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第二章
24.噂の夫人
以前、シシィー様から私を探している夫人がいると聞いてた。
何でも社交界では噂になっているとか。
「アリア、彼女ですわよ?あの噂の」
「お会いできて光栄です。ミュゼ伯爵様。マダムアンドレット」
名前だけは耳にしたことがある。
中級階級のご令嬢でありながらも優れた才能をお持ちで、特に芸術に精通し、貴族に勝るとも劣らない教養をお持ちだとか。
ミュゼ伯爵に求婚され、社交界では一時噂の人になったと。
貴族ではない彼女は社交界で生きるのは相当な努力をされていたのだろう。
「私は社交界デビューを果たしても若輩者でございます、先輩として色々お教えいただけると嬉しいですわ」
「まぁ、そのような…」
「帝国一のお針子でもあらせられるアンドレット様に色々教えていただきたく思います。お恥ずかしながら美的センスがあまりなくて」
オディールにもさんざん言われたけど私はもっと流行を勉強するべきだと言われた。
今後もセンスを問われる場に遭遇した時に困るからこそ、今日も皇女殿下が私の勉強を兼ねて舞踏会に参加しないかと言ってくださったのだ。
とは言え堅苦しいものではなく気心が知れた方が多いので派閥を気にしなくても良いと言われたのだ。
「アドリア―ナ様はなんと控えめな方なのでしょう…謙虚すぎますわ」
「公女様、そのように謙遜されることはないかと…私達は格下の貴族です」
爵位だけ言えば伯爵位は決して高くないけど、ミュゼ家は別格だ。
「いいえ、ミュゼ家は何代も続く貴族ではありませんか。何より絹が不足する時代に絹に代わる生地で帝国を潤した一族。特に銀糸をあしらった生地は絹に匹敵すると評判です」
「まぁ!あの生地をご存じですの」
「はい、私は刺繍が好きで…銀糸が大好きなんです」
通常の糸よりも補足光沢が美しい糸は刺繍にも最適だった。
暗い場所では灯代わりになるし、あれ程斬新なアイデアは誰にも真似ができない。
「美しさだけでなく頑丈で、手触りも良くて」
「公女様は素晴らしい目利きをお持ちで…恐れ入りました」
「天使様は織物の女神様のようですわね」
織物女神のアリアドーネ。
帝国内でも伝わる糸で様々な物を作る女神の事だ。
神話でも数多の神々の服を作ったとされる。
お針子美人もアリアドーネが始まりだとも言われているのだ。
「恐れ多いですわ」
「いいえ、私のドレスをこんな素敵に仕立て直されるなんて…高位貴族の方でもここまで技術を持つ方がいらっしゃるなんて感動しました」
中々ぐいぐい来る方だったけど、嫌な気はしない。
むしろ気持ちがいい程ご自分の仕事を愛しておられると思った。
「止めないか、無礼だぞ」
「あっ…申し訳ありません」
熱くなってしまった事を詫びられるも、私は謝ってほしくなかったのだけど。
「良くてよ?アンドレット夫人。私は仕事に誇りを持つ方は大好きですの。殿方に守られて甘えているような方よりもずっと素敵でしてよ?今から私のサロンでいかが?」
「喜んで!」
「貴女も行きますでしょう?アリア?」
これは拒否権がないと見たけど、恐らく私の為に言ってくださっているのが解る。
「はい、喜んで」
私もアンドレット様ともっとお話がしたい。
お針子の先輩として色々教わりたいと思っていたのだけど。
私の予想に反してとんでもない事態に事になるとは知らなかった。
そう、彼女はある意味貴族以上のコネを持つ人だと言う事を忘れていたのだ。
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