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第三章真実の聖女
2意外な縁
しおりを挟む寝たきりの船乗りや聖職者は瞬く間に元気になり食事を取れるようになった。
「行けません猊下!」
「猊下に下働きのような!」
人手が足りないと思い、メアリは炊き出しで養ったスキルを使って残った野菜でスープを作り、まだ病上がりの病人に食事と看病を行った。
治癒師の仕事は、病人の看護も仕事の一つなので慣れていた。
「ああ、なんと有難い事だ。恐れ多くも猊下に」
「皆物も心して食すのだ。しかも我らに気を使ってくださるとは」
(ただ、食材がなかっただけなんだけど)
スープの具は皮つきの野菜を大半で、豆の入ったスープだった。
正教公国では魚はともかく牛肉や豚肉を使う事はご法度となっている。
殺生を嫌う正教公国故に肉は食べないのだ。
特に牛は神とされているのもある。
だが、他国では肉を出す貴族も多く。
彼等を悩ませ苦しめたと言うのにメアリは配慮してくれたと思い込んでいる。
(猊下はなんとお優しい方なのか、我が国の料理を出してくださるとは)
(なんとお優しい方なのでしょう)
国の代表である二人は涙ぐみながらもスープを噛みしめる。
具はシンプルであるが栄養価もあり、二人はメアリに心から感謝した。
「猊下…」
「あの、その猊下というのは止めていただけますか?私は半人前ですし…まだ正式ではなく」
「何ですって?猊下を認めない不届きな者がいるのですか」
バキッ!
「は?」
スプーンが握りつぶされた。
(さっきまで仙人様だったのに!)
穏やかで慈悲の王法は豹変する。
「法衣も着ずに…よく見るとお体に怪我が!」
「もしや猊下に危害を加えているのでは?」
メアリの体には所々傷跡がある。
その傷跡は学園内で暴行を受けた傷だった。
「猊下、私は神官長のサリアンと申します」
「メアリ・バルセルクと申します」
「バルセルク…ティエルド殿のご息女か」
「ご存じなのですか?父を」
「奥方は我が国の恩人なのです。彼女は我が国では三大聖人に次ぐ方です」
「母が?」
メアリの母は治癒師として多くの人を分け隔てなく救っていた。
その中で正教公国にも癒しの力を与えていた。
「あの方はかつて呪いに苦しんでいた先代巫女姫をお救いくださいました」
「国同士の外交に問題が生じるのでお忍びで治療をしてくださいました。見返りを求めないあの方は天使のようでした…故に我が国ではお亡くなりになった後に聖人の称号を授けられましたの」
「知りませんでした」
母親がどんな治癒師だったかは又聞きでしかなかったのだ。
「だが、納得は行く。本来ならば正式な教皇猊下以外は名乗る事は許されないのだが、聖女の名が相応しい」
「え?」
「そうですね、聖女と名乗るは罪なのですが…彼女ならば私も」
(聖女を名乗るのは罪なの?)
知らなかったメアリはふと思った。
正教公国では許可なく聖女と名乗る事は最大限の無礼に当たる。
自分から名乗らなくとも許されない行為なのだ。
それを名乗っているユーフィリアはどうなるのだろうかと思ったのだった。
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