【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯

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第二章

第11話『初めての死闘を繰り広げた先に、想うこと』

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「今のうちに言っておくが、俺はそこまで強くない」
「そうなの?」

 真綾まあやは素朴な疑問をぶつける。

「実は俺、探索者になったばかりでこの装備も手に入れたばかりなんだ」

 言葉よりも信憑性のある、右腰に携える剣を抜刀。

「本当だ」
「手に入れたばかりって、もしかして和昌は大金持ちの家とか?」
「いやいや、全然。むしろあまりにも金欠すぎて探索者になる他なかったって感じ」
「ほえ~。人それぞれ理由はあるからね」
「ちなみに、数日前までアルバイトをしていたんだが、その店が営業終了するから戻ることもできないっていうね」
「それは大変」

 世間話に花が咲き、空気感も和み始めてくる。

 しかし、和昌かずあきは悲しいことにせっかく向けられてくる目線に気づきながらも、それに合わせることができない。だからこそできるだけ並行して歩くように速度を調整する。

「でもでも、あの盾ってどう考えても凄すぎるよね。片方だけでも自分だけだったら余裕で護れるし、両方合わせたらかなりの広範囲になってたし」
「真後ろから観てた感想は、本当に凄かった。無数の遠距離攻撃が降り注いだとしても、余裕で防げるんじゃないかな」
「そんな感じになってたのか。自分のことながら、本当にわかってないんだよな。重さも感じないし」
「え、あんなに凄い盾だっていうのに重量がないんだ」
「うん。手袋の重さぐらい。といっても、普通の手袋と大差がないんだけど」
「そういうの、私は知ってるよ。チート装備っていうやつだ」
「いやー、どうなんだろう」

 チート装備、というのが現実的にあるのは噂程度でしかない。
 この場に居るメンバーは全員がそこまで探索者歴が長いわけではないが、その『チート』という単語ぐらいは耳にしたことがある。

 しかし和昌は、知っている。
 自分と同じ境遇の人間であれば、探索者連盟支部への軽い出禁になるということを。そうなれば、そもそも情報が出回ることはほとんどない。パーティメンバーが情報を漏らさない限り。

「盾のことも気になるけど、私的にはそっちの剣の方が気になる」
「……」

 もっとも触れられたくない話題に切り込まれる。

「そういえばそうだよね。配布の剣を持っているのに、戦闘で使ってたのはそっちの方だったし。もしかしてだけど、それも手に入れたばかり、とか?」
「まあ、そうだ」
(どうしたものか。金額のことは後から知らせた方がなにかといい。なら、それに並ぶ衝撃的な事実を並べればいいだろう)
「俺もよくはわかっていないが、レアドロップアイテムというやつを2つ同時に入手したんだ」
「え、なにそれ。ヤバくない?」
「普通に考えてとんでもない確率なはず」
「だよね。上級探索者とかになると、そもそも場数が違うから2つ持ちとかってあるらしいけど」
「もしかして私達、気を使われてるんじゃないかな」

 装備、そしてあの戦闘を観たら、和昌がその上級探索者なのではないか、と思われても致し方がない。
 配布剣も、言ってしまえば武器店で購入することができるのだから。

「いやいや、本当に初心者なんだって。それは連盟支部にいけば証明できるから」
「それってどうなの? 上級探索者とかだったら、探索者連盟も口裏を御合わせてくれたりするんじゃない?」
「それはありえる」
「えぇ……」

 この状況下で信頼を勝ち取るのはかなり困難となってしまった。

「それを踏まえて、さっきの剣ってなんだったの? すっごく綺麗で、温かい光を放っていたように観えたんだけど」
「凄く綺麗だった。あの光のおかげで、私の焦りと恐怖がすーっと消えていった」
「しかもよく観たら、魂紅透石と似てないかな?」
「聞いたことがないけど、魂紅透石を加工して作成した武器って言うことなの?」

 次々に質問が飛んでくる。
 しかし、得体が知れないのは和昌もまた同じ。

「残念ながら、剣の方は盾よりも情報を持っていない。俺も最初は魂紅透石とほぼ同じ見た目をしているから、てっきり見た目だけの武器だと思っていたんだ。すぐに壊れるんだろうって」
「あー、たしかに。魂紅透石って配布の武器で砕けるようなものだし、それが武器って、言ってしまえばお飾りだもんね」
「それは言えてる。一振りで壊れそう。てか、砕けそう」
「だろ。だから最初はスライムを相手に斬ってみたんだが大丈夫そうで、次にフラワーと初めて戦闘した時に思い切って使ってみたら、剣としての役割はちゃんと果たしてくれた」

 真綾まあや天乃そらのは「なるほど」「その順番で戦闘しているあたり、信憑性がありそう」と、首を縦に振り始める。

「とりあえず、今は戦わないとダメみたい」

 この戦闘を機に、自分が昇進者であることを証明できると思い、配布の剣を握り締める。
 当初の打ち合わせ通り、連携をし戦闘に挑む……はずだったのだが。

「どうして俺が先頭になっているんだ」
「いやぁ~どうしてかなぁ~」
「もしも上級探索者だとしたら、私達がわざわざ前に出て戦闘しなくてもいい。これは合理的な判断」
「その場合はそうだが、もしも俺が主張通りに弱かったらどうするんだ?」
「助けに入るよ」
「うん。命の恩人を見殺しになんてしない」
「矛盾してないか」
「いいのいいの。ほら、1体だから」

 真綾は和昌の背中をポンッと押す。

 通路から先、開けている場所の中央で四本足で仁王立ちしている【ノーシ】を発見。今まで戦闘してたサルイより半分ぐらいの大きさで、地上に生息している猪とちょうど外見がほぼ一緒だ。少し違うとすれば、動物系のモンスター特有の真っ赤に染まった目と獰猛さ。
 サルイと違って、たった1撃の攻撃を受けて瀕死状態になるほどの攻撃力は持っていない。

 しかしながら、和昌はそれらの情報を持ち合わせていない完全初見。

「危なくなったら、本当に助けてくれるんだろうな……」

 そんな小言を漏らしながら、1歩、また1歩と確実に足を進めていく。

 足を進める和昌に対して、背後から迫ってくる足音はない。そのせいで不安が徐々に募っていき、剣を握る手により力が入り、呼吸が浅く早くなっていく。

(簡単に負けてやるつもりはないが、俺が戦っていたスライムとかフラワーよりは強いんだよな。くっ……あの2人、あそこまで進んでいたってことはあいつを倒しているってことなのに、なんでなんの情報も渡してくれなかったんだ)

 今なら、物語で生贄に捧げられる人間の気持ちがわかってきた。と、若干の現実逃避をしつつ、いざノーシの目前。

『ブヒッ』
「匂いで気づくって、ズルいだろ」

 背後からブスリと剣を突きたててやろう、という作戦は儚く散った。

 互いに向き合う。

「こ、こいよ」

 自信のなさが、膝を震わせる。
 人間相手であれば間違いなく笑われていたであろう迫力のない威嚇をするが、ノーシはそんな軽い挑発に乗ってくれた。

『ブィーッ』
「避ける。避ける。ふっ」

 冷静さを欠かないために心の中で唱えようと思っていた言葉が、つい口に出てしまう。
 後はそこまで難しくない。サルイとの戦闘を思い出し、踵を返し、剣で薙ぐ。

 と、順序立てながら視線を移した時だった。

「いっだ!」

 あろうことか、ノーシが和昌の腹部へ突進してきたのだ。
 そのまま攻撃を食らい、後方に1メートルほど突き飛ばされて臀部を地面へ強打する。

「嘘だろ」

 どこを抑えたらいいのかわからないまま、できるだけすぐに立ち上がり、剣を構え直す。
 そのおかげ、ノーシの追撃を剣で受け止めることができたのだが……サルイとはまた違った、下の歯から伸びる2本の牙が剣を通さない。

「くっ……」
『ブーッ』

 実力が拮抗した勝負。
 先に手負いとなってしまった和昌は、空いている左手も使って剣に力を込めるもジリジリと後方へと押し込まれていく。
 負けじと歯を食いしばり、腕と足だけではなく全身に力を込める。しかし、踵が土を盛り上げる勢いは止まらない。

(俺、こんなみたまんま猪に負けるのか……? クソッ)

 悔しさが込み上げてくる。
 緊迫する状況。だからこそ、逆に思考が徐々にクリアとなっていく。

(あれ……そもそも、こんな真っ直ぐしか突っ込んでこないようなモンスター相手に、真正面から戦おうとしているんだ。サルイとの戦闘をした時、こんな戦い方はしていなかっただろ)
「すぅーっ――はぁっ!」

 和昌は体を右に流し、その勢いで剣を薙ぐ。
 攻撃がノーシの口横から臀部まで一線に入り、互いの位置が完全に入れ替わった。

 しかし安堵してはいけない。
 数秒前の反省を生かし、すぐに反転したがノーシの姿は既になく、魂紅透石が地面に転がり落ちていた。

「勝った……」

 もはや痛みより安堵が全身を支配し、膝から崩れ落ちる。

 そして近づいてくる2つの足音。

「すっごい! ちゃんと勝てたねっ」
「本当に凄い戦いだった」

 真綾からポーションを手渡され、和昌は受け取る。

「そしてごめんなさい」
「出会った時の戦いっぷりから、ちょっとふざけて疑ってた。ごめんなさい」
「……いいよ。でも、これでわかったでしょ」
「うん。ちゃんと……いや、必死に戦ってた。勝つために」
「戦闘中に成長してた。あんな姿を見せられたら疑うことなんてできない」

 ポーションを飲み干し、呼吸が整ったところで真綾から手を差し伸べられる。

「ここから先は、みんなで戦っていこう」
「それで頼む」
「私達も気を引き締めていかないと」
「うん。元はと言えば、私達の不注意であんな場所まで進んじゃったんだから。ちゃんと反省しなきゃだね」
「だけど、俺も戦わせてくれ」

 頭と体の熱は冷め始めていても、心の火は灯ったままだった。
 初めての死闘を繰り広げ、内なる本能が沸々と湧き上がり始めている。

 かわいい女の子を前にしてカッコつけたいわけでも、惨めな姿を晒すのが嫌だというわけでもなく。

 ただ純粋に――強くなりたい、と。
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