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うそでしょ、と思った。信じられない、信じたくない、とも。だがしかし、他に説明なんてつきようがない。自分は剣道場で練習をしていただけなのだ。それなのに、今は見たこともない不思議な模様の装飾がそこかしこにある建物の中で、テレビで見かけるようなイケメンに聞いたこともないような説明を受けている。
「マジか……」
脳が理解を越えていると訴えている。美智も全くその意見に同感であった。だが、自分が置かれている状況について考えられるのは、自分しかいないということも美智にはわかっていた。
すごく手の込んだドッキリである可能性はすぐに捨てた。そんなことをしても誰もなんの利益を得ない。
残る可能性は道場で転んだ拍子に頭を打って寝込んでみている夢か、それとも全部事実か、だ。
美智は、夢ならばいつかは覚めるだろう、という潔い決断をして、とりあえず今は「東葉の説明は全部事実」という仮定の元で行動することにした。
こういう時の美智は、切り替えが早い。
「東葉……さん」
「東葉でいいよ」
「東葉、あなたの口ぶりだと、異世界人ってそんなに珍しくないみたい。他にも見たことがあるの?」
「ああ、流石にこの近辺では少ないけど、オレの田舎あたりじゃあ、年に何人かは出たもんだよ」
「そういう人は、どうやって元の世界に帰ったか、わかる?」
「いやあ? 大抵は役人が保護してどこかに連れて行って、そのまま帰ってこなかったからなあ」
――なにそれ。ちょっとこわい。
「どこかに連れ去られて帰ってこない」という言い方が、まるで人身売買にドナドナされているようで、おぞましさを感じて美智は冷汗をかいた。
「だから、政府なら何か知っていて、そのツテで異世界人を返しているのかもな」
「なんだ……なら、案外簡単に帰れるのかもしれないわね」
「うん、それはそうかもしれないけどさ、キミ、もうちょっと残ってみない?」
「はい?」
「さっきの勝負でわかったんだけど、キミは結構いい線いくと思うんだよねえ……だから、もうちょっとこっちに残って修業してみない?さっきの交換条件の話も、結局はそういうことなんだと思うんだ。キミくらい才能のある人を見逃せるほど、月光館も余裕があるわけじゃないからさ」
東葉が褒めているのは、剣の話だと思った。そして美智は、剣を褒められると悪い気はしないのだった。
――案外東葉は、いいやつかもしれない。
「マジか……」
脳が理解を越えていると訴えている。美智も全くその意見に同感であった。だが、自分が置かれている状況について考えられるのは、自分しかいないということも美智にはわかっていた。
すごく手の込んだドッキリである可能性はすぐに捨てた。そんなことをしても誰もなんの利益を得ない。
残る可能性は道場で転んだ拍子に頭を打って寝込んでみている夢か、それとも全部事実か、だ。
美智は、夢ならばいつかは覚めるだろう、という潔い決断をして、とりあえず今は「東葉の説明は全部事実」という仮定の元で行動することにした。
こういう時の美智は、切り替えが早い。
「東葉……さん」
「東葉でいいよ」
「東葉、あなたの口ぶりだと、異世界人ってそんなに珍しくないみたい。他にも見たことがあるの?」
「ああ、流石にこの近辺では少ないけど、オレの田舎あたりじゃあ、年に何人かは出たもんだよ」
「そういう人は、どうやって元の世界に帰ったか、わかる?」
「いやあ? 大抵は役人が保護してどこかに連れて行って、そのまま帰ってこなかったからなあ」
――なにそれ。ちょっとこわい。
「どこかに連れ去られて帰ってこない」という言い方が、まるで人身売買にドナドナされているようで、おぞましさを感じて美智は冷汗をかいた。
「だから、政府なら何か知っていて、そのツテで異世界人を返しているのかもな」
「なんだ……なら、案外簡単に帰れるのかもしれないわね」
「うん、それはそうかもしれないけどさ、キミ、もうちょっと残ってみない?」
「はい?」
「さっきの勝負でわかったんだけど、キミは結構いい線いくと思うんだよねえ……だから、もうちょっとこっちに残って修業してみない?さっきの交換条件の話も、結局はそういうことなんだと思うんだ。キミくらい才能のある人を見逃せるほど、月光館も余裕があるわけじゃないからさ」
東葉が褒めているのは、剣の話だと思った。そして美智は、剣を褒められると悪い気はしないのだった。
――案外東葉は、いいやつかもしれない。
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