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最終章.自称悪役令嬢の果て
2.ご褒美
しおりを挟むその頃、王妃の別邸にて。
「さぁ、遠慮なく召し上がって」
「王妃様、でも…」
テーブルには最高級のケーキにお菓子が並んでいた。
芸術品とも言われる程美しいお菓子の数々で、どれも最高レベルだった。
「貴女の為に帝国のシェフに作らせましたのよ?」
「グレース様…私が食べてもいいんでしょうか」
いくら公爵家と言えど、ここまでのお菓子を食べられるのは王妃か王女ぐらいだった。
テーブルに置かれているのはロイヤルティーセットとも呼ばれているぐらいだ。
「何を言いますの?マリー様のおかげでアンドレア皇女は一命を取り留めたのですから。女王陛下もそれは、それはお喜びでしたわ」
アルケス帝国の現在の皇帝は女性だった。
元は夫が帝位に就いていたが、病で無くなった後に皇后だったオクタヴィアが帝位に就いたのだった。
「オクタヴィア陛下は女性であることから苦労が多く、母親としてではなく皇帝として振舞うあまり、皇女殿下と向き合う時間が少なかったのです」
「解りますわその気持ち」
かつて息子と向き合う事をしなかったからこそ痛い程に理解できた。
「私が間に入る間も、妨害しようとする者は多かったのです。腹が立つことに貴族派は甥に当たるシャンゼル公爵を次の皇帝に据え置きたいようでした」
「嘆かわしいですわね。皇女殿下が病死してくれればと思ったのでしょう」
不治の病にかかった事をこれ幸いと思う貴族達が許せないが、既にシャンゼル侯爵家の子息が帝位に就くと社交界で噂を流す輩が許せなかった。
「ですが、病も治った後に、正式に表明するでしょう」
「貴族派は悔しがるでしょうね?」
「今から媚びを売っているのでしょうが、そうは問屋が許さなくてよ?夫が今から粛清に身を乗り出していますもの」
二人は優雅に微笑むが笑顔が黒くブリザードが吹雪く。
まるでデジャヴのように感じるが、深く追求しては行けないと本能で察していた。
「さぁ、存分に召し上がって」
「せめてものお礼ですのよ」
「はっ…はい、いただきます」
緊張しながらもケーキを口に運ぶと、フルーツの果汁が口の中に広がる。
「至福の味です」
「光栄ですわ。陛下にお願いして専属のシェフにパティシエールをお借りして良かったわ」
「ぐっ!」
油断していたマリーは喉を詰まらせた。
「グレース様…陛下の専属って」
「ええ、オクタヴィア陛下は大変な美食家で世界中の名だたるシェフを雇っていますのよ。その中でも腕利きの良いパティシエールがいますの…まぁ、他民族故に肩身の狭い思いをしてますが」
何処の国でも似たような差別は存在することを聞かされ悲しくなる。
なのに、お菓子の味は優しさで溢れておりもったいないとも思った。
「陛下は、男尊女卑の廃止に、他民族の受け入れ態勢を整えたいと仰せですのよ」
「確かに、国で虐げられる女性はいますわ。故に救済処置を取られたいのでしょう…優れた才能も、女性というだけで潰されますもの」
男尊女卑の世でありながらも共に、かかあ天下な環境である二人は心から嘆き悲しんだ。
聡明で美しい女性が虐げられるなんてあってはならないのだと思っていたからだ。
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