聖女なのに勇者に追放されました。だから魔王のお嫁さんになろうと思います!

ひるね

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再会

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 薬草を育てるために積まれたおがくずの上に着地してすぐに、強い魔力の波動と強烈な爆発音を感じた。

 戦っている。すぐ、近くで。

 わたしは音に向かって走り出す。
 いくら魔族最強の魔王とはいえ、あの勇者に勝てる見込みは万に一つもないだろう。

 ――間に合って。生きていて。

 強くそう願いながら、奥に続く破壊された扉をくぐり、そこで、

 血まみれの魔王と、とどめをさそうと聖剣を構える勇者をわたしは目撃した。

「……ッ! 待ってください、その人を殺してはだめです!」

 何も考えずに、そう叫んだ。
 鼓動が跳ね上がる。血圧が上がる。
 意識はまだあるのか。どうすればあの人は助かるのか、どうすればあの人を助けられるのか、そのことだけで頭がいっぱいになって、勇者さまがわたしを見つけて大きく目を見開いたことに気づけない。

「リディ? やっぱりここにいたのか。捕らえられていたのか? おまえ、結構トロいところあるんだな」

 血まみれの魔王に駆け寄り、白いドレスが汚れるのも構わずに抱き起した。

「しっかり! 意識はありますか?」

「……揺らすな、大声を出すな、無遠慮に触るな、傷に響く……」

 それだけ減らず口を叩けるなら、まだ大丈夫だろうか。

 わたしは神殿で教え込まれた神言を口に出して、心臓に意識を集中した。

 どうか。どうか。わたしのこの心臓に神の力が宿っているというのなら、お願いです。この人を安らぎの園につれて行かないで。まだこの世界には、この人が必要なのです。この人がいなくなったら、魔族が導を失う。

 それにわたしも、まだ伝えていない。まだ、約束を果たしていない。この人を失うわけにはいかない。

 両手をきつく結び、一心に祈っていると、肩を強い力で掴まれた。

「おい、無視してんじゃねえぞ、リディ」

「ドーハートさま……」

「そいつは魔王だろう。なんでそんなに親し気なんだ? というかリディ、今までどこをほっつき歩いていたんだよ、探したんだぞ」

 探していた? 追い出した張本人が、どうしてわたしを。

「わたしは……」

「まあいいよ、どうでも。ほら、そこをどけよ。そいつ殺して、国に帰るぞ」

 勇者さまはそう言うとそのまま聖剣を構え、わたしの膝の上に横たわる魔王に突き刺そうとした。
 わたしはとっさに魔王の体に覆いかぶさり、聖剣から庇う態勢をとる。

「おい、リディ? そこをどけって、オレ言ったよな? どうして庇うような真似をする」

 勇者さまは怒気を視線に込めてわたしを睨みつけた。

 攻撃的な魔力が彼を取り巻いていくのを感じていないわけではなかったけれど、だからといってはいそうですかと腕の中の魔王を差し出すわけにはいかなかった。

「この人を殺してはいけません」

「は? 何言ってるんだよ。おまえは聖女なんだぞ。魔王を殺すななんて、おまえだけは言ってはいけないはずだ」

「わたしはもう、聖女ではありません。それを決定したのは、あなたでしょう、ドーハートさま」

 ドーハーさまの視線を、精いっぱいの気合で睨み返す。だけど、それで物怖じするような人ではないことを、わたしはよく知っていた。

「あ? 誰に歯向かってるか、わかってんのか?」

「勇者さま。わたしはこの地へ来て、様々なことを学びました。今、この人を殺しても、戦争は終わりません。争いの原因の根は深く、一朝一夕に取り除けるものではないからです。むしろ、魔王と人間の王で対話をして、和平条約を結んだと広く知らしめる方が、よっぽど……」

「そんなこと、聞いてねえんだよなあ!」

 説得しようとしたわたしの言葉は、最後まで聞いてもらえなかった。勇者さまは聖剣の剣先をもてあそびながら、いら立ちを隠しもしないでそう言う。

「リディ、おまえ、しばらく会わないうちに生意気さに磨きがかかったんじゃないか。やっぱ側に置いて調教しなきゃ使い物にならないかな……」

「調教ですって? そちらこそ、しばらくお会いにならないうちに随分下世話な言葉をお使いになられるようになったんじゃありませんか」

「ほんっとムカつく。連れて帰ってやろうかと思ってたんだけど、やっぱりやめようかな」

「連れて帰る?」

 予想しない一言にわたしが驚いて聞き返すと、勇者さまはにやにやしながらこう言った。

「ああ。おまえを連れて帰って、第二妃として遇する。そうすれば神殿の奴らもうるさいことを言わなくなるし、王とミーシアだって今みたいなでかい顔はできなくなる。うるせえこと言い出したらリディを正妃にしてやるぞって言えばいいんだ。ま、そんなことするわけないけどな! リディを正妃にしたほうがうるせえに決まってるから!」

 わっはっは。

 何が面白いのか、勇者さまはそうやって一人で笑っている。

「ほら、そいつの首を差し出せ。おまえが何を言っても、オレは魔王を殺す。おまえはオレと帰る。なに呆けてるんだよ。喜べよ、嬉しいだろ?」

 その、わたしが泣いて喜ぶと、信じて微塵も疑わない顔。

「っていうかおまえなんなの。なんでいきなりいなくなったりしたんだ? 追い出されたからって勝手に諦めるなよ。おまえがオレを選んだんだろ、責任もって最後まで尽くそうとか思わない訳?」

「どうして……」

「ん?」

「どうして、わたしがあなたと一緒に帰りたいと思っていると、思うんですか?」

 勇者さまにとってわたしは彼と共に帰って当然で、彼に尽くして当然で、彼と結婚して当然なのようだ。まるでそれが、わたしの意志だと決まっているかのように話を進めるので、わたしは口を挟める余地がない。

 やっとの思いで口にした抵抗の言葉に対してさえ、なんの疑問もないという顔で、ドーハートさまはこう言った。

「だっておまえ、オレが好きだろ?」

 ぞっと、全身に鳥肌がたつ。
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