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65花嫁衣装
しおりを挟む王都では結婚シーズンというのがある。
対して梅雨から夏にかけては結婚式を挙げる人はほとんどいなかった。
だから今の時期は花嫁衣装をそろえるには好都合だった。
はずが――。
「絹が一切ない?」
「申し訳ありません」
他の服飾店を回っても絹のドレスを作るのは難しいと言われてしまった。
懇意な商会に聞くと絹が大量に誰かが買い、足りなくとも追加で運んでくる商会があるのだが、輸送中に事故が起きて商品を破損してしまったり。
時には道中で襲われ盗まれてしまう事件が相次いでいた。
「どう考えてもあの女が関わっているだろう」
「なんて無駄な真似を」
やはり彼女が何かしたと考えるのが確実だ。
だが確実な証拠はないが、私達の結婚式を妨害するにしても彼女だけでどうこうできるのか?
絹を買い占めるなんて相当な金額がかかる。
他にも輸送している船や馬車を事故に見せかけるなんて簡単ではない。
「裏で糸を引いている貴族がいるんだろう」
「その貴族に関しては俺に任せろ。ついでにぶっ潰してやるよ」
もう騎士としての顔ではないな。
学生時代問題ばかり起こしていた顔つきに戻っているな。
「窃盗罪、殺人未遂罪にしてやる。王族の婚儀を何だと思っている」
チャールズの目は氷のようだな。
清廉潔白で不正を許さない男でもあるチャールズは根っからの騎士体質だった。
特に王族の親族である事からリディア様の事も気にかけていたのだろう。
「しかし絹が手に入らないならどうする?」
「絹に勝るとも劣らない生地を用意する。材料ではなく腕で勝負だ」
かつて母が婚儀の時に貴族派から妨害を受けたと聞く。
その時にあるお針子が知恵を絞り東洋の国の伝統的なドレスを用意してくれた。
何故絹が重宝されるか。
その意味は生地の上質さと高貴さに肌触りだ。
ならば演出を考えれば良い。
「リディア様は美しい。絹など無くてもな」
「おい、俺達に惚気てどうする」
「本人に言って差し上げろ」
「ん?」
何故二人は呆れた表情で言うんだ。
私は正直に自分の気持ちを告げただけなのだから。
「本当に舐め腐った行動をするわね?本当に…埋めてやりたいわ」
「母上…」
「そうかそうか。そんなに殺されたいのか」
夕方、母上と兄上に相談すると言うまでも無く二人の怒りは相当な物だった。
「絹に関しては問題ないわ。最高のお針子を呼ぶわ…ベルモットを呼びなさい」
「はい、奥様」
我がアスハルト家のお抱えの仕立て屋。
マリー・ベルモット。
平民でありながら斬新的なアイデアで過去に母上の花嫁衣装を手掛けた。
後に、社交界の流行のドレスは彼女の手によるものだと言われている。
平民でありながらも彼女ほどの腕前はいないと言われる程だ。
「ベルモットなら最高のドレスを仕立ててくれるわ」
「ありがとうございます」
「ついでに絹が手に入らずドレスが作れないと噂を流せばいいわ」
ああ、母上の怒りはマックスだな。
こうなったら止める事はないが私も相当怒っている。
だがそのおかげで、準備はこれ以上邪魔されることはなかった。
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