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第三章
1.地上の竜
しおりを挟む天空に位置する大国と言われるクリステリアであるが、地上にも住居は存在していた。
人里から離れた辺境地で、世界樹のすぐ近くにある山だった。
霊山と言っても過言ではなく、竜騎士が修行に使う竜の谷とも呼ばれる場所だった。
そのすぐ傍にて。
「ありました!ありましたよ陛下」
「これこそ東の国のキノコの王様だ!」
二人の男女が、農民のような服装をしながら背中には籠を背負いキノコを採取していた。
見た目は美男美女で、護衛は美男子なのだから余計ミスマッチだった。
「はぁー、愛しのキノコちゃん。どんなに美味しいのかしら」
「聞けば松茸という名前らしい」
現在二人は新婚旅行に来ていた。
しかし皇族の新婚旅行とは随分異なりかなり貧相だった。
「皇族の新婚旅行ってこんなのでしたか?」
「そこは突っ込むな!竜后陛下が美味しい物を食べれる旅行がしたいと仰せだ!」
「ロッテンマリア様も良く許しましたね」
「交渉の末に許されたのだ」
どんな交渉か等考えたくない。
普段から口うるさいロッテンマリアであるが、これまでの功績を考慮してのことだ。
ああ見えて寛大な性格もしているし、勉強にもなるとの事だった。
「陛下はあの通りだ。かかあ天下再来とまで言われている」
「そういえば初代竜帝陛下も竜后陛下にかなり甘かったと聞きますね」
優れた竜帝でも妻には弱い夫であったのだった。
そしてそのダメ夫は目の前にいるので頭が痛くなるのだ。
「陛下、もっと沢山欲しいです」
「いくらでも良いよ。ここらの山は僕の所有地だから。後、一部山を買い取ったから、今後は僕達でキノコを栽培しよう」
「大好きです陛下!」
「ああ、僕のお嫁さんが可愛い」
冷めた目で主を見つめる傍仕え達。
あの騒動が嘘のように思える程平和な時間が続いていた。
「さぁ…うわ!」
松茸を求めて走ると何かに躓き倒れる。
「竜后陛下!」
「大丈夫ですか!」
「怪我はないかい」
地面にダイブするリリアーナを助け起こすと足元に何かが突き出ていた。
「これ何かしら?」
「行けません!」
ディーンが止めるもスコップで土を掘ると、中には巨大な竜が埋まっていた。
「へ?赤い竜?」
「これは地竜だ…何で土の中に」
土を掘り起こすと体を丸め、衰弱した竜が虫の息だった。
「とにかく…って、何をしているんですか!」
「え?とりあえず治癒を」
「竜后陛下!弱って居ようとも地上の竜は危険です。我ら敵対心はないと言えど気性が荒いのです」
地竜の中で赤い竜は特に気性が荒く、荒れ狂う竜とも呼ばれている。
過去に国一つを簡単に滅ぼしたとも言われる程危険な種族であったと言われている。
「ううっ…」
「あ、目覚めた。大丈夫ですか?」
しかし本人は気にすることなく尋ねる。
警戒心の欠片もないようで、周りは冷や冷やしたのだが、赤竜の第一声は。
「ご飯を、恵んでください」
「「「は?」」」
破壊の竜には似つかわしくない弱弱しい声だった。
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