ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第一部目覚めた先は巻き戻った世界

19.可能性

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ある昼下がり、執務室で仕事をするロバートの部屋にガブリエルが訪れた。


「少しいいかしら」

「母上、どうされました?」

「エステルのことで話があります」


何時ものとは雰囲気が違う母に思う所が有ったのか、直ぐに書類を片付ける。


「エステルが何か?」

「貴方が気づいていないとは言わせませんよ」

「はい」

チラリと窓からエステルの様子を見ると素振りをしていた。

「知っていたのでしょう?」

「ええ」

エステルが剣術を学んでいることはロバートも気づいていた。


…というより気づかないわけがなかった。


「私の跡を継がせるのは酷と思ったのですが」

「私も最初はそう思いましたが、思った以上にあの子は聡明でしたわ」

「ええ」


アルスター家を継がせてもロバートの仕事を継がせるのはどうすべきか悩んでいた。

「すぐに諦めると軽く考えていましたが…」

「家庭教師の方々も声をそろえて申しておりましたわ。エステルは音楽以外に関しても優秀だと」

「ええ」

ガブリエルは優秀な家庭教師をつけ、授業が終わったら必ず話をしていた。


「王妃様から手紙が来ています」

「え?」

「厄介なことになりましたわ」

差し出されたのはお茶会の招待状だった。

「エステルに目をつけたようで」

「ですが、エステルには婚約者が」

「妙な噂が流れていますのよ」


眉間に皺を寄せながら告げられたのはとんでもないことだった。




「はい?私とクロード殿下が婚約?」

「あくまで噂ですわ」


お茶の時間、庭で紅茶とお菓子を食べながら聞かされたのは先日のサロンでの事だった。


「サロンで踊ったぐらいで…」

「いいえ、クロード殿下が御誘いになったことが原因らしいですわ」

セレナは興奮しながらも話す。


「夜会では仕事の一環として参加し人脈づくりの為にダンスを誘いますが、サロンでは違います」

「えっと…プライベートってことよね?」


社交辞令でダンスを踊ることがあってもサロンでは社交辞令無なので義理立てして踊ることはあまりない。


「迂闊だったわ」

「ですが、何故サロンにあの二人が?」

「そうよね…」

招待状が無くても参加できるようになっているが、サロンに出入りするのを嫌がるジュリエッタが誘うわけがない。

あの場所にいたのはヘレンとカルロだけだった。


「私がサロンに出入りしているのを知っていた…いいえ、だとしても来るはずないわ」

「いいえ、可能性がありますわ」

「え?」


放火事件から一年も放置されていたのでカルロが今更構うなんてことはないと思っていた。




「最近頻繁にクロード殿下はサロンに顔出しているのを知っていらしたのでは?」

「なるほど…それなら合点が行くわ」


クロードに会いたいからサロンに来ていたなら納得が行く。


性格は問題でも見目麗しい外見をしているので惹かれるのは仕方ないことだ。


「中身が最悪でも見た目は美しいですから」

「お嬢様…」

大人しいエステルがここまで言うようになるなんてと、セレナは涙する。

(原因があの不良王子だと言うのが不愉快ですが)


腹黒いセレナは感謝しながらもこれ以上エステルに近づいて欲しくなかった。

「しかしこれからどうされますか?」

「殿下は神出鬼没だしね…」


紅茶を飲みながらクッキーにて手を伸ばしたが、クッキーはなかった。


「最高の誉め言葉だぜ?」

「「「殿下!」」」

音もなく背後から現れるクロードにセレナとクニッツが戦闘態勢になる。


「だから俺を睨むなよ」

「どうやって入ったのです。門番は…」

「問題ない」

堂々と不法侵入をする王子を睨む。

「殿下、ちゃんと正門からお入りください」

「面倒だ」

(この人は!!)


日に日にエスカレートするようになったクロードはやっぱり前世の時から変わらないのではないか?

(このまま不良まっしぐらかしら?)


頭が痛くて仕方ないエステルはカルロのことをどうにかしなくてはと考えているのに、さらに問題を抱える羽目になっている。


「何を喜んでいらっしゃるんです?」

「いや?なんでもないぞ」

機嫌のいいクロードを見て何か企んでいるのではないかと疑ってしまう。



「お代わり」

「はいはい…」

カップを差し出しお代わりをするクロードに紅茶を注ぐ。


「お嬢様…」

紅茶を注ぐエステルに笑みを浮かべる。


(律儀な奴…)


迷惑そうな顔をしながらも邪険に扱わないエステルに嬉しそうにするクロードだった。



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