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第三章
第16話『小さい頃の憧れと今現在』
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腰を下ろした一行は、まず深呼吸をする。
ここは公園の一角に設置してある、中央に四角いテーブルと対面に2人ずつが腰を下ろせるベンチが備え付けてある休憩所。
ちょうど木陰に入る場所になっていた。
「――はぁ~。不思議な感じ~」
「ね。ここがダンジョンの中だっていうことをつい忘れちゃう」
「だよなー。こんな公園だって、普段から視界に入ることなんてないし」
「それに関しては私も同感。太陽の光はないけど、天井に埋まっている鉱石みたいなのが良い感じに光っているし。反射してるのかな?」
芹那の発言後、3人は事実を確認すべく、等間隔に隙間が空いている木の屋根へ目線を上げた。
「たしかに、どういう構造になってるんだろう」
「さすがに雲はないね。ということは、雨も降らないって感じかな」
「いろいろとスゲー」
まるで別世界に来てしまったかのような感覚に陥っている一行であったが、真綾が話題を切り出す。
「ねえねえ、みんなってどうして探索者になろうと思ったの?」
「急にどうしたんだ?」
「これといって理由があるわけじゃないけど、なんとなーく気になって。こういう話をするタイミングってあんまりなかったし、親睦を深めよーう――じゃ、ダメかな」
「いや、全然ダメじゃないけど。だけど1つだけ意見したいのは、こういう話をするタイミングはあったよな?」
和昌は、自身の家へ強引に押し寄せられた挙句、まさかのお泊り会という行事まで発展してしまった件を思い浮かべながら言葉を強調する。
当然、真綾含む3人は思い当たる節しかないため、咄嗟に遠くへ目線を移す。
「な、なんのことかな~。ね、天乃、芹那?」
「え、ええ」
「そうねー、なんのことだろー」
そのあからさまな態度を前に、和昌は「こいつら確信犯だろ」と心の中で呟きながら目を細めた。
「まあいいさ。じゃあ俺からでいいか? たぶん、一番つまらない動機だから」
「そうなの?」
「ああ」
当然、隠すところは隠す前提で。
「まず初めに、お金に困ってしまったから。というのも、学校を卒業した後にアルバイトをやめて働くぞーってなた矢先、働けなくなった。アルバイト先に戻ろうかと考えたけど、そこも閉店してしまって働き口がなくなった。結果、探索者として働くことになった。てな感じ」
「なるほどね~。でも、最近だとそういうのが少なくないよね~」
「他の人たちはわからないけど、自分のタイミングで稼げるし、面接はやらなくていいし履歴書の記入とかしなくていいし志望動機を考えなくて済むからな」
「うんうん。しかも、人生大逆転、一攫千金だしね~」
「夢みたいな話にしか聞こえないけど、自分がその道を辿りつつあるからな。本当、人生っていうのはどこで何が起きるのかわからないもんだ」
和昌は「この出会いもまた、財産だ」と、カッコつけた言葉を使おうとしたが、どうにも急に羞恥心が込み上がってきてしまい心の中だけで収めることにした。
「その流れだと、次は私でもいいかな」
と、芹那が切り出す。
「そういや、同じ学校だったのに全然知らなかったな。芹那が探索者になってたなんて」
「まあね。理由を聞いたら納得すると思うわよ。そこまで聞こえのいい話じゃないけど」
「お、おう」
芹那の表情が少しだけ暗くなったのを感じ、和昌は茶化そうとしていたのをやめた。
「結論から言うと、お金のため。これを聞いたら和昌は察すると思うけど、私も高校生のときから1人暮らしだったの」
「そういやそうだったな」
「和昌と違って、学費まで全額自分で払わなくちゃいけないわけじゃなかったけど。私の場合、生活費と家賃代、その他は自分で稼がなくちゃいけなかったの」
「なるほどな」
「随分と他人事じゃない。カズは、通常のアルバイトだけじゃなくて単発のやつだってやってたりしてたでしょ」
「それはそうだけどさ、それを今言う必要はなくない?」
「……そうね、それはごめん」
「おい、深刻そうに謝るなよ。いつもみたいに跳ね返せって」
と、和昌は罪悪感から咄嗟に出た言葉であったが、そういう雰囲気の話をしていたことを思い出す。
「まああれだ、お金ってのはいつだって必ず必要になってくるものだからな」
「そういうことね。という感じで、私の話は以上」
「こう、なんというか。私はここまで全部受け身だったから、話を聞いている感じ、全然気軽な話じゃなかったよ」
「うん~っ。私、変な話題で話をしちゃってご~め~ん!」
「いやいや別にいいって。今となっては笑い話だからさ、な? 芹那」
「うん……まあ、そうね。2人とも、気にしなくていいから」
話題を提供した側と話をしてしまっ側の両者に罪悪感が芽生えてしまい、どちらとも気を使えばよかったと後悔の念に苛まれてしまった。
「じゃあ次は、明るい話題だと思う私が」
天乃は咳払いをし、これから自分が話す内容は本当に明るいものかどうかを確認――し、大丈夫だと自信をもって言葉を続ける。
「正直、誰かに話をしたら恥ずかしいことだってのはわかってるつもり。こんなクールを気取っている感じに見えて、ね」
「その前置き、俺たちに気を遣って自虐気味にしなくていいからな?」
「いいの、私の話も聞いたら納得するから」
「お、おう」
今度は、少しだけ気恥ずかしそうな気配を感じ、ほんのりと頬が赤く染まり始めているような感じがしたから、天乃の言葉を止めないよう和昌は口を閉じた。
「――がれたから」
「ん、今なんて?」
和昌は、天乃の出鼻を挫くつもりはなかったが、急に俯いて小声になったものだからつい聞き返してしまった。
「ゲームとかアニメの世界に憧れたから」
「……」
完全に頬が、いや――耳まで真っ赤になっている、それはもう珍しい天乃の姿を前にいろいろと一同は察した。
「ああいう、現実離れしたファンタジーな政界に憧れて、私もあんな世界を体験してみたいなって思うようになったのがキッカケなの」
「ま、まあ。別にそれが恥ずかしいってわけではなくないか? 全員がそうってわけじゃないだろうけど、少なからずそう言った世界に憧れを持つ人間は居ると思うけど」
「そうね。私だって、この世界に入ってみたいなって思ったことは何度もあるし」
「そうそう。そんで、妄想するんだよ。ノートとかに手書きしちゃってさ。ゲームの中に入ったら、自分ならこんなステータスかな、どんな職業で上を目指そうかなって」
和昌と芹那は、身に覚えのある経験を並べてフォローをする。
どっちに転ぶか、その後のことも考え始めたときだった。
「――そうだよね、そうだよね!」
まさかのまさか、急にイメージが壊れるほどテンションが爆上がりし始める天乃を前に、全員が驚愕を露にする。
「ど、どうしたの天乃!?」
「おい、急にどうした」
「天乃……?」
「いやさ、ずっとこんなことを考えるのは私だけだって思ってたから。まさか、こんな身近に2人も共感してくれる人が居たなんて! 嬉しいの! 私、とっても嬉しいの!」
テンションどころか声色も明るく、ハキハキと言葉を発し始めるものだから、今までのクールな印象はどこかへ飛んで行ってしまった。
「あ――か、勝手に独りで盛り上がっちゃってごめん」
と、一瞬で我に返ってしまった天乃。
しかし、完全に取り残されてしまった感覚に陥っている3人は、『今のは現実だよね?』と確認するために目線を交わす――も、今起きたことは現実も現実。
頭からプシューッと上記が抜けていく絵が幻覚として見えるぐらいには、天乃は未だに首から耳の先まで赤く染まっていた。
「じゃ、じゃあー……最後に言い出しっぺの私が話をします!」
真綾は事実を述べつつも、天乃の熱が収まるまでの時間を稼ごうと手を挙げた。
「最初に言っておくと、暗い話でも明るい話でもないというか~なんというか~。未来の話、かな」
「ほう、それは興味深い」
「でもでも、期待はしないでもらえると話しやすいかもっ」
「了解」
真綾は「こほんっ」と咳払いをし、まぶたを閉じて――数秒後、開いた。
「私、小さいはよくお母さんとお父さんに本の読み聞かせをしてもらっていたの。極普通の童話だったり、小難しいだけどカッコいい物語だったり」
「私にはそういった経験はないけど、よく聞く家庭の話よね」
「だな。仲睦まじい感じの」
「でねでね、実は小学4年生ぐらいまでかな? ずーっとその習慣が続いてたの」
「え、何かの洗脳的な何か?」
「いやいや! その歳ぐらいまで、みんなで一緒に寝てたから。私もみんなで寝るのが好きだったから、自分の部屋があってもそうしてたの」
「なるほど、本当にいい話のようだ」
和昌は、今まであったいろいろな話から、ついここから二転三転する話が展開されるのではないかと身構えてしまったのだ。
「そこでとある英雄さんの話になったんだけどね。私、初めてその話を聴いて感動して泣いちゃったの。最初は両親に心配されたんだけど、感じたことを言ったら、『そのまま、人の心をわかってあげられる優しい人間になりなさい』って言われてね。私、嬉しかったの」
和昌は気が付いた、真綾の瞳に宿る希望を。
瞳に涙が溜まっているということではなく、希望に満ち溢れ、最初に言っていた通りで自分が望んでいる未来を観ているかのような。
「その英雄さんもとても優しい人で、身を挺して困っている人を助けるの。だからね、私もそんな人になりたいって思ったの。わかってるよ、『じゃあ探索者じゃなくてもいいじゃん』って。でもね、私って本当に何をしても普通なの。勉強ができるわけじゃないし、運動が大の得意ってわけでもない。それに、いざ動かなくちゃいけないとき、会社の立ち位置があったり組織のあり方みたいなののせいで誰かを助けられないのは嫌だったから」
「――いいじゃないか、真綾の動機だって立派だ」
「へへっ、ありがと。でもね、実はかなり予想外なことが起きちゃったんだよね」
「ほほう?」
「私が英雄さんみたいな人になる前に――私の前に本当の英雄さんが現れちゃったことかな」
「それは興味深い話だな」
「えー? この話の流れでそう返しちゃう?」
「こればかりは、さすがの私でも呆れる」
いつの間にか復帰していつもの天乃が、目を細めて和昌へ視線を送っていた。
「なんでだよ」
「私と天乃の絶体絶命のピンチを、和昌くんが助けてくてたよねって話だよ」
「え、ああ。そんなこともあったな」
「もしかして、私たちのことってそんな薄い記憶になっているわけ?」
「い、いや! 俺だってあのときは必死だったし、死ぬ未来だって見えていたって」
「とりあえず、少なくとも私が和昌くんとパーティを組みたいって理由も併せてわかってもらえたよね」
「私だって同じ理由。恩を感じているからってのもあるけど、英雄の傍に居たいってのは不自然じゃないはず。物語が好きなら、わかるでしょ?」
「ま、まあ? でもさ、急にそんなことを言われると恥ずかしいっていうかなんていうか……」
「カズ、観念しなさい」
「うっ」
隣に座っている芹那から、背中へ盛大な音を立てながら強烈な平手打ちを食らう和昌。
「それにしても、みんなそれぞれいろいろな想いとかを抱えてるんだな~ってのが知れてよかったと思う」
「だね。いい話題だったよ真綾」
「だな」
「でね。皆の話を聴いていて思ったんだけど、目標とかはどうなのかな~って。私は、今のところ目標は物語の英雄さんみたいになりたいって感じだけど」
「たしかにそれはそれで気になってくる話だが――さすがに、歩きながらにするか」
「だね~、喉も乾いてきたところだし」
「賛成」
「同じーく」
一同は立ち上がり、背伸びをしたり深呼吸をしたりした後、公園を後にした。
ここは公園の一角に設置してある、中央に四角いテーブルと対面に2人ずつが腰を下ろせるベンチが備え付けてある休憩所。
ちょうど木陰に入る場所になっていた。
「――はぁ~。不思議な感じ~」
「ね。ここがダンジョンの中だっていうことをつい忘れちゃう」
「だよなー。こんな公園だって、普段から視界に入ることなんてないし」
「それに関しては私も同感。太陽の光はないけど、天井に埋まっている鉱石みたいなのが良い感じに光っているし。反射してるのかな?」
芹那の発言後、3人は事実を確認すべく、等間隔に隙間が空いている木の屋根へ目線を上げた。
「たしかに、どういう構造になってるんだろう」
「さすがに雲はないね。ということは、雨も降らないって感じかな」
「いろいろとスゲー」
まるで別世界に来てしまったかのような感覚に陥っている一行であったが、真綾が話題を切り出す。
「ねえねえ、みんなってどうして探索者になろうと思ったの?」
「急にどうしたんだ?」
「これといって理由があるわけじゃないけど、なんとなーく気になって。こういう話をするタイミングってあんまりなかったし、親睦を深めよーう――じゃ、ダメかな」
「いや、全然ダメじゃないけど。だけど1つだけ意見したいのは、こういう話をするタイミングはあったよな?」
和昌は、自身の家へ強引に押し寄せられた挙句、まさかのお泊り会という行事まで発展してしまった件を思い浮かべながら言葉を強調する。
当然、真綾含む3人は思い当たる節しかないため、咄嗟に遠くへ目線を移す。
「な、なんのことかな~。ね、天乃、芹那?」
「え、ええ」
「そうねー、なんのことだろー」
そのあからさまな態度を前に、和昌は「こいつら確信犯だろ」と心の中で呟きながら目を細めた。
「まあいいさ。じゃあ俺からでいいか? たぶん、一番つまらない動機だから」
「そうなの?」
「ああ」
当然、隠すところは隠す前提で。
「まず初めに、お金に困ってしまったから。というのも、学校を卒業した後にアルバイトをやめて働くぞーってなた矢先、働けなくなった。アルバイト先に戻ろうかと考えたけど、そこも閉店してしまって働き口がなくなった。結果、探索者として働くことになった。てな感じ」
「なるほどね~。でも、最近だとそういうのが少なくないよね~」
「他の人たちはわからないけど、自分のタイミングで稼げるし、面接はやらなくていいし履歴書の記入とかしなくていいし志望動機を考えなくて済むからな」
「うんうん。しかも、人生大逆転、一攫千金だしね~」
「夢みたいな話にしか聞こえないけど、自分がその道を辿りつつあるからな。本当、人生っていうのはどこで何が起きるのかわからないもんだ」
和昌は「この出会いもまた、財産だ」と、カッコつけた言葉を使おうとしたが、どうにも急に羞恥心が込み上がってきてしまい心の中だけで収めることにした。
「その流れだと、次は私でもいいかな」
と、芹那が切り出す。
「そういや、同じ学校だったのに全然知らなかったな。芹那が探索者になってたなんて」
「まあね。理由を聞いたら納得すると思うわよ。そこまで聞こえのいい話じゃないけど」
「お、おう」
芹那の表情が少しだけ暗くなったのを感じ、和昌は茶化そうとしていたのをやめた。
「結論から言うと、お金のため。これを聞いたら和昌は察すると思うけど、私も高校生のときから1人暮らしだったの」
「そういやそうだったな」
「和昌と違って、学費まで全額自分で払わなくちゃいけないわけじゃなかったけど。私の場合、生活費と家賃代、その他は自分で稼がなくちゃいけなかったの」
「なるほどな」
「随分と他人事じゃない。カズは、通常のアルバイトだけじゃなくて単発のやつだってやってたりしてたでしょ」
「それはそうだけどさ、それを今言う必要はなくない?」
「……そうね、それはごめん」
「おい、深刻そうに謝るなよ。いつもみたいに跳ね返せって」
と、和昌は罪悪感から咄嗟に出た言葉であったが、そういう雰囲気の話をしていたことを思い出す。
「まああれだ、お金ってのはいつだって必ず必要になってくるものだからな」
「そういうことね。という感じで、私の話は以上」
「こう、なんというか。私はここまで全部受け身だったから、話を聞いている感じ、全然気軽な話じゃなかったよ」
「うん~っ。私、変な話題で話をしちゃってご~め~ん!」
「いやいや別にいいって。今となっては笑い話だからさ、な? 芹那」
「うん……まあ、そうね。2人とも、気にしなくていいから」
話題を提供した側と話をしてしまっ側の両者に罪悪感が芽生えてしまい、どちらとも気を使えばよかったと後悔の念に苛まれてしまった。
「じゃあ次は、明るい話題だと思う私が」
天乃は咳払いをし、これから自分が話す内容は本当に明るいものかどうかを確認――し、大丈夫だと自信をもって言葉を続ける。
「正直、誰かに話をしたら恥ずかしいことだってのはわかってるつもり。こんなクールを気取っている感じに見えて、ね」
「その前置き、俺たちに気を遣って自虐気味にしなくていいからな?」
「いいの、私の話も聞いたら納得するから」
「お、おう」
今度は、少しだけ気恥ずかしそうな気配を感じ、ほんのりと頬が赤く染まり始めているような感じがしたから、天乃の言葉を止めないよう和昌は口を閉じた。
「――がれたから」
「ん、今なんて?」
和昌は、天乃の出鼻を挫くつもりはなかったが、急に俯いて小声になったものだからつい聞き返してしまった。
「ゲームとかアニメの世界に憧れたから」
「……」
完全に頬が、いや――耳まで真っ赤になっている、それはもう珍しい天乃の姿を前にいろいろと一同は察した。
「ああいう、現実離れしたファンタジーな政界に憧れて、私もあんな世界を体験してみたいなって思うようになったのがキッカケなの」
「ま、まあ。別にそれが恥ずかしいってわけではなくないか? 全員がそうってわけじゃないだろうけど、少なからずそう言った世界に憧れを持つ人間は居ると思うけど」
「そうね。私だって、この世界に入ってみたいなって思ったことは何度もあるし」
「そうそう。そんで、妄想するんだよ。ノートとかに手書きしちゃってさ。ゲームの中に入ったら、自分ならこんなステータスかな、どんな職業で上を目指そうかなって」
和昌と芹那は、身に覚えのある経験を並べてフォローをする。
どっちに転ぶか、その後のことも考え始めたときだった。
「――そうだよね、そうだよね!」
まさかのまさか、急にイメージが壊れるほどテンションが爆上がりし始める天乃を前に、全員が驚愕を露にする。
「ど、どうしたの天乃!?」
「おい、急にどうした」
「天乃……?」
「いやさ、ずっとこんなことを考えるのは私だけだって思ってたから。まさか、こんな身近に2人も共感してくれる人が居たなんて! 嬉しいの! 私、とっても嬉しいの!」
テンションどころか声色も明るく、ハキハキと言葉を発し始めるものだから、今までのクールな印象はどこかへ飛んで行ってしまった。
「あ――か、勝手に独りで盛り上がっちゃってごめん」
と、一瞬で我に返ってしまった天乃。
しかし、完全に取り残されてしまった感覚に陥っている3人は、『今のは現実だよね?』と確認するために目線を交わす――も、今起きたことは現実も現実。
頭からプシューッと上記が抜けていく絵が幻覚として見えるぐらいには、天乃は未だに首から耳の先まで赤く染まっていた。
「じゃ、じゃあー……最後に言い出しっぺの私が話をします!」
真綾は事実を述べつつも、天乃の熱が収まるまでの時間を稼ごうと手を挙げた。
「最初に言っておくと、暗い話でも明るい話でもないというか~なんというか~。未来の話、かな」
「ほう、それは興味深い」
「でもでも、期待はしないでもらえると話しやすいかもっ」
「了解」
真綾は「こほんっ」と咳払いをし、まぶたを閉じて――数秒後、開いた。
「私、小さいはよくお母さんとお父さんに本の読み聞かせをしてもらっていたの。極普通の童話だったり、小難しいだけどカッコいい物語だったり」
「私にはそういった経験はないけど、よく聞く家庭の話よね」
「だな。仲睦まじい感じの」
「でねでね、実は小学4年生ぐらいまでかな? ずーっとその習慣が続いてたの」
「え、何かの洗脳的な何か?」
「いやいや! その歳ぐらいまで、みんなで一緒に寝てたから。私もみんなで寝るのが好きだったから、自分の部屋があってもそうしてたの」
「なるほど、本当にいい話のようだ」
和昌は、今まであったいろいろな話から、ついここから二転三転する話が展開されるのではないかと身構えてしまったのだ。
「そこでとある英雄さんの話になったんだけどね。私、初めてその話を聴いて感動して泣いちゃったの。最初は両親に心配されたんだけど、感じたことを言ったら、『そのまま、人の心をわかってあげられる優しい人間になりなさい』って言われてね。私、嬉しかったの」
和昌は気が付いた、真綾の瞳に宿る希望を。
瞳に涙が溜まっているということではなく、希望に満ち溢れ、最初に言っていた通りで自分が望んでいる未来を観ているかのような。
「その英雄さんもとても優しい人で、身を挺して困っている人を助けるの。だからね、私もそんな人になりたいって思ったの。わかってるよ、『じゃあ探索者じゃなくてもいいじゃん』って。でもね、私って本当に何をしても普通なの。勉強ができるわけじゃないし、運動が大の得意ってわけでもない。それに、いざ動かなくちゃいけないとき、会社の立ち位置があったり組織のあり方みたいなののせいで誰かを助けられないのは嫌だったから」
「――いいじゃないか、真綾の動機だって立派だ」
「へへっ、ありがと。でもね、実はかなり予想外なことが起きちゃったんだよね」
「ほほう?」
「私が英雄さんみたいな人になる前に――私の前に本当の英雄さんが現れちゃったことかな」
「それは興味深い話だな」
「えー? この話の流れでそう返しちゃう?」
「こればかりは、さすがの私でも呆れる」
いつの間にか復帰していつもの天乃が、目を細めて和昌へ視線を送っていた。
「なんでだよ」
「私と天乃の絶体絶命のピンチを、和昌くんが助けてくてたよねって話だよ」
「え、ああ。そんなこともあったな」
「もしかして、私たちのことってそんな薄い記憶になっているわけ?」
「い、いや! 俺だってあのときは必死だったし、死ぬ未来だって見えていたって」
「とりあえず、少なくとも私が和昌くんとパーティを組みたいって理由も併せてわかってもらえたよね」
「私だって同じ理由。恩を感じているからってのもあるけど、英雄の傍に居たいってのは不自然じゃないはず。物語が好きなら、わかるでしょ?」
「ま、まあ? でもさ、急にそんなことを言われると恥ずかしいっていうかなんていうか……」
「カズ、観念しなさい」
「うっ」
隣に座っている芹那から、背中へ盛大な音を立てながら強烈な平手打ちを食らう和昌。
「それにしても、みんなそれぞれいろいろな想いとかを抱えてるんだな~ってのが知れてよかったと思う」
「だね。いい話題だったよ真綾」
「だな」
「でね。皆の話を聴いていて思ったんだけど、目標とかはどうなのかな~って。私は、今のところ目標は物語の英雄さんみたいになりたいって感じだけど」
「たしかにそれはそれで気になってくる話だが――さすがに、歩きながらにするか」
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「賛成」
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一同は立ち上がり、背伸びをしたり深呼吸をしたりした後、公園を後にした。
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