ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第九章辺境の聖女

25.見せられた過去2

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何かの悪夢ならばすぐに目覚めて欲しかった。
塔から見える町は燃えていて、国民たちが武器を持って王宮の門に押し寄せている光景が見える。


「ゲホッ…ゲホッ!」

牢屋の中ではエステルが咳き込み吐血する。


『エステル様ぁ!』


泣きながらんもエステルに駆け寄る。
何もできず涙を流すしかできない無力な自分に苛立つ。


(どうして…これが未来だとでも言いたいの!)


こんな最悪な結末なんて知らない。
エステルはこんな惨めな生き方をするなんてありえないのだから。


(これは夢よ…悪夢なだけなんだから)

現実ではエステルは婚約破棄をした元婚約者とは決別し、本当の両親の元で幸せになり。

苦難の末に愛する人との未来を勝ち取ったはずだ。
こんな最悪な結末信じたくない。


なのに、ただの夢とは思えないでいた。

「水を…」

ヘレンが持って来た水を飲もうとするエステル。

一口含もうとした時だった…


ガシャン!


『エステル様?』

コップは割れ、零れた水の色が染まっていることに気づく。


『エステル様…エステル様!!』

水には即効性の毒が含まれているのに気づいた。
この毒には覚えがあった。


そう、あの時の毒だった。

『王族暗殺未遂の毒…』


同じ種類の毒だと気づくのに時間はかからなかった。


『エステル様!』

「ようやく…天に召されることができる」

『そんな!』

手を取ることができなくとも必死でその手を掴む。


「申し訳ありません、エドワード様…アントワネット様」

瞳から零れ落ちる涙はどこまでも美しい雫だった。


「なんの…役にも…たてな」

『嫌ですエステル様!』

死ぬのを望み、何処までも穏やかな表情に絶望するアリス。


ずっと強かったエステル。
どんなに辛くても前だけを見据えていたエステルがこんなにも儚い存在となっていたなんて知らなかった。


『いや…エステル様!』

必死で呼んでもエステルには聞こえず、ついに息絶えてしまう。


「いやぁぁぁぁぁ!!」


敬愛し恋い慕うエステルのあまりにも残酷な結末を見たアリスは塔の中で悲痛のをあげた。



あまりにも酷すぎる仕打ち。
目を閉じると記憶がガラスの破片のようになり映し出されていく。


その記憶はエステルが幼少の頃から受けた虐待まがいなものばかりで耳を塞ぎたくなるものばかりだった。


「ふっ…もうやめて…もうやめてください!」


耳を塞いでも目を閉じても見えて来る映像は走馬灯のようにかけめぐり、精神的にも追い詰められるアリスは意識を手放した。



――こんな悪夢見たくない。


強く、強く願った時。
強い光がアリスを包み込み真っ暗な世界に光が差し込んだ。


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