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第一章逆行した世界
7.真夜中の会話
マリーが寝静まった頃、大人達は酒を片手に話し合いをしていた。
「リリアンヌ、少しばかりサングリアに厳しいのではないか」
「この度の事は私も申し訳ないと思っていますが…あの子も辛いのです」
晩餐会での事にかんして苦言を申す二人にリリアンヌは冷たい表情で言い放つ。
「では、マリーが哀れだとは思わぬのですか?チャーリーと無理矢理引き離され、理不尽にも姉の我儘で王太子の婚約者候補にされたのです。それを顧みないなんて…」
「それは!」
リリアンヌはコレットを冷たく見据えながら言い放つ。
晩餐会での会話でサングリアがマリーに放った言葉あまりにも冷たく思いやりが欠けているように思えた。
「正直に申します。私はサングリアを次期当主としての器にあらずと考えます。彼女は人の気持ちが解りませんわ」
「そんな…」
「王太子妃候補として期待を背負わせていたからな…少々甘やかせたのも事実だ」
完璧な令嬢であるべきだと言い聞かせ教育してきたのでかなり自尊心が強く成長してしまった。
「マリーが哀れです。眠りながらチャーリーの名を呼んでましたわ」
「まぁ…」
「生まれてすぐ生みの親から引き離され、厄介者扱いを受け捨てられたあの子を今更王都に連れ戻すなんてあまりにも理不尽です」
唇を噛みしめるリリアンヌに二人は唖然とする。
マリーを捨てたつもりなどないのにこの言い草はあんまりだと思ったが。
「差し出がましいようですが、マリー様は公爵家の厄介者と言う不届きな輩はおりますわ」
傍に付き添っていたマリー専属の侍女が物申す。
領地のいた頃から常に行動を共にして、マリーを支えていた彼女は主従関係というよりも姉と妹のような関係性だった。
「何だと?」
「そんな事を…」
王都でも様々な噂は飛び通っていたが、ここまで酷いとは思わなかった。
「馬鹿な親族はここぞとばかりマリーを傷つけましたわ。マリーは笑ってましたが、さぞ傷ついたでしょう」
「すまなかった」
「私に謝る必要はございませんわ」
リリアンヌは謝罪を受け取らなかった。
謝るべき相手はマリーなのだから、本人に言うべきだと思っていた。
「マリーはサングリアのような華やかさはありません…ですが、劣っていると思った事は一度もありません。育ての母の私が保証いたします」
「リリアンヌ…」
「お兄様、息子がどんな思いだったか解りますか?マリーを深く愛していたあの子がどんな思いで手放したか」
燃える様な瞳を向けられ二人は何も言えなかった。
侯爵夫人としてこれまでいくつもの修羅場を潜り抜けて来たからなのかもしれない。
「領地ではマリーは人気者です。領民から愛されておりましたわ…そのマリーを無理矢理王太子殿下に嫁がせたとなれば領民は黙っておりませんわ。サングリアにそれを回避することはできますか?」
「それは…その」
「サングリアがこの邸で公爵家の長女として厳しい教育を受けたように、マリーも領地で学んできました。それをひっくり返したのです。その重さをお考え下さい」
「失礼します」
椅子から立ち上がり、リリアンヌはそのまま去って行く。
静かに去って行くリリアンヌの背中を見ながら二人は何も言えずにいたのだった。
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