアメジストのブレスレットがないぞ」
対になっているブレスレット?
「しかもイニシャルが入っている…これじゃあ売れないじゃねぇか!」
箱の中を見て騒ぐ宮内。
他の二人も北条君と愛をそっちのけで箱をひっくり返して探した。
「愛!」
「お母さん!」
愛を強く抱きしめながらも手が震えた。
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