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第五章.悪女と聖女
9.転落の始まり
しおりを挟む宮廷貴族では、家族といっても血の繋がった他人と考えるのが常識だった。
最優先されるのは、家督を守ること。
その為に、我が子であっても利用される。
利用価値が無くなれば、捨てられることも珍しくなかった。
しかし、辺境地に住まう貴族は別だった。
厳しい環境で生き抜いて生きた家族は、家族を大事にしてる。
サンチェスト公爵家も同様だった。
王都では酷い言われようであったが、厳しい環境ながらも愛情深い祖父母の元で幸せに暮らしていたマリーは従兄妹であるチャールズとも支え合っていた。
二人の婚姻は政略結婚でありながらも仲睦まじく、二人は互いに思いあっていた。
だからこそ、サングリアの行動は許されるものではなかった。
「サングリア様!貴女はなんてことを!」
「マリー様!」
急いでかけつけたチャールズはサングリアを睨みつける。
傍にいたアンナもサングリアを汚い物を見る様な目で見上げながら言葉を放つ。
「マリー様は貴女の身を案じていたと言うのに…これが貴女の本性ですか」
「何を…アンナ!身の程を弁えなさい」
エイダが声を荒げよるも、アンナは止めなかった。
「マリー様を散々馬鹿にして、社交界で悪い噂を吹聴してさぞ気持ちが良かったでしょうね?優しいマリー様は貴女を一度だって妬んだりしませんでした…対する貴女はなんと醜いのでしょう」
「醜いですって?」
「ええ、どんなに見た目が美しくても心の醜さは滲み出る物です。殿下も、貴女の本性にお気づきになったのでしょう!」
「言わせておけば!!誰に向かって!」
「だだの侍女の分際で!」
ずっと見下していた侍女にまで上から目線で言われ、サングリアは耐え切れず命令した。
「お前は今日限り解雇よ!ただで済むと…」
「悪いが、お前にその権利はない」
間に入って来たのは杖を持ちながら歩く老いた男性だった。
「お祖父様!」
「チャールズ、急いで医師を呼んだ。急いで運んでおくれ」
「はい」
サングリアにも目もくれず、マリーの様態を見ながら急いで運ばせるのは、前サンチェスト公爵のオズワルドだった。
「お祖父さ…」
「触れるな、汚らわしい」
サングリアが手を伸ばすも、杖で手を叩かれる。
「大旦那様!」
「お前はすぐに修道院に行かせる、今後、私の前に姿を見せるな…勿論、マリーの視界に入れることは許さん、お前はもう孫でも何でもない!」
「そんな!」
オズワルドの言葉にショックを受けるサングリアはしゃがみ込む。
「エイダ、お前は王都からもサンチェスト公爵家からも追放する。サングリアをここまで傲慢に育てた責任として…そして、お前の犯した罪は償ってもらう」
「お待ちください大旦那様!」
隠居の身でありながらオズワルドの威圧感は半端なく、震えていた。
しかし待った無しの対応に二人は成すすべなどあるはずもなかった。
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