ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第五部見習い騎士

21.貴族の務め

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強引に部屋に連れて行かれるエステルは逃げることができなかった。


「さぁお願いします」

「かしこまりました」

待機していた侍女は待ち構えていたと言わんばかりに構える。


「お母様、何を」

「殿方を迎えるのにその格好ではダメです。身も綺麗にしてきなさい」

「何故!」

顔合わせをするだけで何故体も綺麗にしなくてはならないのか。


「コルセットもお願いします」

「はい、お任せください」

「だから私は!」

嫌がるエステルだったが、ここにいる侍女達は年配でやり手の侍女ばかり。

抵抗しても逃げることはできず。

「失礼します」

「きゃああ!!」

服をはぎ取られてしまう。


「綺麗に磨いてきてください、お化粧もばっちりにしてくださる?」

「お任せください。どこの令嬢よりも美しく変身させて見せます」

「お願いね」


(私の話を聞いて!)


エステルを無視して一番年配のお局らしき侍女とヴィオラがアイコンタクトを取る。


「お母様、どういうことです」

どうして、体を綺麗にしてお化粧もしなくてはならないのか。

それにテーブルにはお茶の用意が二人分されているではないか。


「エステル、貴方ももうすぐ16歳でしょう?」

「はい」

「貴方の年齢ならば結婚しても可笑しくないわ。貴方には婚約者としてその方に合っていただきます」

「はい?」


婚約者と言われ唖然とする。
今まで結婚のことは何も言わなかったのに何故今更?と驚く。


「前例もあってロバートは強く言えませんでしたが…婚約の話はいくつかありますの」

「でも!」

「もちろん、あの騒動のようなことになって欲しくないわ」

婚約破棄騒動とお家問題はアルスター家にとってかなりの痛手だった。

悪い噂とは広まるのがあっという間で、世間体も悪くエステルは傷物令嬢と言うレッテルは変わらない。

「私は社交界では…」

「解っていますわ。でもあの方は構わないとおっしゃってますのよ…貴方を妻に欲しいと」

「なっ!」


ヴィオラの目は本気だった。





「貴族社会とは歪んでいます。教会で貞節を誓いながら貞節なんてありませんわ。でも、私のように例外もあることを忘れないで」


愛し愛され結ばれた夫婦もいる。
ヴィオラとロバートは互いに思い合って夫婦になったのだから。


「エステル、貴方は本当の意味で知らなくてはなりません」

「知る?」

「女性としての生き方、戦い方を」

ぎゅっと手を握りながらも祈るように告げる。


「貴方はアルスター家の娘であり、後継ぎです」

「お母様…」

「後継ぎとなる以上、覚悟を持って守るべきものを守らなくてはなりません」


アルスター家を守り、ロバートの後を継ぐことは望んでいたことだ。

「貴族である以上、役目を果たし…そして妻となり母とならなり本当の覚悟を持つのです」

(妻…)

重くのしかかる言葉は鉛のようだった。


(私はその人と夫婦になるの…?)

ヴィオラは既に決めている。


「貴族令嬢として殿方に嫁ぎ良き妻となるのです」

「ですが…」

「貴方が騎士が違えるわけではありません。既婚者の女性騎士もいるのですから」

あくまで騎士を目指しても良いと言うが、結婚はしなくてはならないと言っているようだった。


「本日は貴方とその方の顔合わせです。合わずに帰るなど許しません」

「‥‥解りました」

今まで自由にさせてもらっていたが、いずれこうなると解っていた。


解っていたが、胸が苦しくて仕方なかった。


「そのような顔をするものではありません。正式に決まったものではありません」

「ですがお母様は、その方を大層お気に召しているのでしょう」


婚約の顔合わせということは殆ど確実と言うことになる。
ただ現段階ではまだ仮というだけだったが、ヴィオラがここまで押すぐらいだから進められるだろう。


「相手方は無理強いは貴方に無理強いはしないとおおせです」

「え?」


「貴方の気持ちを一番に考えると言っていらしたのです」

顔合わせはしてもすぐに婚約し結婚という形を取るのではない。
まずは顔合わせだけと言われ驚く。


「お母様、どういうことで…」

「後は自分で確かめなさい」


有無を言わせない母の言葉に落ち込むもノックの音が聞こえる。


「いらっしゃったわね」


「あっ…」

顔も知らない男とお見合いをしなくてはならない状況にエステルの表情は強張り、死刑宣告を待つ囚人のようだった。

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