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『復讐レシピ』の手順は簡単
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モモから渡された人形は、
『しばらくは情報収集に努めます。アイラさんは、いつも通りに過ごしてみてください』
モモの声でそんなことを言ってから、しばらくの間は静かにしていた。
そして、数日経ったあと。
『なるほど、よくわかりました。アイラさん、集めた情報で私の『復讐レシピ』が完成しましたよ』
あの美しい微笑みが見えてくるような声音でそう言った。
「モモ。牢屋でも言っていたけれど、『復讐レシピ』ってなんなの?」
『お料理では、食材を理解しておいしく食べるためにレシピを使うでしょう? それと同じです。相手を理解して、最適な方法で復讐するための手引。それがわたしの『復讐レシピ』ですよ」
「……なら、あなたの『復讐レシピ』に従えば、カートとリオナを懲らしめることができるのね?」
『もちろんです。私のレシピで、最高に痛快な復讐をご覧に入れましょう』
その声に合わせてぺこりとお辞儀をした人形を見て、わたしも笑う。
「いいわね、それ。最高だわ」
それからのわたしは、人形から伝えられたモモのレシピ通りに行動した。
『復讐レシピ』その1の手順。
『まず、カートの貴族社会での評判を落としてください』
これは、難しいことではなかった。そもそも何もしなくても、今のカートの評価は高くない。
カートはリオナとの逢瀬を優先するあまり、貴族としての職務をほぼ放棄していたからだ。
その埋め合わせをしているのが、現時点ではまだ婚約者であるわたしである。
女の身でありながら男の仕事をしようとするわたしに嫌味を言う連中は多かった。わたしはそのたびに強い言葉で反発していたのだが――
モモの計画を聞いてからは、彼女の指示通りに、「男の仕事を女がするなんて……」などと言うくだらない嫌味を言う男性貴族たちに、わたしは反発するのをやめた。
代わりに、にっこり笑ってこう返すのだ。
「ええ、まったくおっしゃる通りですわ! カート様であれば、もっと立派にお勤めを果たしてくれるでしょうに……未来の伴侶であるからといって、女のわたしが皆様のお仕事をお邪魔してしまって申し訳ございません」
わたしが、モモの言う通りしおらしい態度でそう言うと、嫌味を言ってきた男性貴族たちは溜飲を下げたような顔をした。
そしてわたしが反発しないで同調することを知ると、彼らは次第にわたしへの嫌味を言うのをやめるようになった。
効果はそれだけではなかった。
その後は、わたしが仕事で結果を出せば出すほど、嫌味の代わりに「きみのほうがカート君よりよほど次期侯爵に向いているようだ」などと、カートを悪しざまに言うようになった。
男性貴族社会での嫌味の対象は、いつの間にかわたしからカートに代わっていたのだ。
『復讐レシピ』その2の手順。
『カートが、貴族の仕事ができない無能であるという噂を広めてください』
これは、広めるまでもなかった。
手順1で述べたとおり、カートが受け持つはずのほとんどの仕事を、今やわたしが名代として代理で行っているからだ。
実績も十分ある。カートが仕事していたころよりも、ずっと確実な結果を出してきた。それを知るカートの父親でさえ「きみたちの性別が逆だったら、私も安心していられるんだが」と言うほどだ。
すでに十分カートが無能であることは知れ渡っている。だからこそ、貴族社会でのカートの評価は下がり続けて止まらないのだ。
今更何かするまでもなく、カートが無能であることは知れ渡っている。
そのことを人形を通してモモに伝えると、牢屋の奥で『さすがです、アイラさん』と言って彼女が笑った気配がした。
『復讐レシピ』その3の手順。
『カートがアイラさんに迷惑をかけているということを、できるだけ多くの人に伝えてください』
これも、大した苦労はなかった。
カートが浮気していることは公然の秘密と化していたし、そのくせ職務は婚約者であるわたしに任せていることから、周囲の目は最初からわたしに同情的だった。
だから、その噂に火と油を足すだけでよかった。
貴族の集まりはなにも、カートとリオナが積極的に参加する夜会やお茶会などの華やかなパーティだけじゃない。
むしろサロンや勉強会、講演会などの集まりの方が、自分の義務を放棄して遊び惚ける輩に厳しい目を持つ人間は多いものだ。
わたしは積極的にそういった集まりに参加し、積極的に噂話を広めることにした。
そうしているうちに、次第に「お可愛そうに……力になれることがあったら、なんでも言ってくださいませね」と言ってくれる人も増えてきた。
こうして、わたしは貴族社会の同情を集めることに成功した。
こんなことができたのは、モモが『復讐レシピ』の最後に付け加えられた注意事項のおかげだろう。
『しばらくは情報収集に努めます。アイラさんは、いつも通りに過ごしてみてください』
モモの声でそんなことを言ってから、しばらくの間は静かにしていた。
そして、数日経ったあと。
『なるほど、よくわかりました。アイラさん、集めた情報で私の『復讐レシピ』が完成しましたよ』
あの美しい微笑みが見えてくるような声音でそう言った。
「モモ。牢屋でも言っていたけれど、『復讐レシピ』ってなんなの?」
『お料理では、食材を理解しておいしく食べるためにレシピを使うでしょう? それと同じです。相手を理解して、最適な方法で復讐するための手引。それがわたしの『復讐レシピ』ですよ」
「……なら、あなたの『復讐レシピ』に従えば、カートとリオナを懲らしめることができるのね?」
『もちろんです。私のレシピで、最高に痛快な復讐をご覧に入れましょう』
その声に合わせてぺこりとお辞儀をした人形を見て、わたしも笑う。
「いいわね、それ。最高だわ」
それからのわたしは、人形から伝えられたモモのレシピ通りに行動した。
『復讐レシピ』その1の手順。
『まず、カートの貴族社会での評判を落としてください』
これは、難しいことではなかった。そもそも何もしなくても、今のカートの評価は高くない。
カートはリオナとの逢瀬を優先するあまり、貴族としての職務をほぼ放棄していたからだ。
その埋め合わせをしているのが、現時点ではまだ婚約者であるわたしである。
女の身でありながら男の仕事をしようとするわたしに嫌味を言う連中は多かった。わたしはそのたびに強い言葉で反発していたのだが――
モモの計画を聞いてからは、彼女の指示通りに、「男の仕事を女がするなんて……」などと言うくだらない嫌味を言う男性貴族たちに、わたしは反発するのをやめた。
代わりに、にっこり笑ってこう返すのだ。
「ええ、まったくおっしゃる通りですわ! カート様であれば、もっと立派にお勤めを果たしてくれるでしょうに……未来の伴侶であるからといって、女のわたしが皆様のお仕事をお邪魔してしまって申し訳ございません」
わたしが、モモの言う通りしおらしい態度でそう言うと、嫌味を言ってきた男性貴族たちは溜飲を下げたような顔をした。
そしてわたしが反発しないで同調することを知ると、彼らは次第にわたしへの嫌味を言うのをやめるようになった。
効果はそれだけではなかった。
その後は、わたしが仕事で結果を出せば出すほど、嫌味の代わりに「きみのほうがカート君よりよほど次期侯爵に向いているようだ」などと、カートを悪しざまに言うようになった。
男性貴族社会での嫌味の対象は、いつの間にかわたしからカートに代わっていたのだ。
『復讐レシピ』その2の手順。
『カートが、貴族の仕事ができない無能であるという噂を広めてください』
これは、広めるまでもなかった。
手順1で述べたとおり、カートが受け持つはずのほとんどの仕事を、今やわたしが名代として代理で行っているからだ。
実績も十分ある。カートが仕事していたころよりも、ずっと確実な結果を出してきた。それを知るカートの父親でさえ「きみたちの性別が逆だったら、私も安心していられるんだが」と言うほどだ。
すでに十分カートが無能であることは知れ渡っている。だからこそ、貴族社会でのカートの評価は下がり続けて止まらないのだ。
今更何かするまでもなく、カートが無能であることは知れ渡っている。
そのことを人形を通してモモに伝えると、牢屋の奥で『さすがです、アイラさん』と言って彼女が笑った気配がした。
『復讐レシピ』その3の手順。
『カートがアイラさんに迷惑をかけているということを、できるだけ多くの人に伝えてください』
これも、大した苦労はなかった。
カートが浮気していることは公然の秘密と化していたし、そのくせ職務は婚約者であるわたしに任せていることから、周囲の目は最初からわたしに同情的だった。
だから、その噂に火と油を足すだけでよかった。
貴族の集まりはなにも、カートとリオナが積極的に参加する夜会やお茶会などの華やかなパーティだけじゃない。
むしろサロンや勉強会、講演会などの集まりの方が、自分の義務を放棄して遊び惚ける輩に厳しい目を持つ人間は多いものだ。
わたしは積極的にそういった集まりに参加し、積極的に噂話を広めることにした。
そうしているうちに、次第に「お可愛そうに……力になれることがあったら、なんでも言ってくださいませね」と言ってくれる人も増えてきた。
こうして、わたしは貴族社会の同情を集めることに成功した。
こんなことができたのは、モモが『復讐レシピ』の最後に付け加えられた注意事項のおかげだろう。
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