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第七部可憐な皇女と聖騎士
9.寵妃と母
しおりを挟むモントワール侯爵夫人に聞かされた過去はとても過酷な内容だった。
王宮に単身で乗り込み、ずっと一人で戦い続けることはどれだけ神経をすり減らしていたのだろう。
「モントワール侯爵夫人」
「エステル様、どうかお母様と呼んでくださらない」
「ですが…」
まだ婚約期間中で、しかも正式なものではない。
なのにもう母と呼ぶなんていいのだろうかと迷いが生じる。
「貴方は私の娘になるのだから」
「ですが私はまだ正式にクロード様の婚約者として認められておりません。それに王妃様の次に地位の高い方にそのような…」
モントワール侯爵夫人は苦笑しながらも、嬉しく思っていた。
そんなに地位を気づき上げようとも血筋で見下されるのが当たり前だった。
以前にもクロードに懸想した令嬢はモントワール侯爵夫人の陰口を言っていた。
貴族社会では身分乏しきものは貶されるのが当たり前だった。
王妃のように身分関係なく接してくれるのが珍しいのだから。
(やはり、あの子の目に狂いはなかったわ)
勘が鋭く観察力に洞察力の高いクロードは他人に対して警戒心が強い。
表抜きは見破られないようにするが、エドワードの害となる貴族には容赦なかったし、王族に反旗を翻そうな一派の令嬢に対しても同じだった。
常に仮面をつけ続けなくてはならない母親と同じくクロードも同じ道を歩んでいた。
そんなクロードが自ら望みどんな手を使ってでも欲しい少女。
古式伝統となる求婚の作法を使った時は驚いたが、クロードは本気だった。
今まで何に対しても程々にして本気にあらなかったが、あの婚約騒動以降からクロードは地位を得るべく必死だった。
(エステル嬢を選んだのは間違いではないわ)
高位貴族であるならば障害も大きく、相手は身分に囚われるならば形だけの夫婦になるかもしれないと何度か心配したが、直接言葉を交わし、決定づけたのはあの時。
侍女が王族暗殺を企て、クロードを罵倒した時にエステルが魔力を暴走させるほどに怒りをぶつけたことだった。
普段から大人しく温厚だったエステルを知るモノが見れば驚かずにはいれないが、母としては嬉しかった。
そこまで我が息子を慕ってくれていた。
クロードのアプローチを拒絶し続けていたのでその気は無いのでは?と疑ってた自分を恥じ悔やんだのだ。
エステルはクロードを愛しているが故に拒絶していたのだと。
愛しているからこそ距離を取らなくてはならなかったのだと察することができた。
これほどにまで深く愛し合っている。
ならば親として何が何でも一緒にさせたいと思った程だ。
「エステル様、私は貴方に感謝してますのよ」
「私に…ですか」
「ええ、あの捻くれた息子は本気になることはありませんでした」
妾腹の子供と言うだけで、何もかも取り上げられた少年時代。
勉学も剣術も才能があるのに、母親の血筋が平民と言うだけで地位を得ることが叶わず、未来に希望を描けなかった。
「王宮には愛など無意味であることを幼いうちに知ってしまったから」
「クロード様は、愛情深い方です」
「そうね…今なら解るわ」
クロードが愛を知り、得ることができたのはエステルの存在があったから。
「貴方がいなければあの子は今も変わらないままだったわ」
女宰相と呼ばれようとも、王宮での雑音を消すことはできない。
クロードを蔑む貴族から守ることもできず、歯がゆく思ったことは幾度もあったが…
「どうかクロードをお願いします」
「夫人…」
クロードに優しい薔薇を与えてくれたエステル。
これから先、どんな過酷な試練が待っていたとしてもエステルが支えとなってくれる。
永遠に咲く華となり。
「それから、子供は沢山作ってくださいね」
「へ?」
「私、子供は一人でしたけど。貴方は若いからたくさん産んでくださいな」
「なっ…何をおっしゃいます!」
真っ赤になるエステルにモントワール侯爵夫人は細やか悪戯心が芽生える。
どんなに大人びてもまだまだ純情な乙女。
しばらくはこのネタでからかって楽しもうと考えるが…
「夜のお勤めなら私が指南いたしますわよ」
「ひぃ!」
半分は本気だった。
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