獄中令嬢モモ・クルツバルグの華麗なる復讐レシピ

ひるね

文字の大きさ
6 / 13

『復讐レシピ』の注意事項

しおりを挟む
 『復讐レシピ』の注意事項。

『レシピに沿って誰かに噂を吹き込むときは、カート自身に問題があることを、明確に伝えてください』

 これを最初に聞いたときは、意図がよくわからなかったのでモモに質問をした。

「モモ、それはどういうこと?」
『あからさまにネガティブな悪口を言うだけでは、私の『復讐レシピ』は完成しない、ということです』
「……つまり、わたしは何をすればいいの?」
『難しく考えることはありません。噂を吹き込むとき、最後にさりげなく、『それでもアイラ・ザクセンはカート・ヴィゼンを信じている』と相手に思わせればいいのです』
「そんなこと、できるかしら。わたしはまったくカートのことを信じてなんていないのに」
『あらあら。そうですね……噂を吹き込んだ最後に、微笑みながら『でも、カートはやればできる人だと思うの』とでも言っておけば、十分ですよ』

 わたしはモモの言うとおりに行動し――そして、その通りになった。

 カート・ヴィゼンはコンプレックスの塊であり、婚約者であるアイラ・ザクセンより劣っているという事実に耐えきれず他の女との浮気に逃げた。
 しかしアイラ・ザクセンは健気にもカートを信じ、彼が戻ってくるのを、彼の仕事を肩代わりしながら待っている。

 あの二人が浮気に励み、恋にうつつを抜かしている間にわたしが多くの人に吹き込んだ噂は、次第にわたしの手を離れ、貴族社会全体で囁かれるようになった。
 噂話はほとんど事実として扱われ、カートとリオナにまともに相手をしようとする者はいなくなった。

 だが、カートたちは、自分たちが孤立していることに気づいていない。社交界にすでに味方が誰もいないことを知らないまま、今も呑気に浮気を続けている。

 この状況は、モモの作戦通りだった。

 そのことが、わたしは少し怖い。
 モモの『復讐レシピ』の通りに動いたのはわたしだ。しかし、あまりにもうまくことが運びすぎていることが、ほんの少し、怖かった。

「モモ……ものすごく性格が悪い作戦よ、これ! 本気でこんなレシピを、実行していいの!?」

 レシピに従って行動するたび、善良な人々を騙している気がして良心が摩耗してきたわたしは、自室で誰もいないことを確認するとモモから預かった人形に話しかける。
 すると、人形はすぐに動き出して、上品な仕草で自分の手を自分の口に当てた。

『まあ! 心外です。私が考えた中では、これが一番穏便な方法ですよ』
「他にどんなことを考えていたっていうのよ……!」
『あらあら、アイラさん。本当に知りたいですか?』
「……いいえ、やめておくわ。何を聞かされるのかわかったものじゃないから」

 わたしはそう言ったのだが、モモの言葉を伝える人形は、次にこんなことを語りだした。

『アイラさんにはわからないと思いますが、人は、虐めようと思って人を虐めるわけではありません。それが正しい行いだと信じているからこそ人を虐めるのですよ』
「……? 何の話よ、モモ?」
『標的に復讐するために大切なのは、周りを巻き込むことです。周囲の人間に、標的を陥れ、貶める理由……『正しさ』を用意してあげることが大切なんです。たったそれだけで、周囲の人間は標的を見限り、容赦ない攻撃を始めるんですよ』

 モモが何を言っているのか、よくわからなくて黙るしかないわたしの前で、人形はこてんと首をかしげると態度を改めた。

『さて、もう十分にアイラさんの流した噂は知れ渡った頃でしょう』

 そして、モモの言葉を代弁する人形は、モモのようなガラス玉の瞳をまっすぐにわたしに向けて、こんなことを言い出した。

『それではそろそろ、『復讐レシピ』その5の手順。リオナ・ヘッセへの嫌がらせを始めましょうか』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

鷹 綾
恋愛
### 内容紹介 **タイトル**: 「婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む」 **ジャンル**: 異世界ファンタジー恋愛 / 婚約破棄ザマア / シンデレラストーリー / 溺愛甘々 **あらすじ(ネタバレなし)** 公爵令嬢ヴィオレッタは、幼馴染の王太子アルディオンに長年婚約を誓われていた。美しい容姿と優しい性格で宮廷でも愛されていたが、ある舞踏会の夜、アルディオンは突然平民出身の偽聖女セリナに心変わりし、ヴィオレッタを公衆の面前で婚約破棄する。「君はただの飾り物だ」との屈辱的な言葉とともに、家族からも見放され、追放の危機に陥る。 絶望の底で、ヴィオレッタの中に眠っていた古代の「影の魔法」が覚醒。影を操り、幻影を生み、予知する強大な力だ。一人旅立った彼女は、冒険者として生きながら、復讐の炎を胸に秘める。 そんなヴィオレッタの前に現れたのは、銀髪銀瞳の謎の美男子セイル。彼は隣国アストリアの「漆黒の王太子」で、政争から身を隠していた。最初はヴィオレッタの影の力を利用しようとするが、彼女の強さと純粋さに惹かれ、互いに心を開いていく。 二人は共闘し、アルディオンとセリナの陰謀を暴き、王国を救う。ヴィオレッタは屈辱を乗り越え、セイルに溺愛されながら、王妃として輝く未来を掴む。影と光が調和する、真実の愛と逆転の物語。

豪華客船での結婚式一時間前、婚約者が金目当てだと知った令嬢は

常野夏子
恋愛
豪華客船≪オーシャン・グレイス≫での結婚式を控えたセレーナ。 彼女が気分転換に船内を散歩していると、ガラス張りの回廊に二つの影が揺れているのが見えた。 そこには、婚約者ベリッシマと赤いドレスの女がキスする姿。 そして、ベリッシマの目的が自分の資産であることを知る。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...