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第二章
25アプローチ
しおりを挟む恋愛に縁がない。
既に枯れている私は今更男の人にときめくことはない。
前世でも愛されることはないと思っていたからこそ、こういったことは慣れてない。
「キャサリン、思いから俺が…」
「え?」
「キャサリン、日よけに使ってくれ」
作業が始まり、買い出しに向かった私達。
二手に分かれて作業をすることになったのだけど、市場に買い出しに行くことになったのだけど。
重い荷物を持たせてもらえず、人込みの時はできるだけ私を避けさせて、尚且つ気温の高さを心配して上着をかぶせてくれたり、休憩の合間にカフェで飲み物を買ってくれたりと。
「いけません、お金を」
「何を言っている?男が払うのは当然だろ?」
「え?」
戸惑うことばかりだった。
対するフィルベルト様は私の行動に怒った表情をしていた。
「君はどんな扱いを受けていたか解った」
「はい?」
「重い荷物を率先して持ち、馬車の手配も自分で…しかも御者のようなこともできる。なんでも一人でこなせるようになった経緯を察すると腹が立つ」
「何を怒って…」
元から自分の事は自分でできるように教育されてきた。
自立した女性になってほしいというのが両親の願いだったけど。
「君は一度でも他人を頼ろうと思ったことは?」
「ありません」
「…そうなった原因があの二人じゃないか」
私の手を握り優しく包み込むしぐさに恥ずかしさを感じる。
「おやめください。私の手は…」
白くてすべすべの手じゃない。
傷一つない貴族令嬢の手とは異なっているのだから。
「俺は君の手が好きだ。紙の匂いをさせ、常に努力している君が」
「フィルベルトさっ…」
汗を流しているのに、どうしよう。
「常に背筋を伸ばしている君は美しいと思う一方で痛々しい」
「そんなことは…」
「俺だったらそんな思いさせなかった。君と俺が幼馴染だったら…神は残酷だ」
「ちょっ…」
綺麗じゃない私の指に触れキスをする。
この感じ、すごく恥ずかしい。
初めての感覚で、すごく恥ずかしくて胸がきゅんとしてしまう。
「あっ…あの、これはどういう状況なのでしょうか。挨拶の何かですか」
挨拶に一環として高貴な姫君の手の甲にキスをする習慣があった。
後は騎士が令嬢にする的な。
ロイドもオレリアによくしていた。
でも今の社交界ではそんな風習はなかった。
昔の挨拶だったのだけど、古い風習を大事にしている王家ではあるのか。
「キャサリン、誤解しないでくれ」
「誤解?」
「今の社交界で初対面の女性の挨拶にキスなどすれば問題になる」
じゃあ、何で?
私の手にキスをしたのは何故?
「好意を持った女性に対するアプローチに決まっているだろう」
「ええ!」
この時私は昼の時間帯。
人通りの多い場所で声を荒げてしまった。
そう、普段ならしない失態をしてしまったのだ。
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