恋する女騎士は、溺愛してくる世継ぎの王子の顔が残念ながら好みじゃない

ひるね

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同僚騎士ローラン

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 それから、フィーネはユーグの護衛騎士として正式に雇われることになった。

 翌日から第一王子の私邸に出勤したフィーネを迎えたユーグは「まずは同僚と会ってもらおうかな」と言って傍らに立っていた茶髪の騎士を指し示す。
 フィーネがそちらに視線を移すと、騎士は気だるげな顔を隠さずにあくびして見せた。

「ローラン! まったく。フィーネ、すまないね。今はこんなだけど、いざというときは頼りになるはずだから」

 ユーグを通して紹介されたローランは、フィーネを一目見たとたん「あー」と言って何かを察した顔をして、「よろしく」と言って手を差し出してきた。

「あんたも苦労すると思うけど。頑張れよ」

「え? この職場、そんなに過酷なんですか?」

「いや、そうじゃない。けど……あれ、もしかしてわかってない?」

 何をですか、と問う前に、にこにこ笑いながら二人の様子を観察していたユーグが水を差してきた。

「ローラン、余計なことは言わないでいいからね。
 今日は初日だから、この屋敷の特徴と仕事を教えてあげてほしい。私は一日屋敷に勤めているから、護衛任務は気にしなくていいよ」

「はいはい、執務室に籠っていてくださいね。ここの守護の魔法陣はちょっとやそっとじゃ破れないから」

「わかってるよ、ローラン。……それじゃあ、フィーネを頼んだよ。私も後で様子を見に行くから」

 ローランに促されユーグの私室を出て廊下に出たところで、二人のやりとりを見ていたフィーネが首をかしげる。

「お二人とも、随分気安いんですね?」

 礼儀作法について自分が何か言えた義理ではないが、少し変わった主従関係の二人だなあ、と思う。
 相手は次代の国王と目されるユーグ王子なのだ。それなのにローランと態度はまるで、そう。
 まるでおざなりだ。しかも二人とも、それを気にした様子がない。

 フィーネの疑問を受けて、ローランは事も無げに答えた。

「ああ。俺たちは乳兄弟なんだよ」

「乳兄弟。というと、殿下の乳母さんが」

「俺の母親だ。ユーグ王子のご母堂はできた人で、俺の母が城に勤める時、俺も一緒に城に入ることを許してくれた。そんで、殿下とは下町の兄弟みたいに一緒に育てられたってわけ」

 話しながらローランが歩き始めたので、フィーネはその横についていく。

「なら、ほとんど幼馴染みたいなものなんですね。ローランさんは殿下を守るために、騎士になられたんですか?」

「ローランでいい。……十三年前に、母が死んだ。守れなかったことが悔しくて、俺は騎士になったんだよ」

 フィーネは「うっ」と息を呑む。
 他愛無い世間話のつもりが、うっかり地雷を踏み抜いてしまった。

 そうだった。第一王子の母君は、今から十三年前に亡くなっている。
 原因は暗殺者による襲撃で、当時宮に勤めていた多くの使用人も共に犠牲になった。

 その一人が、ローランの母だったのだろう。

「ユーグも同じ時にご母堂を亡くしている。というか、王の寵愛深い第三妾妃の暗殺に、俺の母が巻き込まれたと言った方が正しいだろうな」

「暗殺で……お二人とも、お母さまを亡くしてるんですね」

「ああ。だからあいつは、強い女が好みなんだよ。
 頑丈で丈夫で、象が踏んでも壊れないような、そんな理想の相手をずっと探していた」

 第一王子ユーグが未だ独り身で、婚約者すらいないことは有名な話だ。
 運命の恋人を探しているのだ、なんてロマンティックな噂も実際に耳にしたこともある。

 だけどまさか本当だとは思わなかった。
 王族の結婚は高度な政治がつきものだし、感情を伴わない政略結婚であることがほとんどだろうと思っていたから。

 しかし、相手を探してい『る』ではなく、探してい『た』とローランが言ったのは、なぜだろう。

 フィーネがその答えを見つける前に、ローランは庭に通じる扉を開いた。
 そして扉の横に立てかけてあった二本の木剣を手に取ると、一本をフィーネに放ってよこしてこう言った。

「さて。あんたの話は俺も聞いている。仕事の話に入る前に、実力のほどを確かめさせてもらおうか。
 就職試験だ。かかってきな」

「えー! そんなの聞いてませんよ! そんなのまるで、抜き打ちテストじゃないですか」

「あんた……見た目はクールビューティーって感じなのに、しゃべるとすごい子供っぽいよな」

「いきなり試すようなことされたら、誰だって腹もたちますよ!」

 ぷりぷり怒るフィーネとは裏腹に、ローレンは気まずそうに頭をポリポリ掻いきながら「だってよ」と言った。

「あんたの事情、好きな男のためじゃないと弱くなる、だっけ? めっちゃくちゃ腑抜けてるよなあ。
 大丈夫かそんなんで。本気で、殿下を守れると思ってるのか?」

 フィーネはその挑発ともとれる言葉を聞いて、そうか、と思う。

 ――そうか。この人は、殿下が心配なんだ。

 ユーグは自分を簡単に受け入れてくれたけれど、やはり護衛騎士であるローレンからしたら、ぽっと出の小娘が自分と同じ護衛騎士になるなんて言われたらたまったものではないだろう。

 自分だって護衛騎士だったころだって、アナトルの側に寄る人をみんな警戒していた。
 王子が相手を信頼していることは、自分が相手を信頼する理由にはならなかった。
 それが護衛の仕事だったから。

 それに見た目や噂で侮られるのは、フィーネにとってよくあることだ。
 道場にいた頃はその度に殴り合って雌雄を決したものだ。もちろん毎回勝ってきた。

 あの頃に戻ったと考えて、乗ってやろうじゃないか。
 後でほえ面かくなよ。

「……わたしは、道場じゃあ、負け知らずだったんですよ。魔力の『色』を見ることで、どこにどう打てば相手が倒れるのか、全部わかっていましたから」

「それが本当ならホンモノの大天才様だ。女流の剣士はただでさえ珍しいのに」

 挑発を重ねながら、ローランは剣を構えた。
 ジャゴー新流特有の、重心をやや利き腕側に寄せる構え。

 フィーネもまた、相対して木剣を構える。
 呼吸。集中。
 そして目を開く。

 だが、良く見えない。
 魔力の色を、瞳で捉えることができない。

 愕然とする。
 昨日は、ユーグのオーラを見ることができていたのに。

 アナトルへの失恋によって、またもや、フィーネの瞳は魔力の『色』を見る能力を失ってしまっていた。
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