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第五章.悪女と聖女
8.前世
しおりを挟むかつての忌まわしい記憶が蘇る。
忘れたくても忘れることができない前世の記憶。
誰にも言ったことはないが、サングリアはタイムリープをして過去の時間に戻っていた。
事の発端は、アレクシスに婚約破棄を言い渡されてすぐの頃。
邸にふさぎ込み、誰の言葉も聞く耳を持てず自暴自棄になったあの日から始まる。
学園内のパーティーで婚約破棄を言い渡され、行き場を無くしたサングリアは邸に戻った。
それからは破滅の道を辿ることとなった。
貴族令嬢として婚約破棄は傷物令嬢となり、領地にて静かに暮らすか、修道院に行くかの二つだった。
精神的に病んでいたサングリアを心配した家族の言葉すら聞く耳を持たなかった。
「お姉様…」
「何しに来たのよ」
「お姉様、私は…」
王都から追い出される形で領地に引っ込んでいた妹は婚約者を連れて様子を見に来たが、サングリアは八つ当たりをして、マリーを責めた。
「私を笑いに来たの!最低ね!」
「違いますお姉様、私は心配で…」
「うるさい!」
気遣うような表情をしながらも内心で笑っている。
きっと馬鹿にしているのだと思ったサングリアは、マリーを突き飛ばした。
「お姉様…私は、お姉様に領地で静養していただきたくて」
「あんな田舎に引っ込んで、隠居生活を送るなんて冗談じゃないわ!」
「そんな…」
泣きそうな表情をするマリーを見るとイライラした。
宮廷貴族の暮らしが長いサングリアにとって、今さら領地に戻って静かに暮らすなんて屈辱的だった。
跡継ぎであるならいざ知らず、サングリアはマリーに頭を下げながら居候という立場いなるのだ。
ずっとちやほやされ続けていたサングリアは、マリーの事も馬鹿にしていたのに。
今さらマリーに頭を下げて暮らすなんて屈辱だったのだ。
「私は、お姉様に静かに暮らしていただくだけです。王都の暮らしとは異なり不便ですが、慣れれば…」
「貴族令嬢としてプライドを捨てた出来損ないと一緒にしないで!私がなんでアンタと同じような生活?馬鹿にするも体外になさい」
「お姉様!」
「アンタなんて妹だなんて思ったことはないわ!この出来損ないの恥さらし!」
何を言ってもマリーの言葉は頭に入らず、口論の末に事件は起きた。
サングリアは強く突き飛ばしたことでマリーは階段から足を踏み外し、転落したのだった。
その後は駆けつけたチャールズとアンナによってマリーは運ばれ、サングリアの立場はさらに酷い物となった。
「お嬢様!」
「私は悪くないわ」
「エイダには解っております!」
乳母に抱きしめられながら自分の非を認めることはなかった。
けれど、周りはそうではなかった。
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