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第一章侯爵家のお家騒動

3つまみ出し

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逆上した人間ほど単純なものはない。
正論で言い負かされたら暴力に出て自分が正義とだと言うのだろう。


しかし、俺をその辺の優男と一緒にされては困る。


「母上、すこしばかり御辛抱を」

「リヒト!」


殴りかかって来る男の動きは実に単純だった。

「なっ!」


「すぐに暴力とは野蛮ですね。しかもなんて弱いのか…これでも貴族院を出たのでしょうか?赤子の手を捻る程に弱い」

「貴様!離せ」

「はい」

「どわぁ!」


大暴れをしていたので手を放せば後ろに倒れる。


「貴様、いきな放す奴がいるか!」

「我儘な人ですね。離せと言ったのでご希望通り話したのに…足腰が弱いですよ」


貴族院に通っているなら騎士の訓練も受けているはずなのに、これはないだろう。


「受け身ぐらい取れると思ったのですが…」

「私もここまでダメダメだったとは…堕ちる所まで落ちたのでしょうね。早く騎士団を…いいえ、ゲスティール家に連絡を…失踪した息子が戻ったと」

「はい」

「それから不幸侵入をした事も騎士団に伝えるように」

「承知しました」


「離せ!俺を誰だと思っている!」


早々に騎士団を呼び寄せ、邸からつまみ出したが。
あの男がこれで諦めるとは思えないが、父上とアンジェリカが視察に出ていて本当に良かった。



「リヒト、怪我はありませんか」

「問題ありません。ですがあの男はこのまま諦めるでしょうか」


「厄介な事だけど。ないわね…何か仕掛けてこなければいいのだけど」


通常貴族を罰するには色々と面倒な手続きが必要になる。
今回の事で牢にぶち込むことはできないし、俺が騎士団の前で殴られれば現行犯にする事はできても。

重い罪に問えない。
貴族とはそれだけ厄介なのだ。

それに俺が殴られた程度では相手に罪にとうには甘すぎる。
大人しく殴られたとして、ベルツリー侯爵家の名に傷をつけるわけには行かないのだから。


「あんな奴、ボコボコにしてたればよかったのですわ」

「私もヒールで踏んでやりたけど、後で問題になるわ」


母上も必死で怒りを抑えていたようだ。

「しかし、何故このタイミングで」

「父上の留守を狙った?しかし…」


態々邸に乗り込んでくるのが腑に落ちない。
追い返される可能性があるとは思わないのか、いくら馬鹿でも解るだろうと思った。



そんな最中。



「これは…」

「どうしたジェリー?」

「いいえ、手紙が」


真っ黒な手紙が届けられる。


俺当てだったが。

「気持ちが悪いですわ」

「いや、少し変わった趣味だろう?黒い封筒を好んでいるのだろう」


ジェリーに気取らせるわけには行かない。
大体の察しがついた俺は手紙を受け取ることにした。



「中に剃刀って…いつ時代だよ」


黒い封筒から一昔前の脅迫状と同じだった。


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