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断罪はもう止まらない
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「ち、父上……!? だ、だってアイラは、僕の仕事を奪っただけじゃない。社交界のご婦人たちの集まりでは罪のないリオナを無視したんだ。他の令嬢やご婦人とも結託して、リオナを貴族社会から追放しようとだってしたんですよ!? なぜそんな女を庇うんです!!」
父の思わぬ反撃にあってひるんだカートは、作戦を変更したみたいだった。
リオナの話を持ち出して、わたしがリオナを不当に攻撃したのだと主張しはじめた。
あくまで、わたしが加害者であり、自分たちは被害者なのだと主張したいらしい。
その認識こそが、この場にいる全員の認識と一番かけ離れているのだと、いつになったら気付くだろう。
カートの発言のあと、しんと静まり返った会場の中で「ここまで愚かな男を、私は今まで嫡子として扱っていたのか……」という侯爵の声がむなしく響く。
婚約破棄を告げられ、泣き崩れていた(演技をしていた)わたしを介助するように寄り添っていた子爵夫人が、侯爵のそんな姿を見て立ち上がった。
「……リオナ様については、侯爵閣下よりもわたくしからカート様にご説明したほうがいいご様子ね?」
普段はおっとりと優しいはずのその瞳は、今はキッと鋭い光を宿してカートとリオナに向いていた。
「カート・ヴィゼン次期侯爵閣下。あなたは本当に、お隣にいるその女性が、純粋な気持ちであなたに近づき、恋をしていると思いますか?」
「な、何を……」
子爵夫人は流行の最先端をいく洒落人として注目を集めているだけでなく、その面倒見の良さから社交界の中でも、特に女性の支持を多く集める女性だ。
彼女の発言は皆が注目する。それを自分で理解しているからこそ、彼女の発言にはいつも重みがある。
その彼女が、カートに庇われる位置にいるリオナに厳しい視線を向けている。
「……残念ながら、今のこの国は、女が自分の力だけで生きていくことは難しい。女は、伴侶となる男を選ぶことでしか、自分の人生を向上させることができません。つまりそれは、女が成り上がるには、より身分の高い男と恋をすればいい、ということでもある」
「し、子爵夫人、あなたは一体なにを言っているんだ?」
突然なんの話を始めたのか、カートにはわからなかったらしい。すぐ横にいるリオナのひどい形相を見れば、子爵夫人がなんの話をしているのかすぐにわかっただろうに。
子爵夫人は、優雅な仕草で扇子を広げ、その奥でクスクスと笑った。
「ここまで言ってもお分かりにならないのが、そのご立派な頭がただの飾りであるといういい証拠ね」
艶のある婦人に笑われて、カートの頬が赤くなる。それを見たリオナが、カートと子爵夫人の間に割り込んだ。
「カート様、こんな人の言うことなんて聞く必要ないわっ!」
「あらあら、リオナ様ったら、そんなに声を荒げてどうなさったの? もしかしたら、化けの皮をはがされるのを心配したのかしら?」
「夫人、もう黙って! あなたにカート様の何がわかるっていうの!?」
「リオナ……!」
カートはリオナに庇われ、その背に向かって感嘆の声を上げた。
さっきまで守ろうとしていた女に庇われて喜色を浮かべるカートの姿は、なんというか、言葉を選んだとしても、実に滑稽だ。
その姿を子爵夫人も見たのだろう。抑えきれないように鼻で笑ったあと、閉じていた扇子をもう一度開く。
「やはり、はっきりと言わないことには、あなたには伝わらないようです。この際、はっきりと申し上げましょう」
「ちょっと、やめなさいっていっているでしょ!」
カートの前でずっと続けていたはずの猫かぶりをやめたところで、リオナの制止は間に合わない。
子爵夫人は、夜会の参加者が見守る中で、きっぱりはっきりと宣言した。
「カート様。あなたはリオナ・ヘッセに騙されたのです。彼女は、あなたの婚約者の座をアイラ様から奪いたかっただけ」
「え……? リオナが僕を、騙した?」
「ちょ、子爵夫人、何を言うのよ! カート様、あんな人の言うことを信じる必要はありません!」
「リオナ……そうだよね?」
まるで母親に叱られた子どもみたいな頼りなさで、カートはリオナを縋るように見る。
しかしそんな二人に向けられる会場中からの軽蔑しきった視線が、この場にいる全員の考えを如実に表現していた。
「夢見る次期公爵様、あなたはそろそろ目を覚まして、現実を見るべきです。リオナ・ヘッセの本性なんて、火を見るより明らかですわ」
「リオナの本性……?」
「あなたがリオナ・ヘッセに選ばれたのは、美しい運命の恋なんてものではございません。あなたが選ばれたのは、あなたなら――うまく御せると思ったからですよ」
「ぎょ、ぎょせる……?」
言葉の意味を理解できなかったのか、戸惑いの表情を浮かべるカートに、子爵夫人は容赦せずに続ける。
「彼女の狙いはただひとつ。あなたにアイラ様との婚約を破棄してもらってその後釜に入り、そうしたら次期侯爵の婚約者という身分を使ってもっと身分の高い男に近づくことです。だから、彼女に婚約者の身分をあたえたら最後。あなたはきっとすぐに捨てられてしまいますわ」
「捨てられる、だって……!?」
父の思わぬ反撃にあってひるんだカートは、作戦を変更したみたいだった。
リオナの話を持ち出して、わたしがリオナを不当に攻撃したのだと主張しはじめた。
あくまで、わたしが加害者であり、自分たちは被害者なのだと主張したいらしい。
その認識こそが、この場にいる全員の認識と一番かけ離れているのだと、いつになったら気付くだろう。
カートの発言のあと、しんと静まり返った会場の中で「ここまで愚かな男を、私は今まで嫡子として扱っていたのか……」という侯爵の声がむなしく響く。
婚約破棄を告げられ、泣き崩れていた(演技をしていた)わたしを介助するように寄り添っていた子爵夫人が、侯爵のそんな姿を見て立ち上がった。
「……リオナ様については、侯爵閣下よりもわたくしからカート様にご説明したほうがいいご様子ね?」
普段はおっとりと優しいはずのその瞳は、今はキッと鋭い光を宿してカートとリオナに向いていた。
「カート・ヴィゼン次期侯爵閣下。あなたは本当に、お隣にいるその女性が、純粋な気持ちであなたに近づき、恋をしていると思いますか?」
「な、何を……」
子爵夫人は流行の最先端をいく洒落人として注目を集めているだけでなく、その面倒見の良さから社交界の中でも、特に女性の支持を多く集める女性だ。
彼女の発言は皆が注目する。それを自分で理解しているからこそ、彼女の発言にはいつも重みがある。
その彼女が、カートに庇われる位置にいるリオナに厳しい視線を向けている。
「……残念ながら、今のこの国は、女が自分の力だけで生きていくことは難しい。女は、伴侶となる男を選ぶことでしか、自分の人生を向上させることができません。つまりそれは、女が成り上がるには、より身分の高い男と恋をすればいい、ということでもある」
「し、子爵夫人、あなたは一体なにを言っているんだ?」
突然なんの話を始めたのか、カートにはわからなかったらしい。すぐ横にいるリオナのひどい形相を見れば、子爵夫人がなんの話をしているのかすぐにわかっただろうに。
子爵夫人は、優雅な仕草で扇子を広げ、その奥でクスクスと笑った。
「ここまで言ってもお分かりにならないのが、そのご立派な頭がただの飾りであるといういい証拠ね」
艶のある婦人に笑われて、カートの頬が赤くなる。それを見たリオナが、カートと子爵夫人の間に割り込んだ。
「カート様、こんな人の言うことなんて聞く必要ないわっ!」
「あらあら、リオナ様ったら、そんなに声を荒げてどうなさったの? もしかしたら、化けの皮をはがされるのを心配したのかしら?」
「夫人、もう黙って! あなたにカート様の何がわかるっていうの!?」
「リオナ……!」
カートはリオナに庇われ、その背に向かって感嘆の声を上げた。
さっきまで守ろうとしていた女に庇われて喜色を浮かべるカートの姿は、なんというか、言葉を選んだとしても、実に滑稽だ。
その姿を子爵夫人も見たのだろう。抑えきれないように鼻で笑ったあと、閉じていた扇子をもう一度開く。
「やはり、はっきりと言わないことには、あなたには伝わらないようです。この際、はっきりと申し上げましょう」
「ちょっと、やめなさいっていっているでしょ!」
カートの前でずっと続けていたはずの猫かぶりをやめたところで、リオナの制止は間に合わない。
子爵夫人は、夜会の参加者が見守る中で、きっぱりはっきりと宣言した。
「カート様。あなたはリオナ・ヘッセに騙されたのです。彼女は、あなたの婚約者の座をアイラ様から奪いたかっただけ」
「え……? リオナが僕を、騙した?」
「ちょ、子爵夫人、何を言うのよ! カート様、あんな人の言うことを信じる必要はありません!」
「リオナ……そうだよね?」
まるで母親に叱られた子どもみたいな頼りなさで、カートはリオナを縋るように見る。
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「ぎょ、ぎょせる……?」
言葉の意味を理解できなかったのか、戸惑いの表情を浮かべるカートに、子爵夫人は容赦せずに続ける。
「彼女の狙いはただひとつ。あなたにアイラ様との婚約を破棄してもらってその後釜に入り、そうしたら次期侯爵の婚約者という身分を使ってもっと身分の高い男に近づくことです。だから、彼女に婚約者の身分をあたえたら最後。あなたはきっとすぐに捨てられてしまいますわ」
「捨てられる、だって……!?」
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