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第一部目覚めた先は巻き戻った世界
16.跡継ぎの資格
「困りましたわね…カルロ殿程度なら握りつぶせますが」
今とんでもないことを聞いた気がしたが聞き返す勇気はなかった。
クロードとダンスを踊って数日後、変化が訪れた。
毎日のように邸に贈り物が届けられるようになり貴族の多くはエステルにご機嫌取りをするようになった。
「すべてお返ししてください」
「お嬢様?」
「知らない方達からいただく理由はありません」
大体は察しがついた。
演奏でクロードと王太子殿下にサイレス家の嫡男と演奏したことでエステルに目が行った。
どんなに社交界で目立つ存在であっても貴族社会ではより身分が高い人間に気に入られるのが必要だった。
王位継承権はないが王の寵妃である母親は女性でありながら絶大なる権力に発言権がある。
この国では女性の身分は低く、結婚してから一人前に認められていた。
現在まだ幼く成人もしていないヘレンは容姿以外の価値はないのでエステルの方が利用価値が高かった。
第一王子に懸想され、王太子殿下にも一目置かれ。
辺境伯爵の嫡男にも認められた令嬢という位置づけにいるエステルに媚びへつらうのは当然だった。
王族の王子として認められているのは寵妃の第一子クロードと、王太子殿下のエドワードの二人だけだった。
「下手に受け取れば見返りを求められます」
「かしこまりました」
エステルは無暗に贈り物を受け取ってしまえば後々面倒なことになりかねないことを知っていた。
「ご立派ですわエステル」
「お祖母様」
「無暗に贈り物をいただくなんてはしたないわ」
基本プレゼントを贈られる習慣になれていないこともあるが少し警戒し過ぎかと思ったが不安要素は少しでも消しておきたかった。
「そういえば先日のサロンでダンスを踊ったと聞きましたわ」
「え?」
「しかもお相手はカルロ殿ではなくクロード殿下と」
その微笑から逃げる術はない。
なんせ公爵家を切り盛りしている人物にエステルが勝てるわけもない。
「その、断れなくて」
「貴方が侯爵家に迎えられたことは極わずかな人しか知りませんわ。国王陛下にもお伝えしていないのです」
「はい」
通常養子縁組の手続きをするには時間がかかり、すべての手続きが終わってからも期間を置かなくてはならず。
だから社交の場には極力顔を出さないようにしていたが、先日の演奏会はどうしても出なくてはならなかったのでやむを得ず。
「ただ、サロンには王妃様とモントワール夫人もいらしていたそうで」
「えっ…」
「困りましたわね…カルロ殿程度なら握りつぶせますが」
今とんでもないことを聞いた気がしたが聞き返す勇気はなかった。
(お祖母様)
ただ夫人会でもやり手のガブリエルは聖母のような仮面をかぶりながら鬼だった。
(お祖母様ならやりかねない)
元両親をねじ伏せ、エステルを伯父夫婦の養女に向かえるためにあの手この手を使って脅した事実をエステルは知らない。
現在弁護士を雇って裁判に乗り出せば確実に負けるのはラウル達だ。
証言者も証拠も押さえ、権力から言っても差がありすぎる。
伯爵の地位を得ていてもラウル個人の力などほとんどない。
対してロバートは次期当主として、又侯爵家としての功績は十分果たしているので王からの信頼も雲泥の差だった。
公になってないのにはガブリエルが情報をシャットアウトし、ロバートもこれ以上大騒ぎにならないようにしているおかげだが、そんな事実あの二人は知らない。
「それはそうと、私にまだ隠していることがあるのではなくて?」
「何のことでしょうか?」
「とぼけても無駄ですわ。貴方、剣術のお稽古をしているそうね?」
こっそり練習していたのに既にバレていた。
「私を甘く見ない事ですわ」
「申し訳ありません」
「謝る必要はありません。アルスター家は代々武芸に優れた一族…と言いたいのですが」
ガブリエルは同じように教育したのに長男のロバートは才能を受け継いだがラウルは剣術の才能がなかった。
得手不得手があるから最初こそは気にしていなかったが、ロバートは勉学にも優れていた。
対してラウルは天才肌だったが剣術だけは劣っていた。
それでも当初はロバートよりも優秀だったのだが、優秀だからといって跡継ぎになるとは限らず二人は各々の道を歩いた。
スタートラインは同じだったが二人の間に決定的な違いが生じた。
ロバートは正義感が強く教養高く同僚に好かれていたが、ラウルは天才肌で貴族絶対主義で身分が低い同僚をゴミのように扱っていた。
「私が貴方を跡取りに選んだのは貴方がロバートに似ていたからです」
「私が?」
「そうです。優しくも誇り高く己を殺し他者を生かす心。その心失くしては家督を任せられません」
跡義を継ぐのは長子というのが暗黙の了解だがガブリエルはずっと待っていた。
「私はヘレンにも期待をしていたのです。ですが…無理でした」
「お祖母様…」
「ヘレンは哀れな子です」
両親に溺愛されながらも幸福とは思えなかった。
「貴族としての誇りを知らずに生きて行くことになるのです。人は誰もが誇りを持って生きてくるのです」
「誇り」
「私には見えるのです。貴方の誇りが…心に咲く花が」
人は誰もが心に花を持つ。
同じ花はない一輪だけの花を持っていると言われていた。
「その花を育てるのは貴方自身です。綺麗な花を咲かせるのですよ」
「お祖母様‥‥」
「成し遂げたいことがあるなら…やってごらんなさい」
「?」
意外な言葉にエステルは驚く。
「力を示しなさい。そうすれば周りは納得しますわ」
力さえ示せばロバートは納得してくれる。
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そうなれば貴族の令嬢として適齢期までに結婚しなくてもいいが、さらに苦難の道が待っている。
「負けは許しませんよ」
「はい!」
「女の道筋は一本道。引き返すことは負けと同じ。必ず勝ちなさい」
この先待っているのは苦難多き道ばかり。
それでも愛する人達を守るべくエステルは戦う道を選んだ。
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