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13優しい侍女
しおりを挟む下世話な噂だ。
私は早々に独立をしたのは騎士になる事を望んだからだ。
決して追い出されたわけではない。
そんな邪推をして噂を流している者がいるのだろう。
「酷い…酷すぎます」
「ニナ、君も侍女ならこの程度で泣いてはダメだ」
「この程度?」
「王宮ではこの程度の噂で流されては生きていけない。リディア様を生涯お守りするならばどんな時も感情的になってはならない。私達騎士も同じだ」
どんな噂を流されても動じない強さを持たなくては。
若くして私もチャールズもディアッカも出世したからこそ噂を流されることは少なくなかった。
だからと言って負けてはダメだ。
「シオン様はどうしてヴィッツ令嬢と婚約を…」
「我がアスハルト家は辺境貴族だ。王家に忠誠を誓っていても中央からは疎まれている」
「その為に婚約を…」
「派閥争いを悪化させない為でもあったが、彼女と私は幼馴染でもある」
どうせ夫婦になるなら良い関係を作りたいと思ったが、中々上手くいかない。
「騎士団ではなく近衛騎士になる事をサンドラは望んでいた」
「そんなの!」
「独身を貫くならば近衛騎士も選択しただろうが…婚約者を得た状態では難しい。だが私の判断は軟弱だとも言われたよ」
私はサンドラの気持ちを大事にしたかった。
だけど、心は離れて行くばかりだった。
「本当は私と婚約をしたくなかったのだろう…あの噂もすべて偽りとは言えないな」
もしサンドラが私を疎ましく思っているとしたら?
ヴィッツ家の使用人も私が邪魔だと思っているのならば…
「私は察しが悪いようだ。騎士の癖に」
「そんな…」
「団長としても失格かもしれない」
ただ噂は本当なのか確認すべきだろうか。
そしてサンドラも気持ちを。
だが、本人に確認するまでも無く噂は広い範囲で広がり。
そしてサンドラには…
「サンドラ話があるんだ」
「はぁー、なんて素敵なのかしらラインハルト殿下」
「サンドラ…」
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
私を見るのも嫌なのか視線を合わせない。
「そんなに彼が好きか」
「当たり前な事を聞かないで。どうして貴方はライルハルト様じゃないの?どうして私の目の前にいるのが貴方なのよ。神様は残酷だわ」
「そうか。彼と一緒に生きたいんだな」
「当たり前でしょ?もし生まれ変わるなら貴方なんかと婚約しないわ」
噂は噂だと思ったが、ここまで思い詰めさせていたのか。
「そうか。解ったよ」
「今さら?本当に馬鹿ね」
そうかもしれない。
私は馬鹿だった。
ここまで言われないと気づかないなんて。
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