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110傲慢な夫人~リオネルside①
しおりを挟む「これはようこそ」
扉を開けると部下が疲れ切った表情をしていた。
きっとできるだけ長い時間足止めをしていたのだろうと思うと申し訳なさが募る。
「閣下!私をどれだけまたせたら気が済みますの」
「それは申し訳ありません。約束もありませんでしたので…仕事が立て込んでまして」
「急な来客にも対応できないほどの無能ならば団長の仕事を降りるべきではありませんか?これでは領地もまともに管理できていないでしょうね?」
「ははっ…心配ありませんよ。うちの家令は大変優秀ですし。領民も皆優秀でしてね…私には騎士団団長の仕事に専念して欲しいと…娘からも領地代行が滞りないように隣国から人を派遣してくれましてね」
「なっ…」
「そもそも騎士となれば領地代行を任せる人間はいて当然です。妻の言葉でもあります」
「夫でありながらなんと…」
「おや?私にとって妻は仕事のパートナーでもあります」
そもそも辺境貴族では夫と妻の立場がほとんど対等だ。
その理由は領地を守りながら、すべてをこなすことは無理だからだ。
「妻が死んだ後も私は妻に守られています」
「なんと情けない」
「ええ、私は情けない男です。貴女のように一人で何でもできません。だから部下や領民に力を借りるのです。遠く離れた娘も息子もいつでも力を貸してくれるでしょう…私は果報者です」
優秀じゃないことは解っている。
才能だってないことも。
剣に関しては自身があるが政治を担う程の頭はない。
妻はそれでいいと言ってくれた。
「王とて多くの臣下を持つのは一人ではすべてを担えないからです」
「なんて無礼な」
「事実でしょう?ならばなぜ宰相がいますか?大臣がいますか」
一人ですべてを背負えるはずがない。
「ヒギンズ夫人。貴女も少しは周りを頼るべきですよ」
「何ですって?」
「片意地を張らず、周りに…ご主人や領民に頼るべきだ」
何時も張り詰めた空気をまとい無理をしては何もならないだろう。
「貴女の言う通り私は無能だ。娘を守れなかった…けれど私は私でしかない」
他の何者にもなれない。
リオネル・シネンシアにしかなれないのだから。
「愚鈍な男に…凡庸な貴方と私は違うわ!」
「黙って聞いていればこのヒステリー女が!」
「この無礼者めが!」
傍に控えている部下が剣を抜こうとするが私が止めに入る。
「団長!この女は既に侯爵夫人ではありません!離縁寸前の何の地位もない女です」
「身の程を弁えないこの無礼者は不敬罪です!」
「我が騎士団への侮辱でもあります!」
ここまでよく耐えたものだけど。
ここで手を出せば罰せられてしまうのはこちらだ。
だからこそ抑え込まなくては。
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