ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第二部メトロ学園へ入学

3.運命共同体

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入学式で新入生代表に選ばれたエステルは悪目立ちしていた。


特に騎士科では史上初の女性で、尚且つ最年少で合格したので嫉妬の視線を受けていても仕方なかった。


「騎士科に女がいるぞ」

「ありえないだろ…」

「どうせ金でも積んだじゃねぇか?」


教室でも似たようなことを言われるのは解っていたので気にも留めなかった。




陰口を言われるのは慣れていた。
社交界でも散々な言われ方をしていたのだから。

(どうでもいいわ)


席に着き、隣の人に挨拶する。

「よろしくお願いします」

「おお…」

無口な人だと思いながら席に就く。
特に何かを話すわけでもないので挨拶だけすませて授業の予習を始めようとしたが…


「エステル!」

「エステルさん!」

教室に入って来たのはユランとルークだった。


「良かった…僕一人だと不安で」

「こいつ教室の前でオロオロしてたんだぜ?別に食われたりしねぇよ」

「そんな酷いです!」

涙目で訴えるルークだが、完全にユランに遊ばれているとは気づかない。

「まぁ、仲良くしようぜ?俺達運命共同体みたいだしな」

「運命…」

「そうそう、首席がいれば試験の時も心強いしな!」

他力本願のユランにルークは何とも言えない表情をしているが…


「さっきからやかましいぞ!」

「あ?」

「教室で大きな声をあげるんじゃねぇ!」

バァンと机を叩く。

「あ?別にいいだろ?体格がデカいのに」

ピシッ!


「よか加減にせんね!!」


「「は?」」

いきなり飛び通った言葉に二人は訳の分からない表情をする。

「おなごしに頼るなんて男ん風上にもおけなかたい」

「いや、なんて言っているか解らねぇって。ちゃんと言葉を話せよ」

「えーっと…何を言っているのでしょうか?」

茶化すユランだが本当に言っていることが解らず、ルークも辞書で調べ始める。


「私は気にしておりませんので落ち着いてください」

「言葉の解るんかい?」


「ええ、少しぐらいなら」

「嬉しか!」


さっきまで怒っていた男はエステルを見て涙目になる。

「田舎者は馬鹿にしゃれて真面に話もしとってくれなか」

「まぁ…そのような方は言わせておけばいいのですわ」

地方出身者を馬鹿にする平民のブルジョワは少なくない。

貴族よりも裕福な平民もいるので時々辺境の地の人間に対して差別して、方言を話すと見下したりもする。

「その訛りは西部の方ですね」

「生まれはカリスタたい」

西部は火の国とも呼ばれており年中常夏だった。


「俺はサブローたい」

「素敵なお名前です」

響きが綺麗だと思ったエステルは笑みを浮かべる。

作り笑いではなく自然な笑みにサブローは嬉しくなった。

「エステルさんはむぞろしか…仲良くして欲しか」

「ええこちらこそお願いします」

ストレートなサブローは飾った言葉は一切言わなかった。

貴族の社交界では自分の言葉を素直に出すのは愚かで教養の欠片もないと言われているが太陽のように朗らかに笑うサブローと話すと温かい気持ちになる。


大きな手と大らかな性格に落ち着いた。


「おい、俺と反応が違うんだけど」

「気のせいです」

「俺には冷たいじゃねぇか!」

「さぁ?」


ユランがしつこく煩わしく思う中背後では嫌な目で見て来るクラスメイト達。


「男に媚びるのだけは上手いみたいだな」

「教師も手玉に取ったんじゃねぇか?」

下品なことを平気で言う彼等にルークも睨みつけそうになるが…

「にしゃ等!」

「サブローさん」

今にも怒り狂って飛びつきそうだったが急いで止めに入る。


「なん?」

「相手にしなくてもいいです」

「ばってん!」


根がまっすぐなサブローは姑息な手を使うのが大嫌いだった。
正義感の塊でもあるので正々堂々としているのだが、一番許せないのは女性を傷つける行為が大嫌いだった。


「俺は女を傷つける奴は好かんたい!」

「同感だ」

「僕もです」


この時三人の心は一つとなったのだが当の本人は気にも留めていない。


「時間の無駄です」

バッサリと切られ三人は唖然とする。


「時間の無駄ですもの」

「エステル…」

「言いたい者には言わせておけばいいのだから」

ある程度偏見の目で見られるのは覚悟していた。
女でありながら騎士科に入れば性差別をされ罵倒浴びせられ公平な目で見てもらえないと解っていた。


(性別は関係ないわね)

前世では魔法科に席を置いていたが貴族というだけで罵倒され蔑まれ妬まれていた。

誰も近づかなかったが都合のいい時だけすり寄って来るクラスメイトはいたのだ。

でも今は違う。


(あの時は一人だった)

孤独に耐え、蔑まれるのにも耐え続けて苦しんでいた。

でも、今は一人じゃない。

(私の為に怒ってくれる人がいるのだから)

雑音は多くっても傷つくことはない。


孤独だった過去の自分はもういないのだから。


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