聖なる祈りは届かない

浅瀬

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【Memory_1】君と共に

6.おもてなし

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 彼女の家は、思ったより大きくて広かった。
 どうやら教会とくっついて隣接されているが、ざっと見ても3LDKはある。
 外観は、普通の家となに変わらない風景で少し安心した。

 そんな広い家の前で俺を手招くリリィ。
 家の中に入ると、シチューか何かの良い匂いがする。

 御家族でも居るのだろうか、大分多い分量を作っている様に見受けれる。

 「リリィ他に住んでいる人がいるなら先に挨拶だけさせて?」

 テンションが上がっているのかなんなのか、家に入るなりせかせかと動いてくれていた。
 椅子を用意してくれたり湯を沸かしてお茶を入れてくれようとしたり、お菓子を出してくれたり。
 これから居候になる身だというのに少しは手伝っての一言くらいあっても良いじゃないか。

 俺の言葉も届かないくらいおもてなしをしてくれるリリィに痺れを切らし、動く彼女を抱き上げてもう一つの椅子に無理やり座らせた。
 驚いたのもつかの間、すぐに立とうとした彼女を必死に手で抑えた。



 「落ち着いて…。そんなに焦らなくても俺はどこにもいかないから。」

 「だって、人が来るなんてもう3年振りだもの。おもてなししないと夜逃げされちゃう!」

 「ん?この家、リリィしかいないの?」

 「そうよ。だーれも来ないの。ずっとひとりぼっち。」

 「だからって、俺はどこにもいかないって約束しただろ。」

 「…嘘!ミコトのうそつき!!!」

 セキを切ったように彼女の大きな瞳に涙が溜まって、少しづつ溢れていく。

 「あー…リリィ?嘘じゃないよ。傍にいるよ。」

 気持ばかりの慰めの言葉も届かず、わんわんと声を上げて泣き出してしまった。
 背中を何度か軽く叩いて宥めようとした。
 まるで死別してしまった妹をあやしているみたいで、少しだけ懐かしくなった。

 「ぐずっ…指切りげんまん。」

 「どうした?」

 「指切りげんまん、してない!!!!」

 あまりにも小さな声で聞こえずに聞き返すと、さらに涙を流しながら小指を差し出してきた。
 その姿は、彼女を少女と足らしめるに十分過ぎた。

 きっと今まで無理をして生きてきたんだろう。
 こんな所に、1人で何年も生活をしてきたのだから。
 
 正直、椅子に縛り付けてやろうかと言うくらい、それはもう必死の攻防だった。
 だけれども、原因がわかれば案外呆気なかった。

 俺も小指を差し出すと、細い指に絡めて目線を合わせた。
 次は俺がおもてなしをする番だ。

 「指切りげんまん。嘘ついたら___リリィが俺の事を殺してくれて構わないよ。」

 余命は何度も宣告された。後数年って何度も先延ばしの日々だった。
 そのせいか、自分の命に関して、何も思わない。

 彼女のためにかけるこの命なんて、安いもんだ。
 命の恩人に命を好きに使われるのは不思議と変な気がしない。

 「そういうの、嫌。だから約束破らないで。」

 さっきもそうだったが彼女は、俺が命を天秤に差し出す事をよく思っていないらしい。

 「ごめん。じゃあ代わりにハーブティ入れさせてね。
  だからもう泣き止んで。」

  頭を何度か優しく撫でると、大人しく座って待ってくれていた。
  人に奉仕をするのは嫌いじゃない。

  それにしても、我儘なお嬢様に拾われた残念使用人感があるのは少し否めないかな。

  「熱かったら冷ましてね」

  桜の花が描かれたティーカップに紅茶を注ぐと、机の上に優しく置いた。
  自分の分も入れさせてもらい、一緒のテーブルに着いた。



   「…ミコト。この国は、遠くない未来に氷河期に襲われる。
    凍るの。大地も、全ての命も、炎でさえも。」
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