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序章ヒロインの親友として転生
9千の思いを
しおりを挟む一週間後、アリーシャはこの町を去る。
使いとして来た使用人らしき人はリーシエ達を見て顔をしかめていた。
時折視察に来ている中級階級の人間と同じだった。
「こんな汚く貧乏くさい場所だなんて」
明らかに差別の視線を向けていた。
「彼女の荷物ですが…」
「必要ありません。私物は全て捨てていただきます。お邸に到着したら下着からすべて処分して体も清めていただきます」
「そんな…じゃあ!」
「穢れを移すわけには行きません」
まるで孤児院が汚いとでも言いたげだった。
「なんて事を」
「止めなさいリーシェ。相手は貴族様のです」
「でも…」
「アリーシャの為です」
文句の一つでも言ってやりたかった。
こんなの差別ではないかと思ったが、アリーシャの為と言われれば何も言えなかった。
どうする事も出来ず、悪戯に日々は過ぎていく。
「神様、これが彼女の運命だったんですか」
孤児である事を悲しみ苦しんだアリーシャがようやく自分の足で幸福になる道を見つけようとした矢先に酷すぎるとも思った。
「運命の女神ハルモニ…これが運命ならば私は認めない」
教えだとしても、リーシェは運命を信じていなかった。
「自分の道は自分で切り開くわ。運命を変えるのは無理でもある学者も言っていた」
前世で愛読した学者が名言として残越した言葉がある。
「運命の半分は己の行動一つで変わるわ。変えられるはず…いいえ、絶対変えて見せる」
貴族となったアリーシャと会えなくなると言うなら、あらゆる手を使って会いに行けばいい。
「絶対あきらめないわ」
その日からリーシェは店で働く以外は厨房に籠り出した。
そして一週間後。
別れの日がやって来たが、見送りには孤児院の仲間やシスターがいても一人だけ見送りに来ていない者がいた。
「サルジュさん、リーシェは?」
「それが、店にも仕入れ先にもいなくて」
「そんな…どうして!」
一番も見送って欲しい人がいないことに絶望するが。
「待ってぇ!」
馬車に乗り込もうとした時だった。
「アリーシャ!」
「リーシェ!」
何とか間に合ったリーシェはボロボロだった。
「ごめん、どうしてもこれを渡したくて」
「これは…ミルフィーユ?」
「そうよ」
パイで作った華やかなミルフィーユだった。
「ミルフィーユの意味は知っている?」
「ううん?知らない」
「ミルフィーユは千の葉って意味があるの。私の千の願いを込めたから」
ここら辺では苺を採取するのは難しい。
材料の確保も困難だった中、リーシェは走り回ったのだ。
「私が貴女の元に会いに行くわ」
「でも…」
「約束よ。必ず会いに行くわ」
「何を馬鹿な事を…」
傍にいる使用人は鼻で笑っていた気にする事はない。
「だから忘れないで」
「うん…うん!」
絶対に会える。
そう信じてアリーシャは馬車に乗り込み、馬車をずっと見送るリーシェは最後まで泣くことはなかった。
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