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飛翔
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「すごい! やっぱり! 飛べた!」
ぐんぐん上に上がりながら、キシールは歓声を上げていた。
わたしは重力に揺さぶられる内臓に悶絶しながら、なんとかその背にしがみついている。
人間の体はドラゴンと違って、飛んだりするようにはできていないようだ。
「飛んでる! たのしい! うれしい!」
「よかった、わ……」
やっとの思いでそれだけ言うと、キシールも背にいるわたしのことを思い出してくれたみたいだった。
「おひいさま、苦しい? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だけど、もうちょっとゆっくり飛んでくれるとうれしいかな……?」
わたしの願いを聞いてくれたキシールは速度を緩めたが、その頃にはもう、魔王城は手のひらほどのサイズにしか見えなくなっていた。
「もうお城があんなに小さい……」
「飛びすぎちゃった!」
キシールはその場で、照れ隠しみたいに旋回した。
「ゆ、ゆれる……」
「おひいさま、魔王さまのところに行きたいんでしょう? すぐ飛んでいくから、しっかり掴まっていてね!」
「あ、ちょっと待ってキシールお願い……きゃー!?」
さっきまであんなにぐずっていたとは思えないくらい自信満々にキシールは急降下を始めた。
自由落下よりずっと早い速度だ。舌を噛まなかったのは僥倖と言うほかない。
手のひらくらいの大きさに見えた魔王城がみるみる大きくなって眼前に迫る。
どこにいくの、とわたしが問うまでもなく、キシールはまっすぐに魔王城の尖塔に降り立った。
脱皮する前に「魔王さまはあそこにいる」と指し示した場所だ。
あんなに高い上空から狙ってここに降りたのだとしたら、キシールはなんて、目がいいんだろう。
これもまた、ドラゴンの身体強化の力なのかもしれない。
「……血の匂いがするよ」
「え?」
「魔王さまピンチかも……おひいさま、早く行ってあげて。きっと、待ってるから」
いっしょに行けると思ったんだけど、と、キシールは震える声で言った。
飛んでいた時の明るい口調ではない。
まるで、お化けを怖がる子どもみたいだ。
「ぼく、やっぱりちょっと、勇者こわいみたい……足がすくんで、動けないの」
ドーハートさまは竜殺しのスキルを持っている。近くにいるだけで、危機感知能力の高いドラゴンであるキシールが動けなくなるのも、無理はないのかもしれない。
勇者さまを恨んでないと言ってくれたキシールだけど、恐怖を感じるのは別問題だ。
「こわいのに、わたしをここまで連れてきてくれたのね」
キシールの背を降りて、わたしは彼の前に立つ。
そして金色の瞳を不安そうに瞬かせて顔を寄せてくるキシールの、その鼻にキスをした。
「ありがとう、キシール。ここまでで大丈夫よ」
この奥になにが待っているのか、考えるだけで恐ろしい。
ドーハートさまが何をしでかすかなんて予想もできないし、もしかしたらもう魔王の命はないのかもしれない。
だけどキシールが、自分だって怖いのに、危機にある魔王のために自分を奮い立たせて、わたしをここまで連れてきてくれたのだ。
だから、次に頑張るのはわたしの番だ、と思う。
彼がわたしにできることがあると言うのなら、その期待に応えたい。
「あとは、わたしがなんとかする」
キシールが見ている前で、わたしは屋根に空いた大穴に飛び込んだ。
ぐんぐん上に上がりながら、キシールは歓声を上げていた。
わたしは重力に揺さぶられる内臓に悶絶しながら、なんとかその背にしがみついている。
人間の体はドラゴンと違って、飛んだりするようにはできていないようだ。
「飛んでる! たのしい! うれしい!」
「よかった、わ……」
やっとの思いでそれだけ言うと、キシールも背にいるわたしのことを思い出してくれたみたいだった。
「おひいさま、苦しい? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だけど、もうちょっとゆっくり飛んでくれるとうれしいかな……?」
わたしの願いを聞いてくれたキシールは速度を緩めたが、その頃にはもう、魔王城は手のひらほどのサイズにしか見えなくなっていた。
「もうお城があんなに小さい……」
「飛びすぎちゃった!」
キシールはその場で、照れ隠しみたいに旋回した。
「ゆ、ゆれる……」
「おひいさま、魔王さまのところに行きたいんでしょう? すぐ飛んでいくから、しっかり掴まっていてね!」
「あ、ちょっと待ってキシールお願い……きゃー!?」
さっきまであんなにぐずっていたとは思えないくらい自信満々にキシールは急降下を始めた。
自由落下よりずっと早い速度だ。舌を噛まなかったのは僥倖と言うほかない。
手のひらくらいの大きさに見えた魔王城がみるみる大きくなって眼前に迫る。
どこにいくの、とわたしが問うまでもなく、キシールはまっすぐに魔王城の尖塔に降り立った。
脱皮する前に「魔王さまはあそこにいる」と指し示した場所だ。
あんなに高い上空から狙ってここに降りたのだとしたら、キシールはなんて、目がいいんだろう。
これもまた、ドラゴンの身体強化の力なのかもしれない。
「……血の匂いがするよ」
「え?」
「魔王さまピンチかも……おひいさま、早く行ってあげて。きっと、待ってるから」
いっしょに行けると思ったんだけど、と、キシールは震える声で言った。
飛んでいた時の明るい口調ではない。
まるで、お化けを怖がる子どもみたいだ。
「ぼく、やっぱりちょっと、勇者こわいみたい……足がすくんで、動けないの」
ドーハートさまは竜殺しのスキルを持っている。近くにいるだけで、危機感知能力の高いドラゴンであるキシールが動けなくなるのも、無理はないのかもしれない。
勇者さまを恨んでないと言ってくれたキシールだけど、恐怖を感じるのは別問題だ。
「こわいのに、わたしをここまで連れてきてくれたのね」
キシールの背を降りて、わたしは彼の前に立つ。
そして金色の瞳を不安そうに瞬かせて顔を寄せてくるキシールの、その鼻にキスをした。
「ありがとう、キシール。ここまでで大丈夫よ」
この奥になにが待っているのか、考えるだけで恐ろしい。
ドーハートさまが何をしでかすかなんて予想もできないし、もしかしたらもう魔王の命はないのかもしれない。
だけどキシールが、自分だって怖いのに、危機にある魔王のために自分を奮い立たせて、わたしをここまで連れてきてくれたのだ。
だから、次に頑張るのはわたしの番だ、と思う。
彼がわたしにできることがあると言うのなら、その期待に応えたい。
「あとは、わたしがなんとかする」
キシールが見ている前で、わたしは屋根に空いた大穴に飛び込んだ。
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