ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第九章辺境の聖女

1.学園に戻って

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長いようで短い期間の実習を終えたエステルはメトロ学園の門をくぐって行く。

王宮での暮らしが忙しなさすぎたので、すっかり学園が第二の家となっているのは不思議な気分だった。


そう、学園に戻るまでは。

「おはようございます!」

「おはようございます」


「おはようございます!」

何故か見知らぬ新入生に挨拶をされ、エステルがはて?と思いながらも笑顔で挨拶をする。

「おはようございます!」

「おはようございますエステル様!」

「おはようございます」

すれ違う生徒に挨拶が続き、丁寧に挨拶を繰り返す。
ずっと笑顔で挨拶をしていた所為で顔が痛かったが、ここは辛抱だと言い聞かせる。


「すごいです…皆さん、エステル様に挨拶を」

「本当ですね」

傍で見ていたアリスとルークは感心する。


「前から目立っていたけど…どうなってるのかしら」


代表生徒であるエステルに憧れる生徒は多かったが、今ほど酷くなかったはずだった。


「きゃあ!」

その時、急に突風が舞い込んだ。
新聞の一部がミシェルの顔面に当たり、悲鳴をあげる。

「ちょっと!なんなの?折角早朝三時に起きて整えたのに!」

「お前、そんな無駄な事の為に時間かけているのか!」

「失礼ね!朝のお化粧は乙女の神聖なる儀式よ!」

何度も言うがミシェルは男である。
ただし、本当の女性よりも乙女チックで身だしなみもきっちりしている。

「気持ち悪りぃんだよ!」

「お黙り!この私がどれだけ時間とお金をかけて美貌を磨き上げていると思っているのよ!」

「知らねぇよ!」

ユランの知った事ではない。
むしろ、そんな裏事情なんて知りたくもないのだが…


「それでミシェルさん、その新聞は」

「どれどれ?」

このままでは新学期早々に喧嘩が始まるので気を使い話題を反らせたルークに、空気を読んだジークフリートは新聞を読み上げる。


「王家を救った聖なる騎士誕生…命がけの忠義を貫く女騎士!」


「「「は?」」」

「忠義を貫き、第一王子の誇りを守るべく戦う様は、まさしく騎士の鑑」

つらつらと読み上げるジークフリートに全員はエステルを見た。


「なっ、何ですの」

「愛と死闘の末に真実の愛を貫き王子と愛を育むロマンスがここに誕生する」

「はい?」


ここまでくれば鈍いエステルにも解らないわけがない。

新聞の記事に書かれている人物はエステルで間違いはないだろう。

「血を流しながらも恋人との赤い糸を断ち切らせなかった美しき乙女の強さに神も祝福の鐘を鳴らした。愛し合う二人は‥‥」

「もう結構です!」

いつの間にか感情をこめて読み出すジークフリートにエステルは怒鳴った。


「何でこんなものが!」

ビリビリと新聞を破るエステル。

「無駄ですよ。既にこの新聞の日付は三日前です」

「なんですって!」

「既に国中がしっているでしょうね?貴方が愛の為に実の父君と死闘を繰り広げたことも…それに」

「きゃあああ!クロード様ぁぁぁ!」

新聞の一番大きな見出しを見るとエステを抱きしめお姫様抱っこをしている写真が大きく張り付けられている。


「いやぁぁぁぁ!!」

ミシェルはさっそくハサミで写真を切ってファイルに収めている。



エステルに至ってはこれ以上ない程恥ずかしくて仕方ない。


「穴…穴を掘らないと」

「おいおい、何やってんだよ!」

急いで穴を掘ろうとするエステルをユランが止める。


「無理、教室に入りたくない!」

「無茶言うな」

「そうですよ、隣国にも知れ渡っているんですから開き直ればいいんですよ」

「おいルーク!」


フォローのつもりで言ったルークだったが、さらに追い打ちをかけていることなど本人は気づいていない。


「ルークあんたもやるわね」

「爆弾と」

「ええ!でもでも…おめでたいですよ!」

エステルからすれば、学園内だけでも厄介だった。
国内で既にクロードとのことが広まり、隣国のエルラド帝国にまで広まっているなんて恥ずかしくて仕方ない。


「まぁ、いずれバレるんだし。早い方が傷は浅いわね?」

「傷って何ですか?」

「そりゃあ…色々よ」

ミシェルは明確な言葉に出さなかったが、卒業と同時に結婚することが決まっている以上さらなる困難が待ち受けているのだが、言えばエステルが失神するの解っているが故の優しさだった。



(まぁ、時間の問題よね)


ミシェルは母親の心境だった。
多方面で色々優れていても、やはり抜け作のエステルを少し不憫になった。


しかし、エステルに襲い掛かる波紋はまだ始まったばかりだった。


「そう言えば、新学期に編入してくる生徒がいたよな」

「そういえば…」

すっかり忘れていたが、実習に行く前に特別枠で編入して来る辺境伯爵の御令嬢が今日入って来ることを思い出す一同だった。

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