ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第八話父と娘、愛の死闘

22.聖女エルキネス

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真っ白な空間だった。
フワフワと体が浮いていて、不思議な感覚だった。



――エステル。


(誰?)


誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。



――起きてください。

か細くも優しい声が聞こえ、ゆっくりと目を覚ます。


何もない空間なのに音がかすかに聞こえた。

ポチャっ!


雫が落ちる音がした。



『エステル…』


声は少しずつしっかりと聞こえる中、光が人の姿になる。


『私の名前はエルキネス』

「えっ…」


エステルの前に姿を見せたのは、アルカディア王国の英雄であり聖女と呼ばれた少女だった。


『ずっと貴方を呼んでいました』

「え?私を…」


大英雄とされる聖女が何故自分を呼んだのか。
もしかして死んでしまい黄泉の世界に来てしまったのか不安を抱く。


『ここは夢の世界、貴方は生きています』

「じゃあ…そうして」

『貴方に語りかけていましたが、ずっと外敵から邪魔が入り叶いませんでした』

悲しげな表情で告げられる。
外的とはなんのことを言っているのだろうか。


『エステル、時間がありません』

「聖女様?」

『再び彼等が動き出しました』

「彼等?」

エルキネスが言っていることが解らない。

『本来ならば貴方はあそこで死ぬはずではなかった…彼等によって貴方は死にました』

「なんですって!」

『貴方の存在を恐れた者達が行いましたが黒幕は別にいます。彼等を滅さなくては…本当の意味で運命は変わりません!』


エルキネスの言葉に震えが止まらない。
全ては仕組まれていた運命だとは知らずにいたからだ。


『エステル、どうか運命を変えてください』

「ですがエルキネス様…私は」

時間が巻き戻っている今、なすべきことをするつもりであるが、大きな力が働いている今、どうすればいいのか。


『運命とは常に変わります。天に定めた運命に従うのではなく抗うことが必要なのです』

「私は…」

一人でその運命に立ち向かえるのだろうか。

エステル一人でできることは限られている。


『エステル、貴方の前世はあまりにも過酷でしたが…今もそうですか?』

エルキネスの言葉に目を覚ます。
前世では一人ぼっちだったが、今は違う。


『貴方には命に代えても守らねばならない人、場所がありませんか?』


愛する人。


『この手で守るべきものはありませんか?』

手を差し伸べてくれた友人達。


そして前世の頃からずっと手を差し伸べてくれたエドワード。

今のエステルを作り出してくれた全てのもの。


「ですが、私には女神様の声は聞こえません…私に大それたことができるでしょうか」

『私も天の声が聞こえたから行動したわけではありませんよ』

「え?」

慈悲深い女神のような表情をしながらエルキネスは優しくも説き伏せる。


『私も守りたいモノがありました。そのためにどうすべきか考えた結果です』

聖女として見出されたのは後からついてきたにすぎない。
エルキネスは自分のすべきことを考え、自分の心にしたがっただけなのだから。

『エステル、貴方には支えてくださる方がいます。私にも仲間がいたように』

「エルキネス様…」

『そしてどうか、太陽を守ってください。月は太陽を守る光なのです…うっ!』

エルキネスが苦しみ出し、黒い靄が襲い掛かる。

『彼等の干渉です!』

「エルキネス様!!」

『エステル…いいですか!運命の歯車を変え、太陽を…王家を守ってください!』

黒い靄はエステルにも襲い掛かかろうとするが、ペンダントの指輪が光を放ち黒い影を弾く。


「これは…」

『エステル、指輪の光が導く先に進むのです!』

「ですがエルキネス様は…」

エルキネスに手を伸ばすも叶わず光がエステルを吸いみ、その場から消えた。



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