道は誰にも阻めない!

ひるね

文字の大きさ
2 / 13

2

しおりを挟む
 そんな彼女ではあるが、学校では普通に女子高生をやっている。ただしそれは授業の時間の話で、入学早々剣道部部長の座を手に入れた彼女の日常は多忙を極めている。

 まだ一年生なのに、である。
 美智は、入学式が終わるとその足で武道場に赴き、そこで練習していた剣道部に試合を申し込んだのだ。

「たのもう!」
「なんだ、お前。新入生か?」
「新入生歓迎会の会場はこっちじゃないぞ」
「ここで一番強い奴は誰だ!」
「え、もしかして道場破り……?」
「この平成の世で?」
「女の子なのに?」

 周囲の剣道部員たちが突如現れた闖入者に目を丸くしている間、ただ一人、いかつい偉そうな男(彼が剣道部長で、『ここで一番強い男』だったわけだが)だけが面白そうに美智に言い返してきた。

「面白いじゃねえか! いいぜ、俺が負けたら、剣道部はお前のものだ!」

 結果、彼女は勝って、そして部長になった。

 入学して一日目で部長になったのも、男子剣道部長が剣道部全体の部長を兼任する伝統があった中で、女子でありながら剣道部長になったのも美智がはじめてだった。

 そうして見事剣道部部長の座を手に入れた彼女は、道場や他の剣道部員たちのありとあらゆるコネを使って近隣高校に片っ端から練習試合を申し込んだ。そして男女混合で強い奴と戦っているうちに、ついたあだ名が「道場破りのミチ」というわけである。

 ただし他の部員たちも、盲目的に彼女に付き従ってきたわけではない。

「部長、毎週練習試合だとちょっと交通費がかさみます」
「仕方ない。あたしがバイトをして稼いだ金を使ってよし!」
「部長、今日は模試があって」
「ばか、事前に連絡しておいてって言ったじゃない。親御さんが出してくれた考査料を無駄にしちゃだめ、早くいってこい!」
「部長、持病の癪が」
「……病院に行きなよ」
 あくまでも「ついてこられる奴だけついてくればいい」という彼女のスタンスと、幼いころから悪ガキたちをまとめ上げた面倒見の良さ、本物の実力に裏打ちされた実力主義は傍目から見ても小気味よく、次第に剣道部だけでなく、学内にも美智のファンは増えていった。

 ※

「部長、まだ残って練習するの?」
「うん。もうすぐ帰るけど、もうちょっとだけ……今の集中を切らしたくないの」

 美智は誰よりも早く来て練習し、誰よりも遅くまで練習する。部員の中には「部長は武道場に住んでいるんじゃないか」とまで言いだす奴がいるが、家でも木刀を振っている美智のことである。あながち外れてはいないのかもしれない。

「そっかー。武道場の鍵、ここに置いておくから最後の戸締りお願いしていい?」
「わかった。ありがとう」

 ただし、よく誤解されるのだが、美智は剣道バカではない。剣術バカなのだ。
 古今東西あらゆる剣を用いた武芸を学び、中でも一番自分の理想を体現しやすいと思ったのが剣道だから剣道をやっているだけで、その実美智の技は『剣道』というには実戦的すぎて本気を出したら反則をとられて試合にならない。
 そんな彼女が思う存分剣を振るえるのは、みんなが帰宅して、誰もいなくなった武道場だけなのだ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...