ぐざい

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『匂い』

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『匂い』
ルデルタを腕に抱いたまま、ネモゼラは小屋までの道を歩いた。ルデルタはネモゼラの服につかまって顔を見上げる。ネモゼラの顔の向こうに、月が見える。満月だった。まるで空に穴が開いているようだった。
ネモゼラの黒い毛が月に線を引いている。揺れて光る。
「ネモゼラ…」
「なんだ」
ネモゼラの胸に頭を預け、静かに言う。
「月がまるいよ」
「明るいな」

ルデルタはネモゼラに抱かれて、ネモゼラの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。ネモゼラの肌は森の匂いがした。太陽の匂いもする。温かい土の匂い、体温と心臓のとくとくとなる音。
かつて自分は、人をこんな風に想ったことあるのだろうか。ルデルタは自分の記憶を恨んだ。人をこんなに想えるなら、それは、ネモゼラが最初の人でありたかった。胸がいっぱいになる。この人が好きだ。この獣人が、とても。

ルデルタから嗅いだことのない匂いがしているのを、ネモゼラは感じた。この匂いはなんだろう。甘いような優しい匂いだ。ルデルタは嬉しい時や楽しい時に温かい匂いをさせる。今の匂いは初めての匂いだった。ネモゼラはその匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。愛する人の匂いと森の匂いが自分の鼻の中で混じりあう。幸せだった。自分の腕の中にいる、ルデルタの温度がとても幸せだった。
幸せのようなものは片手で収まるくらいの大きさでいいと思っていた。でも違った。幸せは腕にいっぱいになるのだ。この人が好きだ。この美しい生き物が。とても。
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