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10:[オシノテ]【検索】
しおりを挟む「……本当に、ありがとうございます」
「あ、でも。肌に合わなかったら、気にせず使うのを止めてくださいね。人によって合う合わないがあると思うので」
「はい」
俺は英語で書かれた謎の日焼け止めの名前を必死に覚えるべく、ジッとパッケージを見つめた。ここまでアオイさんがしてくれたんだ。今日は、死んでもドラッグストアでこの日焼け止めを買う。
「ぶりあさ……ん?」
「ウリサアリナです」
「うりさありな?」
それに、この日焼け止めが肌に合わないなんて事があるワケがない。だって、推しの推し商品だぞ!もちろん、俺も好きピ!
「大丈夫です?写真撮りますか」
「っひえ、そんな。お金も払わないのに」
「え?いや、分からなくなったら意味ないので。どうぞ」
「っひえ!」
その日、俺はアオイさんの手をスマホのデータフォルダに格納してしまった。アオイさんの手は、まだ若いからどんな水分もパーンと弾きそうなツヤツヤした綺麗な手だった。でも、いつも脱毛の機械を持って動かしているせいか、骨ばっていて見た目のユルフワな感じとは裏腹にガッシリしている。
「推しの手……」
「オシノテ?」
「高梨さん、すみません。次のお客様が……」
「あ、はい。じゃあ、タローさん。また次回に」
「はい……」
俺はその日、何度も何度もアオイさんの手を見て過ごした。
ちょっと、いや大分キモいのは自分でも分かっているのだが勘弁して欲しい。だって「推し」の一部だ。何度も何度も手を合わせて拝むように見た。
きっと、休みの日は俺みたいに家に引きこもってアニメを見るんじゃなくて、フットサルとか。友達や彼女さんとお洒落なイタリアンやバーとかに行ったりしている手だ。
「はぁ、リアルに会える推しが居るって……こんなに楽しいんだぁ」
今まで二次元とアイドルグループにしか推しの居なかった俺からすると、こんな至近距離で会話が出来たり、触れ合える場所に推しが居るなんて頭が弾け飛びそうな程嬉しい。地下アイドルにハマってた友達の気持ちが、今なら分かるかもしれない。
「あー、ヤバイヤバイ。感謝感謝」
最早、アオイさんのお勧めしてくれた日焼け止めすら拝みだす始末。でも、何かもう全部が嬉しいのだ。
「そういえば、最近。髭が薄くなってきたなぁ」
なんでだっけ?
俺は鏡の前で毎朝髭が生えなくなったり、謎に肌がツヤツヤしていくのを、首を傾げながら見ていた。そうなのだ。この辺りから、俺の中で「脱毛サロンに通っている」という概念は完全に消えて無くなっていたのである。
「次のライブ楽しみだなー!」
脱毛の予約は、俺にとって推しの舞台を間近で見れる最高のイベントに成り果てていた。こうして、春から通い始めた脱毛サロンも、気付けば肌寒い冬に突入していた。
11月5日
【脱毛レポ⑤】アオイさんの推しポイント五選!
こんにちは、コタローです。
今回もアオイさんの舞台はサイコーでした!はっぴー^^!
さてさて、今回は俺の永遠の推しアオイさんのどこが推せるかについて五つのポイントに分けてお伝えしたいと思います!
まずは……
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これは、年の瀬も近くなり職場も慌ただしくなり始めた、とある社内での会話である。
「いや、コレはもう【脱毛レポ】じゃねぇ。【アオイさんレポ】だわ」
「だな」
「俺、アオイさんに会った事ねぇのに、最近めちゃくちゃ仲良い友達みたいな気ぃしてきたんだけど。同い年っぽいし」
「わかる。俺らアオイさんの誕生日まで把握してるしな」
「ソレな。こないだなんか『あ、今日アオイさんの誕生日じゃね?』ってなって無駄にその日ケーキ買っちまったわ」
「てか、最近。宮森さんもめちゃくちゃ職場でも楽しそうだよなぁ」
「あの人マジで全部顔に出るからな。あと、めっちゃ肌艶良くなってるし」
「好きな子が出来た女子みたいだな」
「まぁ、それに近いモノはあるかもな」
「つーかさ、」
「ん?」
「VIOはいつやるんだ?」
こうして、見た目など一切気にしてこなかった宮森タローが、デスクの上にハンドクリームを常備するようになった頃、彼の「推し活」は少しばかり変化を迎えようとしていた。
応援ありがとうございます!
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