ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第五部見習い騎士

26.膝枕

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この世は理不尽でできている。
そして女神に嫌われているのではないだろうか?


それともこれまでクロードからの告白を先延ばしにした罰なのか?

エステルはぐったりしながら思っていた。


「うう…」

「あまりヴィオラ様を責めるなよ」


精神的にも肉体的にも限界で座る体制を保つことができなかったエステルはクロードに膝枕をされている状態だった。


(これ、普通は逆じゃない?)

何故男性に膝枕をされているのだろうか。

(いや、別に私が殿下に膝枕をしたいわけじゃないわ!)


一人でツッコミを入れるエステルは行き場のない感情を吐き捨てる場所がなかった。

「大体お前は隙が多すぎなんだよ、俺から身を守れないなんて騎士失格だぜ」

「クロード様から守れたら、どんな敵将にも勝てます」

「人を化け物みたいに言うんじゃない」

ああいえばこう言う。
さっきまでの空気は完全に消えていたが二人のやり取りは兄が妹に言い聞かせるようなものだった。


「お前はどんなに剣術を磨いても女だ。力では敵わない」

「ぐっ…」

これが他の見ず知らずの男であったら決闘を申し込んでいたかもしれない。

「まぁ、そう怒るな…ドレスにナイフを仕込んでいるのはギリギリ合格だな」

「ちょっ!!」

ドレスの裾をめくるクロードに抗議するも、軽くスルーされてしまう。


「俺だって今日の事は知らなかった。まぁサプライズだろうな」

「恨みます」


今頃別の部屋でヴィオラは笑顔でお茶を飲んでいるだろう。


「母の笑顔の理由が解りました」

ここまで強引なことをする人ではないのにおかしいと思った。

いきなり見合いしろなんて言う時点で気づくべきだった。
家同士の婚約は利益の追求だが、アルスター家はこれ以上利益を望む必要ない。

あるとしたらエステルの伴侶に相応しい貴族の子息だろう。
身分が良くても器量が悪ければ意味がない。

その点クロードは貴族でありながらも母親は平民出身でありながら女宰相と言われる程の頭脳を持ち、王の寵妃なのでアルスター家と敵対することはない。

ただし身分的な問題はあるが、ガブリエルが手を出せばクロードの出自などどうにでもなる。

ましてや第一王子と言う立場なら母親が貴族ではなくてもそれほどデメリットになることはない。


「俺の我儘だ…許せ」

「でも」


色々考えてすぎているエステルは今回の強引な見合いに文句の一つでも言ってやりたいのに、心の底ではホッとしていた。


(どうして安心しているのよ)


部屋に来たのはクロードで安心した自分がている。


クロードへの気持ちは親愛の情であるはずなのに。

そうでなくてはならないはずなのに…


なのに優しく髪を撫でる手が愛おしいと感じていた。


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