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第一章逆行した世界

15.悲劇

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その頃邸前では大騒ぎになっていた。


「ようこそおこしくださいました」

コレットが笑顔を引きつらせながら、挨拶を交わしていた。
いきなりの訪問で狼狽えるも、邸に招かないわけにもいかず急いで準備をしたのだった。


しかし…


「あれ?父上は?」

「え?さっきまで…」

「大変です!陛下のお姿が!」

「何だとぉ!」

いつの間にか消えていた王に護衛騎士は狼狽える。


「貴方達はそれでも近衛騎士ですか!恥を知りなさい!」

「そうは申されましても、あの方の悪戯を止めるなど、王太后陛下ぐらいしか不可能です」

「ああ…頭が痛いですわ」


くらりと眩暈がするのは王宮の侍女長ハイソン夫人。
若かりし頃から王と苦悩を共にして来た旧知の仲であり乳兄弟でもあった。


「申し訳ありませんがお庭を探させていただけますでしょうか?」

「はっ…はい」


公爵家を巻き込み早速災難な事態になるのだったが‥‥




「では私はマリー嬢に」


アレクシスは先にマリーに挨拶をしたいと言うが、リリアンヌもコレットも良い顔をしなかった。


「マリーは、庭で花の手入れをしておりまして」

「もうしばらくお待ちを…」


決して畑を耕しているなど言える訳もない。


「ならば、ちょうどいいですね。私もその姿を見学させてください」

「ひっ…」


コレットはさらにビクつく。
畑を耕して泥だらけの姿なんて見せられるはずもないが、相手は王太子殿下故に断ることも難しかった。



「どうしましょうリリアンヌ!」

「とにかく、裏庭から離れた場所から案内して時間を稼ぐのです。その間にカンナや他の使用人に着替えを」

「解りましたわ」


ここ数日の間、二人の仲は確実に良くなっている。
協力関係を結び、マリーをフォローする同盟を結んでから、とにかく阿吽の呼吸が合う様になってきた。



しかし二人の苦労など意味がなかった。




「さぁ、どうぞ殿下」

「ありがとう」


美しい池や庭園を案内しながらできるだけ時間を稼ごうとした時だった。


「とったどー!!」

「は?」


近くの川からおかしな掛け声が聞こえた。


「今の声は?」

「おっ…お気になさらずに!」


真っ青な表情でリリアンヌが告げるも時すでに遅し。


「あれ?伯母様ぁ、おかあさまー!!」


「ああ…」


「きゃああ!奥様!」

背後では魚を抱きしめなるマリーが手を振っていた。

その姿を見るなり、コレットは失神した。
側にいる侍女は急いで支えるも、既に口から精魂が抜けてしまっていたのだ。


「マリー…」

「叔母様、大量です」

網に入っている魚を見せて満面の笑みを浮かべるが、その姿は素潜り用の恰好だった。


まだ水着なら良かったものを。
全身黒の素潜り用の姿など気品の欠片もなくダサいだけだった。


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