獄中令嬢モモ・クルツバルグの華麗なる復讐レシピ

ひるね

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「復讐レシピに、どうぞご期待ください」

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 わたしは大きく息を吐いてから、彼女に今までの事情の説明を始めた。

 家の都合で、幼いころに定められた婚約者、カート・ヴィゼン。
 わたしは彼に嫁ぐために、結婚して彼を支えるために、やりたいことを諦め、次期侯爵としての彼の仕事をずっと手伝ってきた。
 最近では「忙しい」と言って逃げ出すカートの代わりに、彼の名代として直接仕事をするようにさえなってきた。

 だというのに、だ。
 カートはいつからかリオナ・ヘッセに夢中になっていた。わたしを裏切り、浮気を始めたのだ。

 そんなことを簡単に説明すると、モモは「あらまあ、ひどい話」と言って、眉をひそめる。

「おそらく、アイラさんがカートの代わりに行った仕事で優秀な成果を出したことが、カートのプライドを傷つけた。だから、安易な美辞麗句と体で慰めてくれるリオナと浮気したのでしょう」
「……そう。あなたがそう言うなら、きっとそうなんでしょうね」
 
 わたしがカートの仕事に手を出すようになったのは、彼の仕事のあまりの効率が悪さを見るにみかねてのことだった。しかし、自分でやるより女に任せた方が上手くいくという環境は、カートのプライドを思いのほか傷つけていたのかもしれない。

 面倒くさい話だ、と思う。
 だがさらに面倒臭いのは、その隙を見逃さない女がいたことだ。

 それがリオナ・ヘッセである。
 彼女はカートが弱っていることに気付くと彼に近づき、誘惑して、浮気を始めた。

 わたしがそれを知ったのは、カートの屋敷に呼び出されて寝室に誘導されたときのことがきっかけではあるのだが――
 詳細はあまりにも破廉恥なので伏せておく。
 ひとつ確かなのは、あのときわたしを呼び出したのは、リオナの企みだったということだ。

「どちらかというと、厄介なのはカート本人よりもリオナの方でしょうね」

 モモの言葉に、わたしは頷く。
 自分に都合よく振舞ってくれるリオナに癒しを求めたカートも大概だが、リオナはその上をいく。

 カートが信じているほど、リオナが純粋であるわけがないからだ。
 本当にカートが好きで好きでしょうがなくて近寄ったなら、わたしに浮気現場を見せつけるなんてことは、しなかったはずだ。
 だがリオナはそれをした。
 そんな彼女がカートの婚約者の座をわたしから奪い取ったあと、そのまま侯爵夫人の座で満足するなんて思わない。
 彼女はカートを踏み台にして、今度はもっと上の身分の男を狙うに違いない。
 狙いはおそらく、王族だ。
 この国では、女は結婚相手を選ぶことでしか成り上がることができない。そしてこの国で最高の身分の持ち主といえば、間違いなく王族なのだ。

「いっそのこと、放っておくのも手であるのかもしれません。リオナは放っておけば、もっと身分の高い他の男に乗り換えるはず。そうすれば、カートはお役御免で返品されるでしょう」
「たとえそうだとしても、わたしはもうカートとよりを戻すつもりはないの。カートがわたしを裏切ったのは事実よ。あの男には痛い目を見せてやらなきゃ気が済まないわ」

 わたしの返事を聞くと、モモは楽しそうに「ふふっ」と笑った。

「いいですね、とてもいい。それでこそアイラさんです。……それでは、あなたに『復讐レシピ』を授けましょう」

 そう言って、両手で包み込んだ何かを差し出してきた。
 牢屋の中に手を差し伸べて、わたしはそれを受け取る。

 手を開くと、中にいたのは小さな人形だった。
 手の親指よりも一回り大きいそれは、モモと同じような、ピンク色のガラス玉の瞳をしている。

「これは……?」
「わたしのメッセンジャーです」
『よろしくおねがいします、アイラ様!』
「きゃあっ! 動いたわ!! しゃべったわよ!?」
「動くししゃべりますよ。私の魔法がかかっているんだから、あたりまえじゃないですか」

 人形は『よいしょ、よいしょ』と言いながらわたしの手から腕を伝い、肩に座る。そしてわたしの耳に内緒話をするように顔を寄せると、こんなことをしゃべった。

『その子がいれば、こうやって離れたところからでも、私の声が届きます』

 人形から聞こえてきたのは、モモの声だ。
 それはつまり。

「そう……ならこれからは、わざわざここに来なくてもあなたと話すことができるのね」
「その通り。私はこれから、その子を使って情報収集をし、復讐のための助言をします。だからこれからは、アイラさんはこの子の指示に従って行動してください。そうすれば、あなたの目的は必ず達成されるでしょう」

 そしてモモは、もう一度あの美しい笑顔を見せて、こう言ったのだ。

「アイラさん。この私、モモ・クルツバルグの『復讐レシピ』に、これからどうぞご期待ください」
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