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第二章もう一つのルート
3.王子の苦悩
しおりを挟むマリーは決して出来が悪いわけではなかった。
ただ、公爵家の長女であるサングリアが優先して英才教育を受けていたからだった。
対するマリーは淑女教育は最低限にして領地で生きて行く術を祖母に徹底的に叩きこまれ帝王学のイロハを学ばされた。
ただ学んできた物の優先順位が違うだけに過ぎなかった。
「マリー、聞いて」
「はい」
「君はこれからお妃教育を学ぶ過程で、気品も身におつけなくてはならない。それは一夜漬けで取得はできないが、時間をかければ絶対に身に着けられる」
アレクシスは断言した。
マリーは必ず歴代に並ぶ王妃になるだろうと。
「その為に私はどんな協力も惜しまない」
「殿下…」
型にはまり過ぎた王妃では今の王家を変えることはできない。
現在の王家は色々事情を抱えているのが現状で、新しい風がどうしても必要だった。
「だから私を信じて欲しい」
「はい」
ただ清楚なだけの姫ではダメだと思った。
礼儀作法が完璧で典型的な貴族令嬢では今の王室を救うこともできないし、国が抱える数多の問題を解決するには多少は強引でも新しい考えが必要だった。
その条件を満たす者を全て持っているマリーなら変えてくれるかもしれないと思った。
「君はきっと大丈夫だ」
「そうでしょうか?」
「ああ、君はサングリア嬢じゃないし、なる必要はない」
人はどう足掻こうとも、自分以外の何者にもなる事はできない。
他人をうらやんでも成り代わることはできないのだから。
「私は今のマリーが好きだ。家族を愛し、優しい君が…王妃になれば優しいだけではおれないが…その心を国民にも与えて欲しいと思うよ」
「国民に?」
「ああ、国民は私達にとって子のようなものだからね」
アレクシスは野に咲く花を見つめながらふんわりと笑いながら告げた。
まだ成人してもいないのに既に、王としての覚悟を持っていた。
「私には兄弟がいない。だから君の苦労は理解できないが…君の姉上が羨ましいよ」
「羨ましい?」
「ああ」
生れた時から王太子となる事が決まっていたアレクシスは周りからの期待に応える為にずっと頑張って来たが、頑張っても出来て当たり前で、出来なかったら冷たい視線を送られることがあった。
王は王妃以外に妻を迎えようとはしないので、周りからは側妃を迎えるように言われ、現在病弱で離宮で静養する王妃にさらに負担を強いようとするような真似をする貴族達にアレクシスは苦悩していた。
もっと…
もっとしっかりしなくてはと自分に言い聞かせながらも日に日に憔悴していたのだった。
だからなのか、サングリアが羨ましかった。
王太子妃候補でありながら逃げ道があり、優しい家族がいること。
そしてマリーのように心から慕ってくれる妹がいることが羨ましくて仕方なかった。
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