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第一章
1.婚約解消
大勢の前でとんでもない事を言いだすロイドにリリアーナの父は唖然とした。
「何を言い出すんだ!」
「これはリリアーナの願いです。我が国の癒しの一族でありながら役に立たないことを気にしていました。これ以上の誉れはないはずです」
「なっ…」
アンシー家は辺境地に住まう伯爵家で千年以上も続く武闘派一族だった。
リリアーナは癒しの姫として辺境地で治癒師として働いていたが、魔導士のように戦う手段はなく。
聖女のように強大な結界を敷く事は出来ない。
治癒師と言えど、限度もあるので周りからは武人を輩出する一族に出来損ないが生まれたと罵倒され、あげくの果てに見た目が美しくない事から更に立場が悪くなった。
対する兄のルーカスは怒りを露わにして抗議するも、既に先手が打たれていた。
貴族達は拍手を送り断れない状況にしていた為、王も何もいえなくなっていたのだが、この時ロイドの口元は笑っていた。
すべては体裁よく婚約を破棄したかったのだろう。
「解りました。お受けします」
「リリアーナ!」
「何を言っているのか解っているのか!」
なんとかして止めようとする父と兄だが、こうなった以上嫌だと言えば貴族達にさらに糾弾されるだろうと判断した。
何よりリリアーナを良く思わない者は多い。
ここで社交界で爪はじきに合うのが自分だけならまだ良いが、騎士としても未来のある兄の将来を潰したくなかった。
だからこそ受け入れたのだ。
決してロイドに従ったわけではない。
「ただ、最後に我儘をお許しいただけるのであれば」
「良い、何でも申してみよ。できる限りの事はしよう」
王は痛々しい表情をしながらもどんな願いも叶えてやりたいと思った。
せめて物の償いだった。
「では、私が竜の国に行くまでの時間は家族と過ごす許可を。そして引き渡しの際は兄を護衛の騎士として選んでいただきたく思います」
「何?」
「故郷を離れるまで兄と一緒にいる我儘をお聞かせください」
涙を溜めて訴える姿に王は泣きたくなった。
「良い…その程度の事は我儘にならぬ!なんと健気な」
アンシー家は仲睦まじい家族だった。
早くに妻を亡くした父のオーディーンは後妻を迎えることはなかった。
年の離れた兄は妹の美醜はどうであれ溺愛し愛情を与えた。
愛情深い二人に大切にされ育ったのだからリリアーナにとって理想の男性は二人以外いなかった。
「そしてこうなった以上は婚約を解消していただきたく思います」
「うむ…」
「ロイド様、折角のご縁が残念です」
「ああ、本当に…」
そう言いながらニヤニヤ笑っているロイドにアンシー家一同は思った。
絶対に思ってないだろうと!
全ては策略だったのだと知ったリリアーナは最後の抵抗に告げた。
「そしてもう一つお願いがございます」
「良い。何でも申すが良い…そなたは我が国の聖女の命の恩人でもあるのだからな!」
涙を浮かべながら王はどんな願いも叶えると宣言した。
それを待っていたと言わんばかりに告げたのは婚約と同時に奪われた物を取り返す事だった。
そんなことも知らずにロイドは終始ニヤニヤと笑みを浮かべていたのだったが、リリアーナは最後に死んだ後は呪ってやると誓うのだった。
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