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1年前の事件
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「……『復讐レシピ』? なあに、それ」
聞き覚えのない単語に、わたしは首をかしげる。
「あら? てっきり、浮気者のカート・ヴィゼンと泥棒猫のリオナ・ヘッセのことで私の力を借りたいのだと思っていましたが、違いましたか?」
「ち、ちょっと、あなたなんでそんなこと知っているのよ!?」
確かに、わたしはカートとリオナのことを相談するためにモモを訪ねた。
だが、一年間ずっと牢屋で暮らしているはずのモモが、今のわたしの状況を知っているのはさすがに不自然だ。
驚いたわたしの前で、モモは上品に紅茶をもう一口飲む。
代わりのように、ガラス玉の瞳の人形が自己主張するかのように『はいっ!』と言って片手を挙げた。
それを見て、わたしはようやく察する。
「あなたもしかして、『傀儡人形』の魔法を使って王国内の噂話を聞いて回っているの!?」
「その通りです」
「この牢屋にいれば、魔法は使えないはずじゃないの!? 『魔封じ』はどうなっているのよ!」
動揺のあまり、聞かずに済ませようと思ったことを聞いてしまったわたしに、モモはにこりと微笑んでからこう言った。
「こんなもの、ある程度魔法の出力を制限するだけです。私のように大量の魔力を持つ者には、ほとんど効果なんてありませんよ」
「こんなもの、って……」
王国の魔法師たちが技術の粋を極めて作り上げた、魔力を封印する魔封じの牢を、モモは問題にもしていないらしかった。
だが、それも彼女の実力を考えれば当然なのかもしれない。
モモには、他の人間とは違う特別な才能がある。
王家とその血に近い貴族だけが持つという、強力な魔力である。
その力で彼女は『傀儡人形』の魔法を使うことができるのだ。
昔から、わたしはモモが『傀儡人形』の魔法で人形を操る姿を見ていた。
幼いころは、人形遊びに便利な魔法だとしか思っていなかったけれど、モモの成長につれて、『傀儡人形』の魔法は大人たちの都合のいいように使われるようになった。
情報収集、工作、隠密活動……用途はさまざまだ。
この力があったから、王家は彼女を利用したいと考え、モモは王太子の婚約者に選ばれた。しかし――
彼女の姉、ロザリーが癒しの魔力を発現させたことで、事態は一変する。
『傀儡人形』の魔法を持つモモより、人々に癒しを与える『癒しの魔法』を持つロザリーのほうが、王太子妃にふさわしいとささやかれるようになったのだ。
くだらない噂だと思っていたそれはいつのまにか王国中に広まってしまった。
気付いたときには、モモは『嫉妬に狂って姉と王太子を殺害しようとした』という罪で捕縛され、断罪され、投獄されてしまっていた。
モモが国外追放にならなかったのは、彼女の魔力を他国に利用されないようにするためで――
モモが処刑されなかったのは、彼女が殺すには惜しいほどの才能の持ち主だったからだろう。
つまり王家は、モモを閉じ込めておきながら、いつか改心したと判断したら、また以前のように便利に使うつもりなのだ。
(まったく、いくらなんでも卑怯な話よ)
わたしはそう考えていた。
だから、何度か「モモに面会しないのか」と問われたこともあったけれど、面会することはなかったのだ。
王家が望む『モモの改心』になんて、手を貸したくなかったから。
だが、今こうして、彼女の話を聞くと──
(話が変わってくるわね……)
モモは閉じ込められて、身動きできないくせに、自分の才能と魔力を使って、牢屋の外の世界の情報収集を怠らない。
そんなことをする理由なんて、ひとつしかないじゃないか。
「……あなたが捕まったとき。あまりにもあっさり罪を認めて投獄されたとは思っていたのよ。モモ、あなた――こうなることがわかっていたのね?」
モモは返事の代わりみたいに、美しい笑顔で笑った。
聞き覚えのない単語に、わたしは首をかしげる。
「あら? てっきり、浮気者のカート・ヴィゼンと泥棒猫のリオナ・ヘッセのことで私の力を借りたいのだと思っていましたが、違いましたか?」
「ち、ちょっと、あなたなんでそんなこと知っているのよ!?」
確かに、わたしはカートとリオナのことを相談するためにモモを訪ねた。
だが、一年間ずっと牢屋で暮らしているはずのモモが、今のわたしの状況を知っているのはさすがに不自然だ。
驚いたわたしの前で、モモは上品に紅茶をもう一口飲む。
代わりのように、ガラス玉の瞳の人形が自己主張するかのように『はいっ!』と言って片手を挙げた。
それを見て、わたしはようやく察する。
「あなたもしかして、『傀儡人形』の魔法を使って王国内の噂話を聞いて回っているの!?」
「その通りです」
「この牢屋にいれば、魔法は使えないはずじゃないの!? 『魔封じ』はどうなっているのよ!」
動揺のあまり、聞かずに済ませようと思ったことを聞いてしまったわたしに、モモはにこりと微笑んでからこう言った。
「こんなもの、ある程度魔法の出力を制限するだけです。私のように大量の魔力を持つ者には、ほとんど効果なんてありませんよ」
「こんなもの、って……」
王国の魔法師たちが技術の粋を極めて作り上げた、魔力を封印する魔封じの牢を、モモは問題にもしていないらしかった。
だが、それも彼女の実力を考えれば当然なのかもしれない。
モモには、他の人間とは違う特別な才能がある。
王家とその血に近い貴族だけが持つという、強力な魔力である。
その力で彼女は『傀儡人形』の魔法を使うことができるのだ。
昔から、わたしはモモが『傀儡人形』の魔法で人形を操る姿を見ていた。
幼いころは、人形遊びに便利な魔法だとしか思っていなかったけれど、モモの成長につれて、『傀儡人形』の魔法は大人たちの都合のいいように使われるようになった。
情報収集、工作、隠密活動……用途はさまざまだ。
この力があったから、王家は彼女を利用したいと考え、モモは王太子の婚約者に選ばれた。しかし――
彼女の姉、ロザリーが癒しの魔力を発現させたことで、事態は一変する。
『傀儡人形』の魔法を持つモモより、人々に癒しを与える『癒しの魔法』を持つロザリーのほうが、王太子妃にふさわしいとささやかれるようになったのだ。
くだらない噂だと思っていたそれはいつのまにか王国中に広まってしまった。
気付いたときには、モモは『嫉妬に狂って姉と王太子を殺害しようとした』という罪で捕縛され、断罪され、投獄されてしまっていた。
モモが国外追放にならなかったのは、彼女の魔力を他国に利用されないようにするためで――
モモが処刑されなかったのは、彼女が殺すには惜しいほどの才能の持ち主だったからだろう。
つまり王家は、モモを閉じ込めておきながら、いつか改心したと判断したら、また以前のように便利に使うつもりなのだ。
(まったく、いくらなんでも卑怯な話よ)
わたしはそう考えていた。
だから、何度か「モモに面会しないのか」と問われたこともあったけれど、面会することはなかったのだ。
王家が望む『モモの改心』になんて、手を貸したくなかったから。
だが、今こうして、彼女の話を聞くと──
(話が変わってくるわね……)
モモは閉じ込められて、身動きできないくせに、自分の才能と魔力を使って、牢屋の外の世界の情報収集を怠らない。
そんなことをする理由なんて、ひとつしかないじゃないか。
「……あなたが捕まったとき。あまりにもあっさり罪を認めて投獄されたとは思っていたのよ。モモ、あなた――こうなることがわかっていたのね?」
モモは返事の代わりみたいに、美しい笑顔で笑った。
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