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第二章もう一つのルート
4.孤高の婚約者
しおりを挟むアレクシスの寂しそうな横顔を見てから、居た堪れない気持ちなるマリーは勉強に集中できなかった。
「マリー様、動きが止まってますわ」
「あ、すいません」
集中力が途切れたことにより、頭に乗せている本がバラバラと落ちて行く。
「どうしました?先程から集中力が欠けておりますわ」
「ごめんなさい」
マナーレッスンはハリソン夫人が請け負っていた。
とは言え、ちゃんと専門的な家庭教師はついているのだが、不慣れなマリーには信頼できる熟練の侍女を置きたいと言う事だった。
「マダム・ハリソン…」
「私の事はルイーザとお呼びくださいませ」
「はい」
敬称をつけて呼ばなくていいと言われ、素直に従い、疑問をぶつける。
「殿下は、寂しいんですかね」
「は?」
「いえ…なんとなく。私が姉の話をしたら羨ましいって」
マリーはずっと田舎で育ってきたので、王侯貴族の令息や令嬢の基本的な暮らし方を知らなかった。
「陛下とは仲が悪いように見えないんですけど…でも、なんていうか」
「違和感を感じましたか?」
「えっと…はい」
マリーの洞察力の高さにルイーザは驚きを隠せなかった。
もしかしたらアレクシスはマリーには取り繕うことをしていないのかもしれないと思った。
マリーは今までの令嬢とは異なり完璧とは言い難いが、相手の懐に飛び込んでしまう所がある。
あげく、他人に警戒心を抱かせないことに関しては優れているので、アレクシスも最初から警戒心を抱いてなかった。
「そうですわね…王家にかぎらず、高位貴族は家族とのかかわりがそれ程濃くないのです」
「え?」
「マリー様は領地でお過ごしだったのでご存じありませんが、王都に住まう貴族で特に嫡男は、生まれてすぐに母親から離されるのです。そして成人までは乳母が育てます。特に王妃様は病にかかってしまった所為で…」
言いにくそうにするルイーザの言葉。
これ以上先を言わなくても理解できたのだった。
「幼い頃は母君を恋しがっておられましたが、周りが強く咎め…殿下は諦められました。そして次第にお二人の間に溝が出来たのです」
「溝…」
「それを利用し、不仲説を作る愚か者も現れる始末。殿下は聡明な方故に、表沙汰にならないように努めました」
生れた時から王太子殿下という立場故に我儘さえ許されなかった。
母を恋い慕うことも許されず、周りから我慢を強いられ、我慢すれば親子の不仲説を疑われ悪循環となっていた。
それはあまりにも酷いと思った。
「ですから、どうか殿下をお願いします」
「はい…」
ルイーザに頼まれるも、解決策は見えなかった。
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