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序章婚約破棄と追放
4前世
しおりを挟む息がつまるような日々を過ごしていたオンディーヌは10歳の頃限界を感じていた。
社交界の日常と、心を通わす事ができない婚約者。
何処にも居場所がないと思いながらもしがみ付いたのは孤独なオンディーヌを救ってくれた存在がいた。
「素敵な音色ね」
「あっ…姫様!」
「どうか楽にしてちょうだい」
トランプ王国の王女、マリーアンジェリーク。
文武両道に優れ、美しい金髪に碧眼の瞳を持つ王女は誰もが見惚れる美しさだった。
「以前からずっと貴女と話したいと思っていたのよ?王宮の庭園を綺麗にしてくれているのは貴女よね」
「お恥ずかしながら…」
攻撃魔法が使えないオンディーヌは植物を潤したり音楽を奏でて花を元気にする能力に特化していたが、周りからは馬鹿にされていた。
「素晴らしい能力よ。私はこの音色を聞くたびに癒されるわ…誇るべきよ」
手を握られ、胸の奥が温かくなる気がした。
「私は音楽は好きだけど聞く専門なのよ。お父様に淑女の嗜みをするように言われるのだけど」
気さくに話しかけてくれたアンジェリークは噂以上に素敵な姫君だった
しだいに二人は親しくなり愛称で呼び合う仲になった。
「オンディーヌ」
「王女様…」
「二人きりの時はアンと呼んでと言ったでしょ」
「申し訳ありません」
一つ年下であるアンジェリークは公では大人顔負けで政治も厳しいが、心を許した相手には年相応に甘えていた。
「貴女の聖琴の音色、本当に綺麗で大好きなのよ」
「私はアン様のピアノが大好きです」
「フフッ、お互い様ね」
社交界は合わないと思いながらも必死に努力して生き抜いたのは、気高くも優しい王女の為だった。
しかし――
「オンディーヌ、また音楽か!」
「あっ…」
自分で作曲した楽譜を奪われる。
「お止めください。これは王女様の…」
「煩い!」
「あっ!」
大事な楽譜を奪われ破られる。
「王女に媚びを売るだけは一人前か」
奪い返そうとするも突き飛ばされ頭を打つ。
くらくらする中大切な楽譜を破られ亀裂が入ると同時にオンディーヌは前世の記憶を思い出すきっかけになったのだった。
(私は…)
そしてその後高熱を出して寝込んだのだ。
皮肉にも前世の記憶を取り戻したことで心を守る事はできても、婚約者のキャルティへの嫌悪感は酷くなった。
横暴で高圧的な態度のキャルティを愛そうと努力していたこれまでの日々は無意味だと思ったのだ。
怪我をしたのも、キャルティは倒れているのを助けたのは自分だと主張したのだ。
もはや何も言うつもりはなかった。
心を尽くしても言葉を尽くしても無理だと判断し心を凍らせる中。
唯一の幸福を感じるのはアンジェリークと過ごす時間だったが、その時間さえもキャルティは邪魔をするようになったのだ。
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