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第一章婚約破棄と白のグリモワール
23治癒師の誇り
しおりを挟む音楽教師マダムロアの推薦もあり、宮廷音楽団に入ることが決まった。
宮廷師団の中でも花形とも言われるのだが、その中身は。
「列を乱すな!馬鹿者!」
かなりのスパルタで、王国軍の訓練並みに厳しかった。
校舎内になる訓練施設で走り込みを行い、騎士科と一緒に合同訓練をするのだ。
担当教官は勿論マダムロアだった。
軍服を纏い鞭を片手に生徒を厳しく指導する。
現在は地獄のマラソンが行われ既に脱落者が出ていたのだが、その中でもペースを崩さずに走りこんでいたのが。
「ほっ、ほっ、ほっ!」
メアリだった。
「あの子すごいな」
「一定の距離で走っているぞ」
「女子だろ?」
上級生に交じって走りこみをするメアリを見て騎士科の生徒は感心する。
「なっ…メアリ!」
「何だ?アーク…知り合いか」
「はい」
顔を引きつらせながらアークはメアリを見る。
あの後アークも星を奪われた後に騎士科の担当教官に鍛え治しが必要だとこのクラスで訓練を受けることになったのだが、クラスは一番下だった。
対するメアリは上級クラスだった。
「彼女はマダムロアに推薦されたそうだ」
「余程優秀なのだろうな」
先輩騎士達はここぞとばかりにメアリを賛美する。
少し前までは周りから劣等生呼ばわりされていたのに、あの事件でメアリの評価は鰻登り。
「だが才能よりも努力の賜物だろうな」
「確かに、体力は才能じゃない。才あるのに努力家とは好感度が持てるな…おい、同じ班の者が倒れたぞ」
「大丈夫か?」
アークは他の生徒が倒れてもどうでも良かった。
「ペース配分を間違えたのでしょう。愚かな」
自分の体力を考えずないなんて愚かだと思い気にも留めなかったが。
その態度に先輩騎士達は無表情になった。
「その言い方はないだろ…」
「戦場では命取りになります。己の能力を弁えなければ周りも迷惑がかかります」
アークの言葉正論に聞こえるが本当の意味で戦場に出た時の恐ろしさを知らないから言えるのだ。
最前線で戦い命の危険にさらされた時に仲間の手助けがどれだけ必要か理解していればこんな事は言えないのだ。
そんな最中。
「おい、彼女が…」
「倒れた生徒に駆け寄ったぞ」
「馬鹿な事を…」
列を乱し、その生徒を助ければ減点になるのは確実だと思うアークは冷めた目で見ていた。
「何をしている!減点だ」
「なら私が彼女の代わりに走ります!」
「何だと、戦場ならば死んでいたぞ」
「戦場で負傷した者がいたら助けるのが治癒師です!」
教官に意見をして考えを曲げないメアリに教官が問う。
「戦場では一時の感情が命取りだ」
「間違った判断が命取りです」
「何だと」
相手は多くの戦場を生き抜いた騎士科の担当教官だった。
マダムロアは口出しをしないで見守る中、周りは沈黙を持った。
「君は治癒師だろう。そのような考えをするのか」
「治癒師は怪我人を癒すのが仕事ではありません。生きたいと願う人の心に寄り添い戦う者です。一時の感情で仲間を見捨てる方こそ愚か者のする事です」
「なっ!」
メアリは自分の意思を貫いた。
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