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第三章
16.ありえない男
社交界ではハント侯爵家の評価は下がるが、表立って処分はなかった。
あくまで、爵位を持たない子息が騒動を起こしたぐらいでハント侯爵家が率先して我が公爵家をどうこうしようとした証拠などはない。
ハント侯爵とガーナ夫人は否定をしているけど、公の場で私を粗末に扱ったのは多くの貴族が知っており、これまで噂でしかなかったのだが、エイミール本人が公爵を乗っ取るかのような発言の所為で醜聞まみれになる程度だ。
ジョバンナ妃からすれば痛手かもしれないが、ハント侯爵家が高位貴族であり他国にも顔が利くのでこのまま失墜したまま終わると言う事ない。
しかし、こうもアクションを起こさないなんて妙だった。
「僕も危惧している。ジョバンナが…いや、ガーナがこのまま引き下がるとは思えない」
「はやり、何か仕掛けてくるのでしょうか」
「用心はしているんだが…」
これ以上私達から何かすることはない。
長年に渡って行われた所業は苦痛ではあるけど、そのおかげでローレンツとこうして寄り添うことができたのならば喜ばしい事だった。
『これより準々決勝を始めます』
「出番だ。アリア」
「はい」
出番が来たので、ローレンツが試合に向かおうとした時だった。
「アドリア―ナ!」
離れた場所からエイミールに声をかけられる。
「君と話したいことがあったんだ」
この状態で話しかけてくるなんて何を考えているのだろうか?
試合は始まる直前というのに。
しかも周りの視線が集中しているというのに。
「この試合に勝ち、君を取り戻す。囚われの身となっている哀れな君を正気に戻してやる」
「「「は?」」」
この時、ありえないと思ったのは私だけではないだろう。
離れた場所で観戦をしているであろうシシィ様も、侍女の皆も呆れていると思った。
「馬鹿なの?馬鹿なのね?私のお兄様の前で」
「何あの男」
「ついに頭に虫が湧いたのかしら…」
「元から頭が悪い馬鹿男とと思っていたけど、ありえないわね」
ヒソヒソ話しながらもしっかり聞こえている。
特にオディールの視線は厳しものだったのは言うまでもない。
「君は騙されているだけだ…元の控えめで慎ましやかな君がこんな不良娘のような真似をするなんてありえない」
「私は騙されておりませんが?私の意思で動いています」
「哀れだな…そう言えと言われたのだろう?君は昔のまま慎ましやかにいるべきだ。こんなはしたない行動をするなど論外だ」
(この男、本気なの?)
社交界で爪はじきに合い、お父様とお兄様に咎められたことが精神的に負担になったのかしら?
今まで私の事など置物程度にしか眼中になかったのに、社交界で問題を起こしたシャロンが批難を浴びた所為なのか、それとも公爵家の後ろ盾を失った事を悔やんでいるのか。
何にせよないわ。
こんな男に長い間尽くしていた過去の私を叱ってやりたい。
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